障害者に不利な選挙制度は見直されるのか?―真山仁・おときた駿・斉藤りえ(2)
政治山 / 2016年3月25日 11時50分
政治小説の新境地を開いた人気作家と、政界に新たな息吹を吹き込む若手2議員による鼎談の後編です。『ハゲタカ』『当確師』など政治経済を扱った作品で名高い人気作家・真山仁さん(53)と、ブロガー都議と呼ばれネット世代を中心に抜群の影響力を持つおときた駿・東京都議(32)、ベストセラー自叙伝『筆談ホステス』で一躍時の人となり現在は東京都北区で区議会議員を務める斉藤りえ区議(32)が、現在の選挙制度の問題点などを語り合いました。
『筆談ホステス』著者、斉藤りえ 北区議
筆談ボードは選挙違反?
【真 山】 斉藤さんはご自身の選挙でどのような工夫をされましたか?
【斉 藤】 いろいろありましたね、地方議員は首長とは違ってチラシが配れないので、私の場合は声で考えを伝えるのは難しいです。選挙カーも使えずボードで有権者の方に伝えました。
【真 山】 印刷したチラシでなく自分で書いて見せるならよいのですか?
【おときた】 1対1でしか見せることができません。1対5とかの前でボードを使うと、文書図画の頒布になるのでアウトです。
【斉 藤】 なので、ボランティアスタッフの方と一緒に考えて、名刺の裏に筆談できる余白を作りました。それだけではなく、ボランティアスタッフのチームワークが良かったのです。同じ障害を持っている方もいらっしゃいました。有権者の方からもこのチームはすごく良いですねと言われました。ボランティアの方が私の声となって活動してくれました。
【真 山】 どういう人が投票したのでしょうか?
【斉 藤】 投票したと直接言ってくれる方には高齢の方が多かったです。あとは子連れのお母さん方です。私も子どもがいますので。
障害者差別解消法を機に公選法改正を
【真 山】 もし、『当確師』がシリーズ化できるなら、次は公職選挙法に斬り込みたいと思っています。健常者ありきのルールというのはおかしいですし、選挙コンサルが入れず全部ボランティアスタッフでやれというのも異状です。これまで公選法で問題になったのは年齢と1票の格差くらいしかありません。議員から公選法改正の話は上がらないのでしょうか?
【おときた】 手当がつく運動員は15人が上限です。斉藤さんは話せないのに手話通訳士をつけたら運動員と見なされてしまいます。マイクも使えませんしチラシも配れません。障害者のバリアフリーというのは公選法改正のきっかけになると思います。
チラシを配れないことがこんなにハンデになるとは思いませんでした。障害者差別解消法が4月に施行されますが、国内法の不備という観点から公選法にバリアフリーを入れましょう、という流れにできないかなと思います。
【真 山】 確かに、法律はそうやって変えていくのが本来の形です。斉藤さんのような方が国会議員に増えて声を挙げていけば、公選法は変わると思います。旧態依然としたものを変えるときには、正攻法で詰めるよりも、実際に不具合が出て困っている、不公平に扱われている人がいるという切り口からの方が変えやすいですから。
【おときた】 小説がきっかけで公選法の違和感に気づく人が増えるかもしれません。
【真 山】 読者からは、選挙コンサルという職業があるのを知らなかった、選挙の仕組みが初めてわかったという感想が多いです。そういう意味では、(選挙の課題について)ようやく穴を掘り始めた感じです。
ハンデを背負う当事者こそ説得力がある
【斉 藤】 どうして障害者を登場させたのでしょうか?
【真 山】 まず、何か大きなマイナスポイントを背負っている人は強くなれる。フランクリン・ルーズベルトも足が悪かったけれど、アメリカ大統領までのぼりつめました。弱さがあるからこそ強くなれるということは説得力があるし、読者は親近感を持ちやすい。今回は盤石な現職に立ち向かう設定でしたので、立候補者として納得してもらえる人物を登場させたかったのです。
黒松幸子は「障害に負けない」という意思を出しません。耳が聞こえないだけで、自分は自分の生きたいように生きています。これがさらに彼女の強さの象徴となります。
【斉 藤】 真山さんから見て、私は障害を売りにしているとか思われますか?
【真 山】 今日初めてお会いするまで、メディアを通してしか知らなかったので、そういう印象もありました。私が『当確師』を連載していたころは、斉藤さんは議員ではなかったので、立候補を知ったときには驚きました。著書も出されて知名度があったので、「そうか出るのか」と思いました。
今日、選挙活動の話をいろいろ伺って斉藤さんには国会議員になってほしいと思いました。ものごとを動かすときには「このドアを開けてください」と言う人が必要です。つまり、不便だから、不利だから変えてほしいと当事者の声を挙げなくてはならない。そうしたハンデを背負う当事者の主張は一番説得力があります。
日本は残念ながら、困っていない人のために多くのお金を使う風潮があるので、大変だと思いますが、ぜひ頑張ってほしいと思います。
鼎談を終えて、左からおときた、真山、斉藤各氏
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