オバマ大統領の広島訪問、米世論がカギ
政治山 / 2016年4月25日 11時50分
4月10、11日に広島市で行われた主要7カ国(G7)外相会合に出席したジョン・ケリー米国務長官は、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に献花し、原爆資料館を訪問しました。展示内容に衝撃を受けたと語るケリー氏ですが、コメントの端々に「個人的な見解」と前置きし、米政府として原爆投下を否定する意思がないことを示していました。
世論見極める米政府
これは、米国民の間に「原爆投下が戦争終結を早めた」という考え方が根強く、世論を刺激しないための配慮と考えられます。一方で、5月の伊勢志摩サミットに合わせたオバマ大統領の広島訪問を実現できるかどうか、世論の動向を伺っているのではないかと期待する声もあります。
ケリー氏の原爆資料館訪問に先立ってコメントした米国務省高官によると、原爆投下に対する謝罪がないことを記者に指摘され、広島の行政府や日本政府から謝罪を求める動きはなく、検討の必要がないとの見方を示した、と報じられています。
G7外相による平和記念資料館訪問と、原爆死没者慰霊碑献花(外務省ホームページより)
広島市や政府は謝罪求めるよりも平和への努力強調
原爆死没者慰霊碑には「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれていますが、「過ち」を犯した主語が明確でないという論争があります。広島市長は「誰のせいでこうなったかの詮索ではなく、こんなひどいことは人間の世界に再びあってはならない」とし、広島市の見解は「主語は人類全体」という立場です。
日本政府は2007年7月に質問主意書への答弁書で、「米国に抗議するよりも、核兵器のない平和で安全な世界の実現を目指して、現実的かつ着実な核軍縮努力を積み重ねていくことが重要である」との答弁内容を閣議決定しています。菅官房長官は4月12日の会見で、謝罪について「こうしたことは米国側が決めることだと日本は思っている」とも答えています。
米国内でも歴史認識問題は論争に
米国内でも歴史認識問題はしばしば大きな論争になります。1995年、ワシントンD.C.のスミソニアン博物館に爆撃機「エノラ・ゲイ」と被爆資料が展示されることになりました。これに対し、退役軍人団体が「日本を被害者であるかのように見せるものだ」と反発。その結果、展示の規模を縮小し、原爆被害や歴史的背景を省くことで決着し、騒動の責任を取って館長は辞任しました。現在も、その歴史的背景から破壊行為が行われないよう、厳重な監視の下で公開されています。
NYタイムズが社説で大統領の広島訪問促す
米ニューヨーク・タイムズは4月13日付の社説で、オバマ大統領の広島訪問と、核兵器のない世界の実現に向けた提案を行うよう促しています。大統領の来日スケジュールについて、米国政府からの公式発表はまだ出ていません。被爆地訪問が「謝罪した」と受け止められ、国内世論の反発がないかを慎重に見極める方針です。
<株式会社パイプドビッツ 政治山カンパニー 編集・ライター 上村吉弘>
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