経産省・制度設計時の担当者に聞いた電力改革の課題
政治山 / 2016年5月18日 11時50分
家庭向けの電力自由化は、東電福島第一原発事故後のエネルギー政策見直しの中で、(1)安定供給の確保(2)料金抑制(3)電気利用の選択肢や企業の事業機会を拡大、という3つの目的を柱にした電力改革として具体化した経緯があります。
原子力発電に頼り切っていた「安定供給」
原発事故は電力の安定供給神話を根底から覆しました。事故直後には輪番停電が行われ、夏には電力不足で熱中症が多発するのではないかとの危惧されました。その後、各地の原発が定期点検に入り、2013年に新規制基準が施行されてから昨夏の川内原発1号機再稼働までの約2年間、原発ゼロが続き、国内の電気料金は上がり続けました。
こうした状況の下、電力自由化の審議では「ベースロード電源」という言葉が頻出するようになりました。ベースロード(Base Load)は「基礎負荷」などと訳されます。原発や石炭火力、(流れ込み式の一般)水力、地熱発電など日時や天候を問わず、一定量の電力を安定的に低コストで供給できる電源を指します。
政府は2014年4月、原発を「重要なベースロード電源」であるとするエネルギー基本計画を閣議決定しました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)でも「温室効果ガスの排出削減に貢献できる」としてベースロード電源に位置づける一方、「リスクや障壁がある」とも明記しています。
「料金抑制」に欠かせない安定供給
安定供給とともに、料金抑制は消費者の日常生活に欠かせません。供給が安定することで健全な価格競争が行われるという点で、両者は一体不可分と言えます。電力需給に余裕がなければ、競争は時に価格高騰を招くからです。
2000年夏から翌年にかけて発生した米カリフォルニア州大停電では、供給がひっ迫する中で、小売料金が凍結されたため、発電事業者が供給を続けられなくなり、混乱が生じました。
消費者の選択肢を拡大
電力自由化は、消費者が電気事業者や電気の種類を自由に選べる一方で、企業が電気事業に参入する選択肢も与えています。これにより、新たなビジネスチャンスや再生可能エネルギーの開発促進が期待されます。
福島第一原発の事故によって、原発頼みのエネルギー政策はリスクが大きいと分かり、定期点検で国内の全原発が稼働停止する中、石炭火力への負担は増大しました。一方で、地球温暖化防止の観点から、温室効果ガスの排出を抑制する再生可能エネルギーの開発が課題となる中で、太陽光やバイオマスなど開発途上にある新エネルギーは、原発の供給不足を補う役割を期待されています。
新エネルギーの位置づけ(資源エネルギー庁のHPより)
とはいえ、太陽光や風力は安定供給の面で劣ります。これらを取り入れて安定供給を実現するには、バックアップ火力など別の発電所が待機し、発電量の変動を補完しなければいけません。これには多額のコストがかかり、今後自由化が進めば、供給安定のコスト負担が問題になってくると考えられます。
担当者「イノベーション促進も目的の1つ」
経済産業省で電力自由化の制度設計に携わってきた元担当者は、今後の課題を「改革の目的である安定供給の確保、電気料金の最大限の抑制、事業者の事業機会や消費者の選択肢の拡大等がきちんと実現するようにしていくこと」としたうえで、自由化による再生可能エネルギーの技術進化について「イノベーションを促すことも今回の改革の目的の1つ」と前向きに述べています。
また、原発事故後から値上がりし続ける電気料金について、「料金水準は燃料費や税・賦課金など、様々な要素で決まりますが、改革そのものは電気料金の抑制に資するものだと考えます」と、自由化を前向きに捉えています。
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