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18歳選挙権を「ブーム」で終わらせるな~ステップ・バイ・ステップの主権者教育を始めよう~(前編)

政治山 / 2016年6月16日 11時50分

70年ぶりの引き下げで新たな有権者240万人

 2016年6月19日、改正公職選挙法が施行され、選挙権年齢が「20歳以上」から「18歳以上」に引き下がる。いわゆる18歳選挙権の導入であり、これまで選挙権を有していなかった18歳と19歳の約240万人が投票に行くことができるようになる。選挙権年齢の引き下げは1945年以来70年ぶりで、国政選挙の他、地方自治体の首長選挙や議会選挙等にも適用される。

NPO法人Rightsと与野党国会議員が18歳選挙権の実現を祝った
2015年6月、筆者が副代表を務めるNPO法人Rightsと与野党国会議員が18歳選挙権の実現を祝った

広がる主権者教育、学校での政治活動も一部解禁へ

 同法は、2015年6月に参議院本会議において全会一致で可決・成立した。それから1年の間に、18歳選挙権に向けた様々な取り組みが、まさに急ピッチで行われている。

 例えば、新しく有権者となる若者の政治リテラシーや社会参画意識を育むために「主権者教育」が推進され、2015年9月には文部科学省と総務省が高校生向け副教材「私たちが拓く日本の未来」を作成し、昨年度末までに全国の高校に配布した。

 また、文部科学省は、高校生の政治活動についても、全面的に一律禁止していた通知を見直し、一部解禁する新たな通知を出した。これらを受けて、学校現場では主権者教育や高校生の政治活動に関する研修会が多数開かれている。

 一方、18歳選挙権の当事者たる高校生・大学生も、NPOや青年会議所、選挙管理委員会等と連携したり、自ら学生団体を立ち上げたりして、主権者教育に関するイベントや授業実践等に取り組んでいる。

ブームに乗ってイベントや出版物が続々

 各政党も、国政選挙として初めて18歳選挙権が適用される7月10日投開票の第24回参議院議員通常選挙を念頭に、若者の声を汲み取ろうと「ニコニコ超会議2016」等のイベントや討論会等に参加している。

 また、国立国会図書館サーチを用いて「18歳選挙権」で検索すると、関連する書籍や論文等の約半数がこの1年間に新たに所蔵されており、出版物も増えていることがわかる。

 さらに、報道各社も相次いで18歳選挙権の特集を組んだり、著名人を起用したキャンペーン等を展開している。まるで、社会全体が「18歳選挙権ブーム」の様相を呈しているようだ。

全国に配布された高校生向けの主権者教育副教材
全国に配布された高校生向けの主権者教育副教材

参院選が終わればブームも終わる?

 参院選を目前に控え、若者の政治参加には一層の注目が集まっているが、筆者はこの状況に一抹の不安を抱いている。それは、この1年間の「18歳選挙権ブーム」は、参院選の終わりとともに収束してしまうのではないか、ということである。

 筆者は、学生時代から約10年間にわたり「若者の政治参加」に取り組んできた。18歳選挙権についてはNPO法人Rightsの副代表理事として法改正に関わり、主権者教育については神奈川県立湘南台高校のアドバイザーを務める等、国内外の教育現場で研究・実践を行ってきた。

 この1年間は、そうした経験を踏まえ、学校や地方自治体に講演等で度々呼んでいただき、取材や寄稿の依頼数も過去最多となっている。その意味では、筆者自身も「18歳選挙権ブーム」の渦中にいるのかもしれない。

有権者の無関心・失望と向き合い、政治参加へ地道な努力を

 しかし、10年間の歩みを振り返ってみると、若者の政治参加や主権者教育に関する道程は決して平坦なものではなかった。政治的なテーマを扱う主権者教育は、国内の学校現場で敬遠される傾向にあること。また、若者の政治参加が社会的な話題になるのは選挙の時ばかりで、大切だと分かっていても日常的に関心が集まるテーマではないこと。そして、政治への失望感が高まれば高まるほど、「どうせ政治に参加しても変わらないのだから、主権者教育なんかやる必要はない」というニヒリズム(冷笑主義)が社会に蔓延しがちであること。こうした課題に向き合い、時にはその前で立ち竦み、自らの非力を嘆きながら、それでもこのテーマは「日本の民主主義を成熟させていくために不可欠である」という強い信念が、研究と実践に対する情熱を支えてきた。

 その中で、若者の政治参加や主権者教育は、テレビ等で取り上げられるような華やかなところにあるのではなく、学校や地域のような地道で根気強い努力が求められるところにあるということを痛感している。後編では、その研究と実践からみた主権者教育のあり方について紹介したい。(後編へ続く)

公立高校で18歳選挙権について講演する筆者
公立高校で18歳選挙権について講演する筆者

<松下政経塾政経研究所研究員 西野偉彦>

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