NY視察したLGBT学生団体の代表が寄稿
政治山 / 2016年6月28日 11時50分
数年前まで言葉の意味も侵透していなかったLGBT(性的少数者)の言葉をメディアで見かけることが多くなりました。地方地自体では、渋谷区が条例で、世田谷区が要綱で、同性カップルを公認する証明書や宣誓受領証を発行しています。
国政では、2004年7月に施行された「性同一性障害者特例法」により、特定の要件を満たした場合に、法令上の性別と戸籍上の性別記載を変更できるようになりました。しかし、欧米先進国の多くは法的性別そのものの訂正・変更を認めており、配偶者控除や贈与・相続に関わる権利を認めています。
2013年に創設、毎年NYへ視察団
先進国の中で日本の取り組みが進んでいるとは言い難い状況の中で、「LGBT Youth Japan」は2013年2月、早稲田大学の学生を中心に創設され、LGBTの理解を深めるため、海外視察や情報交換を行っています。毎年、ニューヨークへスタディーツアーを実施し、学生ミーティングを主催しており、今年3月にも3回目となるツアーを行い、知見を広めてきました。
先般、フロリダ州のLGBTが集うナイトクラブで銃乱射事件が起こり、社会に衝撃を与えています。「LGBT Youth Japan」の代表者・渡邊翔氏から現在のLGBTを取り巻く環境やスタディーツアーについて寄稿していただきました。
◇
◆LGBTスタディーツアー in ニューヨークから得られるもの◆
(文責:渡邊翔)
LGBT Youth JapanはLGBTなど性的マイノリティを取り巻く社会問題に関心をもつ若者に、海外LGBT支援団体での経験や、国内外での学びと発信の機会を提供し、新しい視点をもって日本のLGBT問題を変える一端を担う人材を育てることを目指し、2013年に設立しました。
文字情報だけで得られないものをツアーで
LGBT Youth Japanのこれまでの主な活動としては、アメリカ・ニューヨークにある様々なLGBT団体を訪問し、文字情報からだけでは得ることができない人々の気概を肌で感じ、自らの活動につながる経験とするための『LGBT スタディーツアー』を行ってきました。
あらゆる立場の人々が集える場所になることを目的に設立されたMetropolitan Community Churchにて(2016年3月13日、NYで)=LGBT Youth Japan提供[/caption]
「性的マイノリティに対する活動を考えるうえで、どうしてアメリカなのか」という質問があると思います。たしかにオランダなどのヨーロッパ諸国のほうが、当事者を支える制度は法律というハード面から人々の内面といったソフト面でも充実していると言えます。しかし、アメリカだからこそ見えてくるものも多くあると私たちは考えています。
昨年6月、アメリカ全州で同性婚認める
アメリカは良くも悪くも、世界に様々な側面を提供しています。2015年6月26日にはアメリカ全州で同性婚が認められるようになりました。宗教観や政治観などからこのような結果に至るまで長い時間がかかりましたが、性的マイノリティの権利獲得は決して絵空事ではないのだということを示してくれました。
一方で、それから約1年後の2016年6月12日には、死者49名・負傷者53名を出すヘイトクライムが起きてもいます。この事件は、性的マイノリティに対する偏見や差別がアメリカ社会にいまだに根強く存在していることを示すだけではなく、「性的マイノリティであること」を根拠に人を傷つけることを正当化する人がいるという悲しい現実も示しています。
希望と絶望の過渡期にあるアメリカ
このように希望と絶望が入り交じるアメリカは、性的マイノリティにとっては過渡期にあります。しかし、そのようなアメリカで学ぶことにこそ、これから過渡期を迎える日本での活動の手がかりを得ることができると考え、これまで3回のニューヨークでスタディーツアーを行ってきました。
団体を設立した当初に比べると、今の日本における性的マイノリティを巡る状況は目まぐるしく変化しました。例えば、渋谷区でのパートナーシップ条例の策定により、ニューヨークで訪問した同性婚カップルの存在は絵空事ではなく、いつか実現する現実的なものに感じ取ることができました。また、各メディアが実施している性的マイノリティ当事者の割合や認知度が増加していることは、日本国内においても性的マイノリティに関して話しやすい空気が生まれていることの現れだと考えています。
LGBTが一種のブームで扱われている懸念も
一方で、一種の「ブーム」に近い形で、性的マイノリティが扱われているという意識を拭い去ることはできません。もちろん、「勢い」という意味ではこのような側面も必要です。しかし、メディアや人々の認識の中には「ブーム」に乗ろうという気持ちが先走り、誤解や偏見に基づくままで性的マイノリティを描き理解したふりをしているという事実もあります。実際に、性的マイノリティを「笑い話」にしたり、「(異性愛者に比べれば)異常な形ではない」と発言する人々もいます。このような側面を乗り越える「息の長い活動」をしていくことを目指しては、私たちの団体ではスタディーツアーを行っています。
ニューヨークでのスタディーツアーでは、Googleといった企業内での性的マイノリティへの取り組みや、The Trevor Projectなどのアメリカ全土で性的マイノリティが直面する問題に取り組む団体を訪問しました。しかしそれは、単に訪れて情報を得ることが目的ではなく、日本で活動を進めるうえでヒントとなる先進的な取り組みや運営方法を学ぶことを目的としました。
アムネスティ・インターナショナルと並び世界をリードする人権NGOの1つ、Human Rights WatchのNY本部にて(2016年3月14日)=LGBT Youth Japan提供[/caption]
視察で得た幅広い知見をもとに、今後の変化に立ち向かいたい
また、スタディーツアーを現状の「ブーム」のように「消費」として終わらせず「生産」的な活動にしていくために、LGBT Youth Japanでは『国内外での学びと発信の機会を提供し、新しい視点をもって日本のLGBT問題を変える一端を担う人材を育てる』ことも行ってきました。そしてこれまでに、ツアー渡航者は自らの通う大学で性的マイノリティに関する啓発を進めるパレードの実施や、団体の設立などを行っています。
性的マイノリティを取り巻く日本の状況は今後、より多様化・複雑化することが予想されます。もしかすると、今回アメリカで起きた悲劇が起きてしまう可能性もあります。しかしそのような中でも、国内外の幅広い知見をもとに困難に立ち向かうことができる人材を育成していくことができれば、どのような困難も少しずつは変化していくことができると考えています。今後もスタディーツアーなどを通じて、日本国内で活躍できる人材育成に取り組んでいきたいと考えています。
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