政党名を隠して政策比較をすると、「政策」と「政党」は一致するのか?
政治山 / 2016年7月13日 11時50分
18歳選挙権の導入で主権者教育が注目されていますが、その一環としてユニークな授業を実施している山梨英和大学の後藤晶助教から、ご寄稿いただきました。授業を受けた学生の声とあわせてご紹介します。
◇
筆者が担当する経済学に関する授業において、参議院議員選挙への主権者教育を目的として、政治・選挙プラットフォーム「政治山」が提供する『参議院議員選挙2016「重点政策・公約比較表」』を用いて「経済政策」についてどの政策を支持するか考察する授業を展開した。その結果、支持された経済政策は第1位が「日本のこころを大切にする党」、第2位は「日本共産党」、第3位は「生活の党と山本太郎となかまたち」の順番になり、自由民主党は第4位であった。
また、普段から自身が好印象を抱いている政党の政策であったか否かを尋ねたところ、親近感を抱いている政党の政策ではなかったとの回答が得られた。この結果は若者の投票行動は政策よりも、むしろ政党へのイメージによる可能性が示唆された。
「わかりにくさ」の壁を乗り越えて
現在、20代の政治・選挙への興味・関心が薄れている。「自由と民主主義のための学生緊急行動(SEALDs)」のような活動が行われている一方で、全般的には政治・選挙への興味・関心は高くない。例えば、2014年12月に実施された第47回衆議院議員選挙においては20代の投票率が32.58%であり、他世代に比べて圧倒的に低い投票率であり、若者の政治離れは顕著な傾向である。一方で、今回の参議院議員選挙より投票可能年齢が18歳に引き下げられるなど、10代・20代の若者に対して、政治・選挙への興味・関心を抱かせることは喫緊の課題である。
若者の政治・選挙への興味・関心が薄れる理由の一つには、政治の「わかりにくさ」がある。もちろん、興味・関心のある者は「わからない方がおかしい」「興味・関心がない方がおかしい」と思われるかもしれないが、興味・関心のない者や政治が自身の生活に与える影響を実感したことがない者にとっては、なかなか縁遠いものである。
今回、この「わかりにくさ」の壁を乗り越え、興味・関心を抱いてもらうために政治・選挙プラットフォーム「政治山」が提供する『参議院議員選挙2016「重点政策・公約比較表」』を用いた授業を実施した。特に、筆者が担当する科目は経済学の講義であるために、経済政策に焦点を絞って学生たちの考える意見を聞き出した。
参考:参議院議員選挙2016「重点政策・公約比較表」
http://seijiyama.jp/article/special2/saninsen2016/party_hikaku_saninsen2016.html
政党ではなく政策を比較する
今回、山梨英和大学人間文化学部開講科目である『経済学I』において、2016年7月7日に『参議院議員選挙2016「重点政策・公約比較表」』の経済政策についてのみ(pdf版、p6)を取り出し、政党名を隠した上で、学生たちに(1)どの政策を支持するのか? その理由は何かを簡単なリアクションペーパーとしてオンライン上で尋ねた。
その後。(2)『参議院議員選挙2016「重点政策・公約比較表」』の全体(pdf版)を配布し、政党名などがわかるようにした。最後にはその選んだ政策が自身の普段親近感を抱いている政党の政策であったか否かについて尋ねた。そして、全体に関する自由記述を求めた。
1位「こころ」2位「共産」、自民は4位に
図1には、学生の回答傾向について示している。(1)の問題には51名が回答している。この結果を見ると、第1位は「日本のこころを大切にする党」、第2位は「日本共産党」、第3位は「生活の党と山本太郎となかまたち」であり、参院選で圧倒的な支持を受けた自由民主党は第4位であった。
第1位を選んだ理由を見てみると、「政策に具体性があって、経済の発展から国民の健康、安全まで幅広い政策がなされているから」「多くの事柄が書かれているから。何を目指しているのかが分かりやすい」などが挙げられていた。
第2位については「税金の使い方がしっかり記されているから。日本は特に子育て、子供への支援が少ないと思うから、もっと子育てをしやすい環境、子育てしながら働ける環境があるべきだと思うから」「【人間らしく働けるルールを】というのになんとなくひかれたから」。
第3位については「「可処分所得1.5倍」と目標が具体的だから。子どもについて考えているから」「一家ごとの所得が増えれば、自然とお金が回るようになるのかなと思うから」などが挙げられた。
親近感を抱いている政党とは違う結果に
続いて、(2)の問題については46名が回答している。図2には「経済財政」政策で選んだ政党と普段親近感を抱いている政党が同じかどうかを尋ねている。このグラフからは大きく2つのことがわかる。第一に、「わからない」という回答が最も多かったことより、学生は普段から政治や選挙に対して興味・関心を抱いていない可能性が高い。第二に、選んだ政策が普段親近感を抱いている政党のものではないと答えている学生が多いという点である。この点についてはあくまでも「経済財政」政策に着目して選んでもらったものであり、その他の政策も含めたトータルで考えると異なる結果になるのかもしれない。しかしながら、我々の生活に直結する部分が大きい経済政策において、これだけ明確な違いが出るというのは、驚くべき結果である。
他にもさまざまな意見が得られた。やはり、政治・選挙は「イメージ」の影響が大きいのであろう。ある学生は「いくら政策が良くても、ネーミングで損をしている政党が多いと思った」という意見を挙げていた。十分に政策の内容について考える機会がなければ、耳に入ってくる政党名だけで判断する、すなわちいわゆる突飛な名前付けをするDQNネームのような伝統的なイメージがないものを避ける傾向はあるのかもしれない。
具体的な政策と客観的な比較が必要
また、今回『参議院議員選挙2016「重点政策・公約比較表」』は非常に有用なものであるとの声も聞こえてきた。学生からは「生まれた時から当たり前のようにニュースが流れていてそこで苦手意識ができ、授業で経済を習っても苦手意識が抜けきらなくて理解できなかったので、今回の経済財政のまとめのように一覧になっていると、苦手意識があるわたしみたいな若者も少しは興味を示すのではないかと感じた」という声が聞かれた。このような、具体的に論点を整理し、発信していくプラットフォームの形成は、特に若者に対して政策や政治を身近なものとして考えるために重要な役割を担っていくと考えられる。
若者は政党に対するイメージ、もしくは消費税増税などの目先の政策に目が向く傾向があるかもしれない。しかしながら、じっくりと中長期的な政策についても検討する機会と、そのためのツールを適切に与えることによって、政策本意の政治・選挙行動へとつながっていくと考えられる。すなわち、若者の政治・選挙への興味・関心を引き出すために政党は具体的な政策を提示し、適切な主権者教育を展開していく必要がある。これらによって政治への考え方・捉え方が変わっていくであろう。
<山梨英和大学人間文化学部助教 後藤晶>
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