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「専決処分」は免罪符なのか―小泉一真 長野市議が質した“駆け込み随意契約”

政治山 / 2016年9月13日 11時50分

 独占禁止法に違反し公正取引委員会から課徴金納付命令を受けた企業は、入札案件への参加資格を一定期間喪失する指名停止処分を受けます。長野市ではこの課徴金納付命令から指名停止までの20日間で7件1億1千万の随意契約を交わし、うち1件は市長の専決処分で予算を確保して行われていました。長野市でいったい何が起きているのでしょうか。9月議会の冒頭で質疑に立った小泉一真市議にご寄稿いただきました。

長野市議会 本会議場
休憩中の長野市議会 本会議場

専決処分は「即日即決」が当たり前

 今月1日の朝、加藤久雄 長野市長は、とまどっていた。無理もない。招集した9月議会が、初日から本会議をストップしたのだ。そんな経験は、市長にはなかった。「暫時休憩を求める」という議員の動議にも、間もなく再開し筋書きどおりの議事進行に戻ると信じただろう。

 専決処分の承認なんて、提出すれば即日即決。今まで議会は委員会にかけたことも、なかったではないか。だからか、全ての議員が足早に議場を後にし、部下の大半が廊下で談笑を始めても、市長はまだ議場の自席にとどまっていた。しかし、普段は話の輪の中心にいる加藤市長に話しかけることのできる部下は、このときいなかった。

 「指名停止前の駆け込み契約」と、後に朝日新聞(長野版)が報じることになる問題の、これが始まりである。議会運営委員会の後、本会議の再開は午後2時を過ぎ、それから間もなく所管の委員会への付託が異議なく決定されることになる。

長野)「指名停止前の駆け込み契約だ」長野市議会で批判(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASJ995HPDJ99UOOB00V.html

指名停止直前だから「時間的余裕がない」?

 専決処分とは、「本来、議会の議決・決定を経なければならない事柄について、地方公共団体の長が地方自治法(昭和22年法律第67号)の規定に基づいて、議会の議決・決定の前に自ら処理すること」(ウィキペディア)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%82%E6%B1%BA%E5%87%A6%E5%88%86

専決処分の現行制度
(総務省資料「地方自治法の一部を改正する法律案の主な項目について」を元に小泉作成)

 この日に提出された国民健康保険特別会計予算の増額補正は、その決定は本来議会の専権事項ではあるものの、「議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がない」ための、やむを得ない専決処分であるとの説明だった。

 東京電力発注のシステム納入をめぐる談合の疑いで昨年5月、富士通株式会社は、公正取引委員会の立ち入り検査を受けた。今年5月には、独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会が処分する方針を固めたと報道され、7月12日には課徴金2億8510万円の納付命令及び排除措置命令が出されている。この処分を受け8月1日、長野市も富士通に対し指名停止を措置した。

 実はその直前の7月29日、長野市は情報システム改修業務を富士通に一者随意契約(特命随意契約)で発注しており、議会はその点を問題視している。専決処分は、この契約の予算を確保するためなのだが、その前日28日に市の審査委員会は指名停止措置の方針を決めていた事実が議案質疑で明らかになった。指名停止の直前と認識しながら、駆け込みで契約したということになる。

7件1億1千万円の随意契約、企業との関係は健全か

 市の当初の言い分はこうだった。平成30年度の国民健康保険制度改正に先立ち、国からの照会をとりまとめるため、長野県から市にあてて今年8月10日を期限とする照会があった。期限内に市が回答するため、緊急に情報システムの改修が必要だった――その主張は事実を含むとしても、一面の事実しか伝えていない。議会には、指名停止の「し」の字も伝えられていなかった。説明責任はどこに行ってしまったのか。

 この補正予算に係る契約は氷山の一角に過ぎないことも、議案質疑で明らかになった。公正取引委員会の処分から、それを受けての市の指名停止までの20日間ほどの期間に、7件総額1億1千万円を超える随意契約が、富士通との間に結ばれていたのだ。

 全てが既存の富士通との契約関係をベースとした情報システム改修等で、随意契約とする一定の理由はあると思われるものの、このような駆け込み契約は、指名停止措置を形骸化するものでないか。長野市と富士通の関係は緩んでいないか。

富士通との随意契約の経緯まとめ

説明責任を果たさずして信頼関係は成立しない

 長野市議会では、専決処分の承認案件が提出された場合、委員会付託することなく本会議で採決することになっている。この専決処分も、本会議が始まるまでは無風と思われていた。議会と市長との信頼関係と、言えなくもない。おそらく専決処分に対するスタンスは、程度の差はあるにしてもどの地方議会でも似たようなものではないか。

 だが、行政の説明責任が十分に果たされない場合、議会は市行政に不信の念を抱かざるを得ない。市長の専決処分は法が認める権限ではあるものの、議会の議決権と競合する。だからその行使は、自ずと慎重であるべきなのだ。加藤市長は今回、それを疎かにしたとしか言いようがない。専決処分とは、議会が与える免罪符ではないのだ。市民の納得する説明を求めていきたい。

<長野市議会議員 小泉一真>

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