改修費用はひとり5万円!「第二のパルテノン多摩」は全国に―遠藤ちひろ多摩市議
政治山 / 2016年9月23日 11時50分
全国各地の地方自治体がいま、高度経済成長期に建設された公共施設の老朽化に伴い改修や建て替えの対応を迫られており、総務省も2014年に「公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進について」の通知を出して、公共施設等総合管理計画の策定に取り組むよう求めています。しかし、厳しい財政状況と人口減少等により今後の利用需要の変化が考えられる中で、どういった対応が望ましいのか試行錯誤が続いています。そこで、複合文化施設「パルテノン多摩」の改修問題に直面している東京都多摩市の、遠藤ちひろ市議にご寄稿いただきました。
1.ひとり5万円。4人家族なら20万円の改修費
「いくらかかるの?エッ、80億!?」「改修に一人5万円なんて冗談じゃないよ」
これらは改修に80億円かかると報じられたパルテノン多摩について、街頭でテレビ朝日のインタビューに答えた多摩市民の声である。80億円かかるという金額もさながら、そもそも改修自体を知らないという声も多かった。
パルテノン多摩は、東京都多摩市にある市立の文化施設。多摩ニュータウンのシンボル的な施設で、1987(昭和62)年にオープンした。1400人収容の本格的な多目的ホール等があり著名な芸術家やミュージシャン、劇団などが招かれる。多摩ニュータウンにおける文化の殿堂となり、丘の上にある建物がギリシャのパルテノン神殿と似ているため、パルテノン多摩と名付けられた(wikipediaより。一部改)
開館から30年を迎えたパルテノン多摩にとってどのような改修方式が望ましいのか。老朽化するインフラが増える中で、「いくらまでなら負担しうるか」という点について市民を巻き込んだ議論が不可欠なのだが、これまでのところは巨額の改修費だけが目立ち、持続可能な公共施設を維持するための議論が行われていない。
パルテノン多摩外観
2.火を噴くまでの経緯
多摩ニュータウンの中心に位置する多摩市は人口15万人弱。財政規模は年間540億円程度あり、比較的安定した自治体である。新宿・渋谷へも電車で30分弱と立地にも恵まれ、戦後爆発的な人口増加を遂げた。国費を投入してのニュータウン開発により、コミュニティセンターや学校・劇場など都市インフラが高度に整備されたものの、そのハイレベルなインフラの維持費が市政課題となっている。
なかでも最大のコストを要するのが前述のパルテノン多摩。建設費80億円に加え、年間維持費に約5億円を必要としてきた。30年目の大規模改修の時期を迎えて、設計事務所から提示された改修費は奇しくも建設費と同額の80億円。
なぜ改修なのに新築と同じ金額がかかるのか。市議会でこの問題が取り上げられるや否や在京各メディアが取り上げはじめ、なかでも9月15日に放送されたテレビ朝日によるニュース報道には、大きな反響が寄せられた。
3.ホール激戦区、東京西部
国内の自治体数は約1700。一方、全国に「劇場・ホール」と名の付く施設は民間・公共を合わせて実に2700館を数える(公益社団法人 全国公立文化施設協会調べ)。数字だけ見れば1自治体に1館をとうに達成しており、特にバブル以降は1年に100近い劇場・ホールが作られてきた。
なかでもパルテノン多摩が位置する東京西部は、民間・公共問わず劇場やホールが集積する激戦区である。多摩センターから30分圏内に調布グリーンホール(1300席)、府中芸術の森ホール(2000席)、八王子オリンパスホール(2000席)、相模女子大学グリーンホール(1800席)、新百合ヶ丘昭和音大ホール(1300席)、など林立しており、さらに45-60分程度でサントリーホールや新国立劇場へもアクセス可能な立地である。どの劇場でも本格的な公演が開催されており、大変競争の厳しい立地である。
むろん、競争が厳しいのは悪い面だけではない。それだけの聴衆人口を抱えているということであるし、ホール同士の連携チケット企画や、連続ツアー公演などが打ちやすいというプラスの側面もあるが、これだけの競争にさられていると、受け身では生き残れないこともまた確か。他館のプログラムを調査し、ファンを増やして経営していく力とマーケティングの力が絶対的に必要になる。
「周辺地域(パルテノン多摩から15km以内)における公立文化施設立地図」多摩市ホームページより
4.「第二のパルテノン多摩」は日本中にある
昨年来、多摩市議会で常に質疑の中心に座り続けたパルテノン多摩。ついに今年3月の予算委員会では「想定されている建設コストが高額に過ぎる、改修計画や設計には市民参加が前提、多摩センター活性化の観点を強く盛り込め」という付帯決議を全会一致で可決した。つまり、現状の計画や改修予算のままでは容認しないという議会の意思表明がなされたのであり、2018年の工事着工に向けていよいよ問題は佳境を迎えている。
さて、ここまで我が市の問題にお付き合いいただいたが、実のところこのような改修の影響は多摩市という1つの自治体にとどまらない。「第二のパルテノン多摩」は全国にあるからだ。前述のようにどの自治体にも1つ以上ホールがあり、30年に一度は大改修をしなければならない。ホールだけではない。図書館も、学校も、市役所も、道路も街灯もすべての公共施設は定期的な補修費用を必要とする。一般的に公共建築物は建設コストの3倍の維持費がかかると言われている。20億円で建てた小学校であれば、建物の寿命いっぱい(約60年間)使うためにはさらに60億円のコストがかかるというわけだ。
5.ポスト東京五輪の不都合な真実
多くの自治体において市長や議会、そして市民もこの「毎年かかる億単位の維持費」や「定期的な数十億円の改修費」という事実を直視できていない。例えば全37競技施設を整備する東京五輪。施設の維持費だけで毎年100億円を超える金額が必要となるが、建設費ほどに維持費の話を耳にしただろうか。新国立競技場の1500億円という新築費は批判を浴びたが、改修を含めたその後60年間の維持費は1000億円以上かかる。少子化で税収が下がり、高齢化で医療費が倍々ゲームになっていく約束された未来において、これほどの数の競技施設を本当に維持できるだろうか?
あなたの街を見渡してほしい。公民館や学校、市役所、清掃工場などの公共施設改修のための基金を積み立てているだろうか。ハコモノは作って終わりではない。マンションと同じく、定期的に人の手をかけていかなければならないのだ。
全国に建てられた公共施設の維持費について、解決策は(1)施設の統廃合、(2)財源ねん出のための増税、(3)子どもたちに頭を下げて借金するという3つしかない。施設を維持しながら出費を抑えるというような魔法の杖は存在しないのである。日本中の自治体の先を行く多摩市の「パルテノン多摩改修」は、悪戦苦闘しながらも1年以内にこの問題に答えを出そうとしている。全国の皆さんに我が市のパルテノン多摩へ足を運び、経過にご注目いただきたい理由がここにある。
パルテノン多摩 改修後イメージ(出典:NASCA一級建築士事務所ホームページ)
<多摩市議会議員 遠藤ちひろ>
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