「ずし子ども0円食堂プロジェクト」心の貧困にこそ光を―長島有里 逗子市議
政治山 / 2016年10月21日 11時50分
子どもの貧困は6人に1人―そんな数字が一人歩きしていますが、どのような状態を貧困というのか、その本質を誤ると対策も見当違いのものとなります。子どもの貧困に、私たち大人はどのように向き合うべきなのか、神奈川県逗子市の子ども食堂をサポートしている長島有里市議にご寄稿いただきました。
子どもの貧困はなぜ見落とされるか
先日、テレビ番組で貧困女子高生として取り上げられた女の子が「リビングの様子などから貧困状態といえないのではいか」と批判を受ける事態が起きた。これは、子どもの貧困という言葉から連想する世間のイメージが、例えば途上国で飢餓に苦しむ子どもや家もないストリートチルドレンを指すからだろう。
では、今この国で問題となっている子どもの貧困とは一体何なのだろうか。日本では6人に1人の子どもが貧困だという。しかし、多くの人が「はたしてそんなに貧困の子どもがいるだろうか?」と思うに違いない。今日の食べ物にも困っている状態が貧困だとするならば、1日の食事がコンビニの菓子パン一つであっても食べるものがあるから貧困ではないのか。
逗子市では4年に1度、子どもの生活調査を実施している。3年前のアンケートでは例えば設問に夕食は満足していますか?という問いがあり、ほとんどの子どもは満足していると答えていた。だが実際には夕食はお菓子だけという子どもがいる。そして子ども自身はそれで満足しているので、設問の答えは夕食に満足しているとなる。こうして乏しい食生活に置かれている子どもは見落とされてしまうのだ。
前述の女子高生でいえば、衣類も清潔で持ち物もスマホを持っているし、となれば傍から見ると貧困にあえぐ子どもには映らないだろう。しかし、大学や専門学校に進学する費用は家にない。希望の職種には就けない。適職につかないから仕事が続かず、アルバイトで暮らしつなぐうちに年齢を重ねて、さらに職種が狭まっていく。まるで真綿で首を締め上げられるように、徐々に真の困窮へと追い詰められていくのである。
もちろん、大学に進学すればただちに安定した適職に就ける保証はどこにもない。だが、日本ではあまりにも義務教育後の教育費が高すぎるのが問題なのだ。社会人になってから大学に入り直したり、文系から理系に転科したり、自分の興味や関心、特技を最優先に教育を選べないことは結局、国にとって大きな損失になっている。
隠れ貧困世帯とは
逗子市の20歳未満の子どもがいる生活保護受給世帯数は27世帯。子どもの数は36人だ。だが、国民健康保険料の支払いが滞り短期証や資格証を発行している世帯で18歳未満の子どもを含む世帯は68世帯にもなる。
生活保護受給世帯となれば、医療費も無償であるし、最低限の生活は保障される。だがこの国民健康保険料の滞納世帯でこそ、かくれ貧困とも呼べる危険な状態に子どもが置かれている可能性が高いのではないか。市では生活保護世帯の児童に対しては学習支援などを行っているが、こうした隙間に存在する見落とされがちな子どもへのアプローチは難しい。
こうした子どもたちへの一つの救済策として、全国でも広がりを見せている子ども食堂が有効ではないかと思う。逗子市で子ども食堂『ずし子ども0円食堂プロジェクト~ひとりでご飯を食べないでみんなで食べよう!~』が始まったのは今年5月のことだ。主催者の草柳ゆきゑさんは民生委員・児童委員として地域の子どもたちを見守ってきた。
障がいのある子どもの母親に家事能力がないケース。生活保護費も浪費してしまう家には炊いたご飯を届けたり、安価なもやし料理のレパートリーを教えた。祖母と暮らしてる高校生男子にはお弁当を作ったこともあった。そんな草の根活動を続けてきた彼女が、逗子市で子ども食堂を始めたいと思ったのは自然な成り行きであったのだろう。
だが、行政としては前例のない初めての事例。もちろん担当所管だってない。こうした前例なし、担当所管なし、リスクだけがある事業は、行政が一番嫌がるパターンである。事業スタート当初は、場所もない、お金もないという、ないないづくしであった。私は第1回目に草柳さんに呼ばれ見に出かけた。
場所は福祉会館の会議室のような場所を借りて、食事は防災課からわけてもらった期限の近い備蓄米を使ったおにぎり。子どもたちの数も20数人で、その子たちの家庭が貧困なのかそうでないのかも分からなかった。正直、備蓄米のおにぎりもあまり美味しいとは言えなかった。それでも草柳さんは「まずは第一歩よ」と満足そうであった。
その時に草柳さんから、学校でチラシを配ってもらえなかったという話を聞いた。どうも担当所管が決まらないため、市の後援がとれずに、後援が決まらないと学校でも配布できないという。
行政側としても手順があるという理屈はわかる。だが、市民からすると速やかに担当所管を決めてくれればいいのに、たらい回しにされているという印象が拭えなかった。また、食事を提供するということで、アレルギーや食中毒の問題もあった。
こうしたことをクリアにしなければ行政としても「わかりました、協力します」とすぐには言えないという。当初はこうした双方のボタンのかけ違いもあり、すべてが順調にスタートしたとはいえなかった。
だが、草柳さんの場合は、PTA時代の先生方が校長先生になっており、すでに行政側と信頼関係が構築されていたことなども大きかった。そして、とにかく行動ありきで試行錯誤を繰り返しながら活動を進めていく彼女の熱意にほだされ、今では行政は学校でチラシも配布、時折職員が顔を出してくれるまでに至った。また、地域の住民自治協議会の協力により公共施設も無償で借りられることになった。
また、県の保健所もこの地区では初めての事例。やはり不特定多数に食事を提供するには、食品衛生法に基づく営業許可を受けなくてはならない。しかもその営業許可申請には申請手数料が必要となってくる。しかし、手弁当で始めたプロジェクトにそのような資金はないし、そもそも営業を目的にしていないのである。関係機関と調整をしていく中、最終的には体験型の料理教室という営業許可とは別扱いの形になった。
現にエプロン持参の子供たちが毎回増えている。もちろん食を扱うのであるから事故があってはいけない。食事も基本カレーと寄付でもらう季節の物で品数が増える。調理に関しても衛生状態には細心の注意を払うことを再確認した。
子どもたちの心の居場所を
このような数々の課題を乗り越えて6カ月が経ち、開催回数も月2回に増えた。今では大勢の子どもたちが集まるようになっている。さらには地域の高齢者の方々にも子どもたちと触れ合うのを楽しみに足を運んでいただいている。ボランティアスタッフはシフト調整を要するほどに来てくれるようになり、食材や運営費の寄付も徐々に集まってきた。
温かくて美味しい食事を食べたあとに、思い思いに遊ぶ子どもたちを見ていると、ここが確実に心地よい居場所となっていることを実感する。ここに来る子どもたちが、絶対的貧困に置かれているとか、いや相対的貧困なのだとかそんな区別はない。子どもたちが笑顔で安心して過ごせる居場所があるというただそれだけである。
子どもの貧困対策としてどんな効果があったのかと問われれば、すぐに成果を示せないかもしれない。だが、子どもたちのお腹も心も満たしていることは間違いない。市民発のこうした活動がまず補助金ありきで支援が打ち切られると継続できないものが多い中で、想いありきで始まった活動が広がりを見せ、数々のハードルを越えていく様子は周囲に勇気と希望を与えている。
最近、印象に残った言葉がある。児童擁護施設を退所し、離れていた母親と暮らし始めた女の子の声だ。
「美味しいご飯とか清潔な衣服とか大人たちはそういったものを与えれば満足だろうと思うのかもしれないけど、そんなことでは決して満たされないんだよ。心、心が満たされないとダメなんだ」
たとえ他人であっても誰かの優しい存在が、子どもの心に住み着き、いつも一緒にいなくてもずっと寄り添ってもらえるような、そんな地域づくりを、想いを同じくする人とともにしていきたい。
<逗子市議会議員 長島有里>
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