小学生の5人に1人が便秘、官民連携で打開策探る―桃野芳文 世田谷区議
政治山 / 2016年10月27日 10時30分
子どもの便秘が増えている現状を受け、東京・世田谷区内の小学校で新たな取り組みが始まっています。このプロジェクトを推進するのは、トマトジュースなどで有名なカゴメ株式会社。身近な社会課題の解決法として官民連携を後押しする、桃野よしふみ世田谷区議にご寄稿いただきました。
2人に1人は学校でウンチをしない
私が小学生、特に低学年の頃は、学校のトイレってどうも好きになれなかった、好きになれなかったどころか、なんとなく怖かった。というのが遠い日の思い出なんですよね。私は、なんの変哲も無い地元の公立小学校に通っていたのですが、そのトイレが暗い、ジメッとしている、古い。おまけに和式の大便器の水を流そうとレバーを踏むと、その奥からお化けの手が出てくるのだとか。オォ・・・そんな目には絶対会いたくないぞ。今考えると薄暗いトイレの雰囲気と、子どもの感受性が生み出した伝説だとは思うのですが、当時は、そんな「学校の怪談」を深刻に受け止めていた小学1年生男子でした、私。
そんな懐かしの日々から幾星霜。トイレの花子さんも、もうどこかに行ってしまったのかもしれませんが、実は、学校のトイレはあまり好きじゃないという子どもが、今もたくさんいるようなのです。NPO法人日本トイレ研究所が行った全国アンケート調査では、小学生の5人に1人が便秘状態、さらに2人に1人が学校でウンチをしないという実態が明らかになりました。区の担当職員と話をすると、当然、学校で子どもたちと過ごす区立小学校の教職員も肌感覚としてこの辺の課題は感じているよう。
改装前のトイレ個室
民間企業とNPO、自治体がタッグ
そんな中、世田谷区では民間企業、NPO法人との「官民連携」で子どもに快適なトイレを提供し、子どもの便秘を無くそうというプロジェクトを始めました。
連携するのは、カゴメ株式会社とNPO法人日本トイレ研究所。「腸内環境の改善」「排便意識の改善」「トイレ空間の改善」をテーマに乳酸菌飲料を製造・販売するカゴメと、子どものトイレ・衛生教育を社会的課題と位置づけ活動するNPO法人日本トイレ研究所との取り組みです。
プロジェクトでは今年6月、世田谷区立喜多見小学校で1年生の児童から「学校トイレの困りごと」をヒアリング。「トイレが暗くて1人で行けない」「臭い・汚いからトイレに行きたくない」「和式トイレは使いづらい」などの声を受けて、トイレの大改修に取り組みました。個室ブースの洋式化、トイレ床の張替え(湿式から乾式への変更)、壁や便器のクリーニングなどで、トイレは見違える明るさに。
改装後のトイレ個室
民間の手法を取り入れて効果的な投資を
これまで世田谷区は、どちらかというと民間企業との連携に対して、あまり積極的ではなかったと言えるでしょう。「営利企業だから公共の役割とはなじまない」「特定の会社と何かを取り組むのは公平性に欠ける」「何か問題が起きたら責任が取れない」など、そんな考え方が役所内では支配的だったのでしょう。しかし時代は変わりました。今や民間企業はかつて以上にコンプライアンス(企業が法や倫理を遵守すること)について強く意識を向けていますし、社会貢献活動を企業にとって役割の一部と捉える考え方も広がってきています。
一方、世田谷区では、高齢者向けの福祉予算、待機児童解消のための予算、公共施設の老朽化に伴う施設改修費用が膨らむなど、その財政状況は決して楽なものではありません。区立小中学校だって備品購入一つから厳しい予算査定がある状況。そんな背景もあり、PPP(官(公)民連携)や、PFI(民間資金活用)などの手法も積極的に議論される時代になってきました。当然、その成り立ちが異なる民間企業と行政ですから、事業計画の要所要所で公共という目線からさまざまなチェックが必要であることは言うまでもありませんが、世田谷区もこうした新たな考え方を取り入れながら、より効果的な投資手法を取り入れ始めています。
改装後のトイレ全体
公平性と柔軟な発想、強みを生かして課題解決
今回の取り組みはその一環。プロジェクトからは、トイレの改修の他に、排便に関する授業の実施や、腸の動きを活性化し、お通じを改善させる効果が期待できる「ラブレ菌」飲料の提供などが行われました。当然、民間企業側にも予算等の制約があり、小学校側にとっても施設改修のタイミングなどの都合があります。取り組みはまだ区内小学校の中でも区立喜多見小学校、1校の取り組みですが、効果を測りながら今後の展開についても前向きに考えていくべきだと考えています。
そしてもちろん、今後のためには、取り組みの成果に対する検証が不可欠。PDCAサイクル=Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の4段階を繰り返すこと=の手法は、民間企業では当然のように行われているものですが、区役所などの行政機関は、これがあまり得意ではありません。今回の取り組みは、民間事業者とのプロジェクトらしく、その後の「排便意識の変化」などまで調査が行われる予定。改善効果が認められれば、機会を捉えて積極的に取り組むべき事業ということになるでしょう。
行政は、公平性を強く意識し、決して失敗が無いように手堅く事業を進めていくのがその持ち味です。一方、民間企業は柔軟な発想で次々と新たな取り組みを始めていくのが得意。それぞれの特徴を生かして、お互いにメリットのある事業を立ち上げていきたいというのが、私の考え方。民間企業と行政を結び、そうした取り組みを後押ししていけるのは、民間企業勤務の経験が豊富な私のような議員ではないかと自分を奮い立たせてもいます。これからも官民連携促進など、知恵を絞って地域を支えていきたいと思っています。
<世田谷区議会議員 桃野芳文>
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