災害弱者を守るために。超党派地方議員連盟「避難者カード標準化プロジェクト」
政治山 / 2016年10月31日 17時30分
2011年に発生した東日本大震災では、要介護高齢者、障がい者、妊産婦、乳幼児、アレルギー等の慢性疾患を有する者、外国人等(以下「要配慮者」という)が避難所等に避難を余儀なくされましたが、この要配慮者への支援が必ずしも十分ではなかったことから、2013年6月に災害対策基本法が改正され、避難所における生活環境の整備等が進められています。
この取り組みに当たって、内閣府は「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針(同年8月)」を策定し、避難者の数や状況の把握、要配慮者へのきめ細やかな支援を目的として、災害時に避難所の受付で「避難者カード(避難者名簿)」を作成することが望ましいと位置づけました。
しかしながら、超党派地方議員連盟「避難者カード標準化プロジェクト」が2016年8、9月に25都道府県内の710自治体における避難者カードを調査したところ、内閣府が避難者カードを作成することが望ましいと指針で示してから3年が経過した現在でも、避難者カードを未策定の自治体や要配慮者を把握する項目が不十分な自治体が散見される状況でした。
この超党派地方議員連盟「避難者カード標準化プロジェクト」の事務局を務める伊丹市議会議員のやまぞの有理氏と松戸市議会議員の関根ジロー氏にお話を伺いました。
――避難者カードの重要性を教えてください。
【やまぞの】 実際問題として、災害時の避難所での援助物資や救援チームの派遣などに於いて、正確な避難者の把握が必須となりますが、緊急・災害時には自治体の機能は低下し、避難所での活動主体となる自治会などは人員不足と経験不足から混乱することが少なくありません。こういった状況下で、避難者の状況をひと目で把握できる避難者カードの存在が重要となります。
【関 根】 災害時における弱者支援のあり方というのは人数の総数の問題ではなくて、病気・ケガ・介護・障がい・妊産婦・アレルギーなど、ひとりひとりに即した対応ができるかどうかというのが一番大切です。そのための情報を共有することを目的に、充実した避難者カードを作成しておくことは極めて大切なことです。
――超党派地方議員連盟「避難者カード標準化プロジェクト」を立ち上げ、避難者カードの作成状況など調査したと伺いました。プロジェクト立ち上げのきっかけや、どのようなメンバーが参加しているのか教えてください。
【やまぞの】 明治大学ガバナンス研究科(公共政策大学院)の在学生である私と関根ジローさんが、防災に関するの講義のなかで意見交換した際、たまたま避難者カードの話題になり、伊丹市と松戸市の避難者カードの項目やレイアウトが全く違うものであることを気付きました。そこで、お互いの兵庫県・千葉県内の他の自治体の避難者カードの作成状況や項目についても、どのような状況なのか調べてみることにしました。
【関 根】 調査してみてビックリしたんですが、内閣府が避難者カードを作成することが望ましいと指針で示してから3年以上経った現在でも、避難者カード未作成の自治体が存在することがわかりました。避難者カードの未作成は大問題ですが、それだけではなくて、多くの自治体で、要配慮者を把握する項目を盛り込んだ避難者カードを作成していないことも明らかになりました。
【やまぞの】 このことについて、Facebookなどを通じて仲間の議員たちに共有し、全国的に避難者カードの作成状況がどうなっているか調査をすることを呼びかけた結果、平成28年8月に避難者カード標準化プロジェクトのサイトを立ち上げることになり、9月には25都道府県40名以上の超党派議員が賛同し協力して頂けることになりました。
「避難者カード標準化プロジェクト」ロゴマーク
――「避難者カード」の調査結果を教えてください。
【やまぞの】 今年8月から9月にかけて25都道府県内の710自治体で調査したところ、約3割の自治体で避難者カードが未策定でした。また、介護の有無を把握する項目が避難者カードにあったのは20%、病気やけがは20%、障がいの有無は17%、妊産婦は13%、アレルギーは11%、医療機器利用は9%でした。外国語表記の避難者カードを作成している自治体は1%でした。このように多くの自治体で要配慮者に関する項目等を設けていないことが明らかになりました。
【関 根】 実は内閣府が策定した『避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針』では『要配慮者』はもちろんですが、その他の項目についても盛り込むべきとしています。例えば、災害時には避難所ではなく車・テント・自宅などで避難する方も想定されますが、このような被災者のなかでも、避難所に届く物資や人的支援を希望する方がいらっしゃるはずです。そういう方々を把握するために内閣府は『物資の配給希望』を項目として設けることが望ましいとしていますが、私たちの調査では3%の自治体しか項目を設けていませんでした。また、第二の家族である『ペットの同行避難』についても内閣府は把握するべきとしていますが、ペットの項目を設けている自治体は15%でした。
――調査結果を受けての取り組みを教えてください。
【関 根】 これらの調査結果と、当団体で独自基準によって選定した各地域の優良避難者カードを、避難者カード標準化プロジェクトのウェブサイト(http://www.hinansha.com/)に掲載し、避難者カードの現状と標準化を訴えた結果、NHKをはじめとしたテレビ、新聞各紙や多くのメディアで紹介されて話題となり、未策定だった自治体が作成準備に入ったり、策定済の自治体が見直しを行ったりと、議論や活動が活発になっています。
「避難者カード標準化プロジェクト」ホームページ
【やまぞの】 避難者カード標準化プロジェクトに参加する各地方議員は、それぞれの議会において避難者カードの有り方について質問し、内閣府が策定した『避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針』で挙げられる、『要配慮者』をはじめとして、避難所内外での『配給希望』、第二の家族である『ペット』、外国人移住者や旅行者などへ配慮した『外国語表記』などの記載された、充実した避難者カードに改善されるように各自治体へ働きかけを行っています。
――今後の取り組みについても教えてください。
【やまぞの】 当団体で標準的な避難者カードの策定を行ない、ウェブサイトにフォーマットを例示することで、未策定の自治体や避難者カードの項目が不十分な自治体が参考にすることを可能とし、いつ起こるかも分からない緊急災害時に直ぐにでも利用できるようにします。また、内閣府のウェブサイト等において、全国の自治体が策定する避難者カードのなかで優良なものを紹介するように働きかけていきます。
【関 根】 私たちの活動が放送局や新聞各紙、ネットメディアなどで周知されたことにより小さな社会現象となったことで、全国的に多くの自治体であるべき避難者カードの在り方について議論が拡がっています。政治山のウェブサイトに取り組みが掲載されたことを契機に、社会に改めてこの問題が認知され、全国的な避難者カードの策定と見直しを求める市民の声が更に高まることを期待し、私たちも継続して頑張りたいと決意を新たにしています。
超党派地方議員連盟「避難者カード標準化プロジェクト」 参加議員一覧
http://www.hinansha.com/category/member/
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