区民無視?「世田谷ナンバー」導入の是非を問う―桃野芳文区議

政治山 / 2016年12月9日 18時0分

 自動車のナンバープレートに記されている地名。あれが何を示しているかご存知でしょうか。あれは本来、車がどの地域で登録されたものかを示すもの。自動車は一台一台、使用の本拠(住所地や車庫など)を管轄する運輸支局・自動車検査登録事務所に登録され、その事務所ごとに地名が振られる。というのが2006年以前のお話です。

 そして、2006年以降は事務所の所在地以外の地名が表記された、新しいナンバープレートが誕生しました。いわゆる「ご当地ナンバー」です。

1)登録台数など、国土交通省が定めた条件を満たした場合は、
2)市区町村が、住民の意向を踏まえた上で、
3)都道府県を通じて地方運輸局に要望すれば、
4)新たなナンバープレートを導入できるようになりました。

 この「ご当地ナンバー」の第1弾で誕生したのが会津、那須、諏訪、伊豆などのナンバープレートです。

 誤解されている方が多いのですが、ある自治体に「ご当地ナンバー」が導入された場合、従来のナンバーと新しいナンバーを選択できるわけではありません。新たに登録されるナンバーは全て新しいナンバーとなりますから、五月雨式に従来のナンバーは無くなっていくことになります。

乗用車
※写真はイメージです

保坂区長が推進したご当地ナンバー

 このご当地ナンバーの一つとして、2014年11月から新たに導入されたのが「世田谷ナンバー」。世田谷区内の車はこれまで「品川ナンバー」でしたが、これから区内で新たに登録される車はすべて「世田谷ナンバー」になります。

 では、なぜ世田谷ナンバーが導入されたのか。簡単に言えば保坂展人世田谷区長が熱心に導入を押し進めたからです。2013年に国交省が行った「ご当地ナンバー」公募の第2弾に際し、保坂区長は世田谷ナンバーの実現に強い意欲を示し始めました。理由は区長自身が議会で述べていますが「世田谷区からの発信というよりは、区内産業団体の方が要請されてという経過」(2013年3月予算特別委員会での区長答弁)。区長は、幅広く区民の意思を鑑みることもなく、いち早く区を「世田谷ナンバーを実現する会」に加入させ、世田谷ナンバーの導入へと突っ走り始めたのです。

 私は、民間団体が、それぞれの思いで実現したいことを掲げて活動されることを、何ら否定するものではありません。そして、多くの区民がそれに賛成しているなら区長がその後押しをすることも良いでしょう。しかし今回は全くそういう事例ではありませんでした。世田谷ナンバーを実現すれば、前述の区内産業団体が、選挙など他の場面で自分を応援してくれるに違いないとの打算が保坂区長の心を動かしたのでしょう。

知名度が上がり運転マナーも向上する?

 ご当地ナンバーの導入は区議会での同意や条例化などが必要な施策ではありませんが、桃野は当初から反対の意思を示し、同じ会派の議員とともに反対の立場から質疑を行っていました。この手の施策については、まずは区民が広く望んでいるかという議論があってしかるべきです。また、区の施策には当然、税金が使われるのですから、何のためにそれをするのかという理由も明確にするべきでしょう。しかし区長が、世田谷ナンバー導入の理由に挙げるのは「世田谷の名前が全国に知られ、産業振興につながる」「世田谷区民の運転マナーが向上する効果がある」などその実効性に疑問を感じるものばかりです。

 その後「区民の声を聞くべき」という議会からの指摘もあってのことでしょう。区は「区民の意向を調査する」と約束し、区民アンケートが行われることになりました。すでに区が「世田谷ナンバーを実現する会」の一員となり、区長が導入に向けて突っ走っている中でアンケートをとって、果たしてフェアなものになるのだろうかと心配していたのですが……。

■アンケート調査の概要
・調査対象者は無作為抽出の区民4000人、業界団体から推薦された事業者500団体
・回答数は区民48.8%、事業者54.6%
・世田谷ナンバーの賛成は区民79.6%、事業者83.2%

 区民、事業者ともに8割程度の方が「世田谷ナンバー」の導入に賛成との結果になりました。

60歳以上が74.3%の「区民意識調査」

 しかし、このアンケートが明らかにおかしい。設問の中に「あなたは世田谷区にはどのくらいの期間お住まいですか」という項目があるのですが「10年以上」と答えた人が99.6%を占め、年齢を問う項目では「60歳以上」と答えた人が74.3%を占めています。ずいぶんな偏りであり、通常「世田谷区民意識調査」などで明らかにされる世田谷区民全体の傾向とは大きくかい離しています。

 区は「無作為抽出」でアンケートを行ったとしていますが、このアンケートは本当に無作為抽出の上で行われたものなのでしょうか。このアンケート調査が統計学的に有効なものかどうかについて大きな疑惑を感じずにはいられません。

 また、「世田谷ナンバーの新設についてどう思いますか」という設問に対する答えの選択肢には「賛成」「反対」しか無く「どちらでもない」「わからない」の選択肢は用意されていません。「どちらでもいい」と考えた人は賛成、反対のどちらに印をつけるものでしょうか。

 さらに「世田谷ナンバーが導入された場合、どんな効果があると思いますか」との設問もあり、その答えとして幾つかの選択肢が示され、暗に「こんな効果があるんですよ」と示すかのような内容でもありました。ちなみに、このアンケートについては、世田谷ナンバー導入について報じるテレビ番組の中で専門家が、正当か否か「十分に疑われるレベル」と発言しています。

 そんな経緯で世田谷ナンバーの導入が進む間、また、導入が決定してからも私の元には「こうした経緯で世田谷ナンバーが導入されるのはおかしいのではないか」「一切知らない間に導入が決まっていた」など導入に否定的な意見が続々と寄せられていました。

区民不在の区政、そのツケは区民に

 桃野の最大の主張は、どのナンバーが好き、嫌いの話ではありません。区民の中にある賛否に思いをいたさず「区内産業団体の要請があった」という理由だけで、さしたる必要性も、効果も説明できないような施策を推し進めること、さらに統計学的に説明できないような不適切なアンケートをもって「これが民意だ」と強弁する保坂区長の区政運営に対する異論です。

 まずは適切なアンケートなどで区民の声を聞くべきだと、言論の力をもって区長に訴えておりましたが、全く聞き入れてもらえません。桃野は止む無く「この横暴を止めるためには裁判へと戦いの場を移すしかない」との結論に至り、169人の原告団で裁判を起こすこととなりました。

 世田谷区と世田谷区長を相手に損害賠償を請求するという形の裁判ですが、求める賠償額は1円(合計169円)です。もちろん金銭的な賠償が主たる目的ではありません。我々は裁判を通じて、世田谷ナンバーの裏にある世田谷区政の動きを明らかにし、保坂区長の区政運営に警鐘を鳴らしたかったのです。世田谷区長が、民意をないがしろにし、区政を我がもののように動かせば、やがて区民ひとり一人に様々な火の粉が降りかかります。

 “普通の区民”の方々からすれば、政治も、裁判もやっかいなことでしょう。でも、世田谷区政において、こんな横暴を許してはいけない、そういう思いで、裁判という場(ある種のやっかいごと)に臨んだ方々が169人の原告団なのです。

 そして今般、約2年に渡る裁判を経て東京地裁で判決が出ました。結果は「原告の請求を却下する」というもの。裁判では「世田谷区の行ったアンケート調査は、直ちに不正な操作が行われたものと認めることができない」「今回のアンケートの回答者の年齢構成割合が区民意識調査のものと異なっていても、予算事情やスケジュールの問題であり、おかしくない」などと結論付けています。

 我々はアンケートが不正に行われたかどうかはさておき、統計学的に破綻しているデータを使って「民意を得た」としている区長の考え方に異を唱えていたわけですから、この判決には承服しがたいものがあります。

 さて、ここからどうするか。他の原告の皆さんとも相談し、次なる行動を起こしたいと思います。繰り返しになりますが、この戦いはナンバーの好き嫌いの問題ではありません。世田谷区の民主主義の問題なのです。

<世田谷区議会議員 桃野芳文>

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