創業から売上ゼロ! 『地方創生』ではなく『地方自治体』にこだわる社会起業家
政治山 / 2017年6月7日 11時50分
2000年4月に施行された地方分権推進一括法によって、地方自治体は国の下請けという立場ではなく、対等な立場として自主的な運営を求められることとなりました。その一方で、少子高齢化による税収の減少や医療費の増化など、運営そのものが厳しいという地方自治体も少なくありません。
そんな中、地方自治体を応援するメディア「Heroes of Local Government」を運営し、自治体職員や首長の活躍をインタビューで掘り下げ、スポットライトを当てる取り組みをされている、株式会社ホルグ代表取締役社長の加藤年紀さんにお話をうかがいました。
株式会社ホルグ代表取締役社長の加藤年紀さん
価値があるのに儲からない領域が『地方自治体を応援すること』だった
――「地方自治体を応援する」というコンセプトのウェブサイト、「Heroes of Local Government」を運営されることとなった背景を教えていただけますか。
「holg.jp」トップページ
まず、誰もやらないような儲からないこと、でも、世の中のためになる仕事がしたいと思ったんです。こういう領域にはヒトモノカネと言われる民間資源が集まらないので、そこに自分が行くことで、世の中の役に立てると考えました。
地方自治体は人の幸せに直結している仕事を、ある意味独占してやっているような部分があります。だから、自治体の仕事の成果は、そのまま世の中の幸福度に大きな影響を与えると思いました。その一方で、自治体の活動、そして、特に個々人の活躍について、世の中に情報が出回っていないと思ったんですね。
だとしたら、「こんなに凄い『Hero』たちが自治体にいるんだ」ということが世の中に広まれば、一般市民が自治体に興味を持ってもらえることと思ったんです。
民間人にとっては地方公務員個人の情報はほとんど存在してないに等しい。しかも、行政組織に対しては厳しい批判が絶えずあって、悪いイメージが醸成されている。そういう状況が続いても、公務員と一般の人の溝が広がるだけで、誰にとっても損失にしかならないと思ったのです。
地方自治体とは縁もゆかりも無かった
――元々されていたお仕事では、地方自治体と関わりはありましたか。
縁もゆかりも無かったです(笑)。
私は不動産のウェブサイトを運営する民間企業に、約10年間勤めました。営業マンのキャリアから始まり、ウェブプロモーションの部署、経営企画に近いような中期経営計画策定などに携わり、事業戦略の立案などもしていました。一番大きかった経験は、海外子会社を立ち上げるために日本から1人で出向し、4年半ジャカルタに駐在したことです。
子会社を退職したのが2016年の9月でしたが、同年4月から仕事をしながらウェブサイトを作ったり、取材を始めたりしました。その時は、ジャカルタから東京に片道10時間かけて戻ってきたり、ジャカルタから佐賀県の武雄市には片道20時間近くかけて移動したりで、少し大変でした(笑)。
インドネシア法人での送別会
面識がないスーパー公務員にアポイントを取った
――ウェブサイトには、有名な市長や職員の方も多数登場しています。初めはどうやって、インタビュー先を開拓していったのですか?
ある時、「ローマ法王に米を食べさせた男」という本を読んで、高野誠鮮さんという、スーパー公務員の存在を知ったんですね。その本に書かれてある高野さんの成果が圧倒的だったんです。
そこで、どうにかインタビューをさせていただけないかと考え、面識もないのにメッセージを送りました。そうしたら、「お会いしていただける」と返信が着て、逆にビックリしたことを覚えています(笑)。
高野誠鮮さん(左)と加藤さん
実は、高野さんの著書の中では、ご自身が面識のない相手にメッセージを送って、そこから大きな成果を上げられている事例をたくさん書かれていたので、もしかしたらインタビューを受けていただけるのではと考え、同じように試みてみました。
その後は紹介に次ぐ紹介で、芋づる式に素晴らしい方とお会いさせていただいています。高野さんからは、前武雄市長の樋渡啓祐さんを紹介していただき、その後もさらに素敵な職員の方や首長の方へと、色々な広がりがあり、25人を超える方にインタビューをし、180近い記事を書きました。
創業7カ月で売り上げはゼロ
――現在、会社の収益はどう立てているのでしょうか。
創業7カ月経った時点で、売上は全くないです(笑)。運営は私ひとりでやっていますが、最近はウェブサイトのPV数もある程度伸びてきたので、そろそろ広告を貼ろうかとは考えていますが、「画面が見づらくなるのが嫌だなー」くらいの感じで、売上を拡大することの優先順位はあまり高くないです(笑)。
今はインターネットなどの技術も進化していて、そういう技術と組み合わせた時に、人ひとりが食べていける程度のお金を稼ぐことのできない『公益性の高い事業』というのは、世の中にほとんど存在しないと思っているので、正直、金銭的にはあまり不安はないです。それよりも、自分が何かをすることで喜んでくれる人がいたり、世の中に幸福をもたらすことの方が重要だと思っていて、結局、それがお金になって戻って来ると思っています。
そもそも、私はお金に関しては恵まれていて、楽観的な面があるのかもしれないです。育ちが悪いのがばれてしまうんですが、パチスロを10代の時から社会人になるまでやっていて、総額で一千万円以上稼いでいました。話すと長くなりますが、徹底して勝ちにこだわり戦略的に行動していたので、社会人として仕事をする上でも役に立つことを、色々学んだと思っています。就職活動ではこの成功体験を全く話せずに悶々としていました(笑)。
ただ、パチスロは時間を割かなければならず、健康に害もあり、いつかは止めないといけないとずっと懸念していました。そこで、社会人になる前の2000年過ぎに、実働で動く必要がなく、勝てそうな投資手法を模索し、パチスロで稼いだお金をもとにFXを始めました。
ずっと順調だったのですが、運用から5~6年経った社会人の頃に、サププライム問題によって、元金もろとも数百万円がなくなり、その時にFXを止めることになりました。この時は、『勉強代』だと切り替えられるように努力しましたね(笑)。
FXに関しては失敗体験ですが、こうやって、お金を増やしたり減らしたりすることで、お金はあくまでも『ツール』であると割り切れるようになったのかも知れないです。
「取材の候補に加えていただきたいので、市長と一緒にご挨拶におうかがいしたい」
――現在の状況とこれからの活動について教えてください。
昨年の10月末に会社を設立して、7カ月を少し過ぎたところです。本来は私が地方自治体を応援する立場なのですが、逆に自治体の方に応援していただきながら、地方行政に興味のある方には、認知されていることも増えて来たと実感しています。
最近では、「取材の候補に加えていただきたいので、市長と一緒にご挨拶におうかがいしたい」といったお話をいただくこともありました。「自分のやっていることが、本当に地方自治体のためになっているのか」と顧みることもあるので、「少しは自分がやってきたことに意味があるのかな」と感じ、素直に嬉しいと思える瞬間が増えてきました。
とは言っても、まだまだ大手のメディアとは違い、世の中に対する影響力が大きくないので、このウェブサイトに出た方が、他の大きなメディアから取材を受けたり、他の場所で活躍されるきっかけになるようにしていきながら、このウェブサイト自体も影響力を大きくしていきたいと思います。
また、新しい取り組みも考えています。自治体職員同士で気軽に電話などで業務知識をシェアできるような、地方公務員、国家公務員限定の無料で利用可能な相談プラットフォームを、別のウェブサイトとして7月頃に立ち上げる予定です。これも、メディアと同様に稼げるイメージはありません(笑)。
『地方創生』よりも『地方自治体』にこだわる
実は、友人に「Heroes of Local Government」の話をすると、「『地方創生』に関わる仕事」という括られ方をすることが多いのですが、私の場合は『地方創生』というキーワードよりも、『地方自治体』というキーワードのほうが大事なんです。
『地方創生』はこれからの方向性を示すワードであるのに対して、『地方自治体』は既に実態として存在している価値そのものだと考えています。だから、単純に『地方自治体』の凄い人の存在や、成果が広く認知されるだけで、『地方自治体』がさらに成果を出しやすい環境になり、結果として世の中の幸せの総量が大きくなると思っています。
そういう価値を生み出している方たちを応援できるのが、とても幸せなことだと思っていますし、だからこそ、これからも地道に活動を広げていきたいと考えています。
奈良市の仲川市長(中
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