都議選で示された「受動喫煙防止条例」、溢れる喫煙者はどこへ向かうのか
政治山 / 2017年7月7日 11時50分
屋内原則禁煙という概要が報じられるとともに、多くの愛煙家が困惑し、嫌煙家が期待したであろう健康増進法改正案(受動喫煙防止法案)は、結局、2017年の通常国会に提出すらされませんでした。たばこの好き嫌いは人それぞれですが、立法事実(≒その法律が必要である理由)が明らかであるにも関わらず、半年もの期間をかけながら先送りした姿勢には憤りを感じます。まさに「決められない政治」の典型ではないでしょうか。
厚労省「喫煙室を設置することなく屋内100%禁煙化を目指す」
そもそも、今回の受動喫煙防止の動きには、多くの訪日客が見込まれる2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、喫煙ルールを世界の潮流に合わせようという背景があります。IOC(国際オリンピック委員会)は2010年、WHO(世界保健機関)と「たばこのないオリンピック」の推進に合意しています。
しかし、それだけではありません。2016年8月、厚生労働省は「たばこ白書(喫煙の健康影響に関する検討会報告書)」を15年ぶりに改定し、受動喫煙による健康への影響のうち、肺がん・虚血性心疾患・脳卒中・喘息(の既往)・乳幼児突然死症候群などについて、十分な科学的証拠があると指摘しています。また、鼻腔がんや乳がんをはじめ数多くの疾患についても因果関係が示唆されていると述べ、「国民の喫煙関連疾患を防止するために、(中略)喫煙室を設置することなく屋内を100%禁煙化を目指すべきである」と括っています。
つまり、屋内完全禁煙によって受動喫煙を防がなければ、国民に健康被害が生じると結論づけているのです。これが立法事実です。
正の影響2.8兆円に対して負の影響は4.3兆円
また、たばこ白書は喫煙の経済的影響にも触れ、2005年の1年間におけるたばこの売り上げや波及効果、税金といった正の影響が2.8兆円であるのに対し、医療費など負の影響は4.3兆円にのぼり、「総じて負の影響が大きくなる」と報告しています。
反対論の中心とも言える、飲食店などのサービス産業への影響についても、先行国では「屋内全面禁煙化によるマイナスの経済影響は認められなかった」と、国際がん研究機関の調査を引用しています。
これらに反論する有力な根拠は、これまで聞いたことがありません。感情的な議論で国民と訪日客の健康を犠牲にすることなど、あってはなりません。
さて、政府の動きが頓挫したとなると、次なる希望はオリンピック・パラリンピックの開催都市である東京都独自の条例に託されそうです。小池知事は、受動喫煙防止条例の制定に意欲を示していると報じられていますし、先日の都議選前に各党が発表した公約を比べても、ほとんどが屋内禁煙の条例制定を盛り込んでいました。
これだけ揃って同じような趣旨の公約を掲げたのですから、もし条例を制定できないとなると、マニフェストならぬ詐欺フェストと呼ばれても仕方ありません。丁寧な合意形成を経て、議会側から条例提案まで進めて欲しいものです。都議会が本当に変わるか、試されていると言えます。
受動喫煙防止についての都議選公約比較表
屋内原則禁煙なら路上喫煙のルール見直しも
ところで、国・都いずれのレベルであろうと、屋内原則禁煙が実現した場合には、基礎自治体の政策にも大きな影響を及ぼすことは必至です。日本は先進諸国と異なり、屋外の喫煙を各自治体が規制してきたという経緯があるからです。
例えば目黒区は、ポイ捨て防止条例によって、歩行中の喫煙を区内全域で禁止したうえ、駅周辺に禁止区域を定め、指定喫煙所以外での路上喫煙を認めていません。しかし、その指定喫煙所が十分に確保できていないため、1カ所に多くの喫煙者が集中して溢れかえっており、近隣住民からのクレームが絶えない状況にあります。
中目黒駅前の指定喫煙所。「植栽の内側で」と掲示されているが、とても収まらない状況
この状態で屋内禁煙が施行され、遵守されたとしたら、これまでとは比較にならない数の喫煙者が外に出てくることになります。今でさえ不足している喫煙所がパンクしてしまうことは容易に想像できますし、路上での喫煙が無秩序に陥る可能性もあります。
そうなると、屋外の喫煙ルールを見直す必要があるのではないかと私は思います。というのも、受動喫煙を回避できるのであれば、世界の潮流に合わせ、むしろ屋外の喫煙を条件付きで容認していくという考え方もあり得るからです。
もちろん、言うまでもなく、喫煙者本人の健康リスクは受動喫煙以上に高いものですから、健康を守るという観点では、価格の見直しや健康警告表示義務の強化など、たばこ自体の規制についても検討する余地はあります。
しかし、現在の法律でたばこが認められており、愛煙家も多い中で、吸える場所を極端に奪うのも不当でしょう。今すぐ議論されるべきは、たばこの排斥ではなく、受動喫煙による健康被害を防ぐ方法なのです。
生活者に最も近い立場にある地方議員が核となって、喫煙者と非喫煙者の双方を巻き込みながら、国民的な議論を喚起していくことが求められているのかもしれません。
<目黒区議会議員 西崎翔>
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