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災害後に命を繋ぐために~防災・危機管理を自分ごとにする「生活再建の知識の備え」

政治山 / 2017年7月18日 12時10分

防災を自分ごとにするために―生活再建制度を知る

 日本各地で大きな災害が絶えない。災害により、大切な人を失う悲しみは筆舌に尽くし難く、住居や仕事を失う不安は計り知れない。それでも、被災後の新たな生活のため、家族のため、地域のため、従業員や取引先のために生活や事業の「再建」について考えなければならない。

 「災害」を物理的な被災態様(死者・行方不明者数、全半壊家屋数、インフラ断絶、経済損失、浸水域等)で把握するのと同様に、そこに生活し、事業を営んでいた「人」の悩みに着目して「被災」を考える。そうすると、リアルな「被災後の生の声」の存在に気付くことができる。

 「住まい」「お金の支援」「支払い」「保険」「証明」「雇用」「賃貸借紛争」「近隣紛争」「相続」といった、日常生活の延長上の悩みが確実に存在する。災害を等身大のものとしてとらえ、防災、危機管理、BCP(事業継続計画)を「自分ごと」にするためには、ハザードマップの把握や物資備蓄と同様に、「被災したときの悩みの声」を把握し、それを克服する「生活再建制度の知識の備え」をしておくことが必要になる。

災害後の生活再建の知識の備え

災害後の被災者の声―被災するとはどういうことか

 東日本大震災や熊本地震などの大規模災害の後、弁護士は数十万件もの無料法律相談・情報提供活動を実施してきている。これらのうち東日本大震災、広島土砂災害、熊本地震などを含む約5万件はデータベース化・分析作業を実施し、数多くの復興制度や被災者支援制度の構築の基礎となった(『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会)参照)。

 個別の被災者の声に着目すれば、「家も家族も失った。いったいこれからどうなってしまうのか。何をすればよいのか」「当面の生活費すらない。どうやって家族や子どもの生活を守っていけば良いのか。何か支援はあるのか」「住宅ローンが1000万円以上残っている家が流されてしまった。保険金では補えない。収入も減ってしまったが、このままでは破産するしかないのか」という「生き延びていくための悩み」が多くを占める。

 そうであれば、被災し絶望の淵にあるかもしれない方々に、まずは、生活再建支援のための希望の制度があることを知ってもらうことが必要ではないだろうか。

生活再建のための支援制度を知る

 ここでは、被災者支援のための法制度や情報のうち、特に重要なものを簡単に紹介する。災害救助法や被災者生活再建支援法が適用されるような大規模な自然災害を想定しており、必ずしもすべての災害で適用があるとは限らないので、都度、行政情報や専門家相談情報に耳を傾ける必要がある。

■罹(り)災証明書
 自治体が被災者の申請により家屋の被害状況の調査を行い、被害状況に応じて「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部半壊」などを認定し証明するもの。多くの被災者支援制度の起点になる証明書であり、事前にその知識を持っていることが非常に重要となる。再認定を申請することもできるので、住宅が解体される前に写真撮影をしておくことが有用。

■被災者生活再建支援金
 住宅に著しい被害を受けた場合に世帯に支給される支援金。基礎支援金(最大100万円)と加算支援金を合計すると最大300万円の現金給付支援を受けることができる。災害直後の困難な時期においてはとても頼りになる給付金であり、制度の存在を予め知っておくことが必要。

■災害弔慰金・災害障害見舞金
 災害により死亡した方のご遺族に対して「災害弔慰金」(ご遺族の所得に応じて500万円又は250万円)が支給される。また、災害により精神または身体に著しい障害を受けた方には「災害障害見舞金」(ご遺族の所得に応じて250万円又は125万円)が支給される。災害で直接なくなった方だけではなく、災害の影響でなくなったと認定された方(災害関連死)にも支払われる。

■自然災害債務整理ガイドライン
 災害救助法が適用された自然災害によって個人の住宅・事業・車などのローンが支払えなくなった場合に、一定の条件を満たすことでローンの減免をすることができる制度。破産などの法的手続によらず、手元に相当程度の財産を残して支払えない部分のローンを減免できることから、生活再建にとって極めて重要な制度。運用上、収入による制限もあるため、まずは適用の可否を専門家や金融機関に相談することが重要。

■各種支払減免や契約照会
 大規模な災害があると、所得税、固定資産税、社会保険料、水道光熱費ほか公共料金、携帯電話代金、保険料、共済掛金などの減免措置や支払猶予措置を受けられる場合がある。罹災証明書の提出が要件となっている場合もある。自治体や契約している会社のウェブサイトをチェックしたり、問い合わせたりすることが必要。また、損害保険契約、生命保険契約などは、契約会社が不明な場合でも、被災者は各協会に契約照会ができるようになっている。

■住宅の応急修理制度
 災害救助法の適用があった場合には、半壊や大規模半壊等の住宅の応急修理制度が利用できる。2017年7月現在では、1世帯につき60万円弱の支援がある。所得要件や修繕の範囲などが細かく条件指定されているので、制度利用の可否について自治体に問い合わせながら進めていくことが重要。

新しい防災教育によってコーディネート人材を育成

 「生活再建の知識の備え」を防災教育に取り込み、防災を自分ごとにする防災研修を実施することを提唱したい。今までこれらの知識を体系的に学ぶ機会は全くと言って良いほどなかった。

 まず、災害時に従業員、家族、自分がどのような困難に陥るかを、一人ひとりの生活の目線から想像する。日常の繋がりをまず思い浮かべ、それが危機においてはどうなってしまうのかを考える。答えがすぐには見つからない課題が出てくると思われる。これは、「想定外を想定する」イノベーティブな思考訓練になる。障害者や高齢者など災害時要援護者の方が置かれる立場を考えることは、様々な立場の方の被災に思いを致すダイバーシティへの理解に繋がるだろう。

 次に、住まい、お金、契約、教育などの分野の困難を、過去の災害ではどうやって乗り越えてきたのかを知る。既存の支援制度の周知や制度改正を訴えてきた過去の教訓を学ぶ。地域や組織がその構成員や従業員、家族、関係者に対して果たすべき新たな役割が出てくるはずだ。

 支援制度を実施する窓口への誘導役・コーディネーター役を果たすことは誰にでも成し得ると考えている。組織や地域の中で求められるリーダーは、自然災害からの生活再建過程を想像し、学ぶことを通じて育成できるのではないだろうか。

<銀座パートナーズ法律事務所 弁護士 岡本 正>

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