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「熊本市議会子連れ問題」から見える地方議会のアレコレ

政治山 / 2017年11月28日 11時50分

 2017年11月22日、熊本市議会では一人の女性議員が長男とともに市議会議場に入場し、議会の開会が40分遅れました。このことは様々なメディアで取り上げられ、今なお賛否両論を呼んでいます。地方議会はそれぞれが独立している、いわば一つの会社であるため、他の議会に属する私がとやかく言うことではありません。ただ、同じ地方議員という立場からこのことを取り上げることにより、より地方議会のことを知っていただければ、また、十人十色だからこその政治なのだと伝えられればと思い、筆を執りました。

一般質問に立つ、島津明香高砂市議会議員
一般質問に立つ、島津明香 高砂市議会議員

地方議会のルールは自分たちで決められる。

 あまり知られていないことかもしれませんが、地方議会はそれぞれが独立した組織となっています。地方自治法など国の法律に基づく部分は同じですが、議会の運用もそれぞれの議会によって異なります。民間企業でも、子連れ出社が認められている企業もあれば、そうではない企業もあります。それと同じで、地方議会もそれぞれの議会で認められるかどうかは異なります。

 仮に熊本市議会で子どもとともに議場に入ることが認められていれば、今回のことは何ら問題にならなかったことです。それゆえ、今回のことは、まずはルールを変えること、そしてルールを変えるためには許可なく子どもを議会に連れて行くという手段しかなかったのか、という点がお話したいことの1点目となります。

赤ちゃん
※写真はイメージです

 地方議員はその自治体のルールを作り、仕組みを作ることが仕事です。そんな地方議員は、自分たちの議会のルールも、もちろん自分たちで作ることができます。議会のルールは多くの自治体では議会運営委員会などの委員会で扱われ、委員となっている議員の間で話し合われた上で決められます。ですから、今回のことも議長に申し出なく子どもを議場に入れる前に、議会運営委員会で議論のテーブルに上げ協議する等の手順を踏めば、正当に問題提起が可能だったということになります。

 なぜそれができなかったのか。今回子どもを連れて議会に出席された議員は一人会派です。熊本市議会では3人以上の会派でないと議会運営委員会に入れないということもあり、当事者の議員の方1人では議会運営委員会での発言ができなかったとのことです。

 とはいえ、許可なく子どもを議会に連れて入っていいのかというとそれは別の話です。たとえ議会運営委員会に所属していなくとも、議長を通じて委員会の議題に挙げていただくなど、とれる手段はたくさんあります。仮にその手段が認められていないのであれば、そこからルールを変えていくことも議員という立場でできることです。

 そして、ルールを変えるためには、他の議員にも課題を共有し、同意いただける解決策を提示することが不可欠となります。というのも、私の所属する議会では議会運営委員会は基本的には全会一致でことを進めるということになっていますし、仮にそうではない議会であっても他の議員から2分の1以上の支持を得ない限り、ルールを変えることはできません。そのため、複数人で会派を組んでいても他の会派の議員にも同調いただけないと議会のルールを変えることには至りません。だからこそ、本当に変えたいルールについてはより一層丁寧に、他の議員にも同調いただける道を探っていったほうが良かったのではないか、と私は考えます。

議員は誰もが少数派。他の議員を説得できてこそ真の主張

 今回のお話したいことの2つ目は、少数派の主張をどう議会の中で伝えていくのかということです。少数派の主張は議会では全く通らないのか。そんなことはありません。確かに議会は民主主義であり多数決ですから、通りにくいことは事実です。ただ、筋の通った主張で、他の議員を説得できるものがあれば、少数派であっても主張が通ることも多くあります。

 議員は誰もがいずれかの側面で少数派である側面を持っています。それが年齢や性別など、今回の「子育てママ世代」というようにその議員個人の特性として顕著な場合もあれば、精通している政策分野や地域性などという少し分かりづらい場合もあります。ただ、選挙でそれぞれ異なる支持母体から当選してきている以上、議員は何らかの分野で少数派の側面を有しているといえます。

 そのような中で、少数派としての主張をする場合、他の議員はある種一つのものさしになります。様々な意見がぶつかる議会の中で、少数意見を尊重していただくためには、前述のとおり、課題を他の議員にもわかりやすく共有し、その課題を課題であると認識いただくことが不可欠です。その上で共感を得て、現状を変えないといけないという共通の認識を持っていただくことが必要になります。

 そのためには、主張が明確であり論理的であること、課題が真の課題であり解決の必要が明白であること、その主張と異なる立場の方々にも悪影響を及ぼさないものであることなど、いくつかのポイントを踏まえることが必要となってきます。主張がこれらをクリアしているかどうか、それは他の議員にも理解、共感いただけるかどうかが一つのものさしになるということです。

 これは議会の中のルールを決めるときだけでなく、行政から提案される議案を審議するときも同様です。この場合、他の議員はもちろん、議案を提案している行政の職員の方々にも理解いただき、共感いただけるかという壁も加わります。それらをクリアできてこそ、主張は真の主張といえます。

話し合い
※写真はイメージです

より多様で、議論が重視される議会へ

 ここまで述べてきたことを読まれ、「政治なんてカネがものを言う世界ではないの?」「どの議会にもドンと呼ばれるような人がいて、その鶴の一声なんじゃないの?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、実際の地方議会の現場では、多くの議論が繰り広げられ、議論によって前に進んでいるものが多々あることも事実です。そして私は、これからの政治はより議論が重視されるべきであると考えていますし、少なくとも私は議論主体の政治を行っていこうと考えています。

 そしてこれからの政治は、さらに多様性が重視されるべきであると私は考えています。今回の子どもを連れて議場へ入るというケースにも、様々な視点があります。子連れ出勤を全面的に認めるべきという主張もあれば、どうしても預けられなかったケースのみ認めるべきという主張もあるでしょう。また、議会には子どもは連れて行くべきではないという考えの中にも、市役所内や議会内の保育所を作るべきという主張もあれば、税金で市役所内だけの保育所を作るよりはまちの中に公立園を増やすべきという主張もあると思われます。

 十数人ないしは数十人の地方議会の中で、どれだけ多くの論点を検討し、議員間で調整することができるかは、それぞれの議員がどれだけ市民の声を拾い上げるかにもよりますが、議会の中にどれだけ多様な議員がいて、それぞれがどれだけ多様な主張をするかどうかにもよると考えられます。

 今回の熊本市議会の件は多くのメディアに取り上げられ、多くの議論を生むこととなりました。これを機に、当事者の議員の方だけでなく、様々な主張が取り上げられ、子どもを連れて議場に入ることができるかどうかについての熊本市議会のルールが調整されることを願っています。そして熊本市議会に限らず、多様な人材が地方議会に入られ、より充実した議論が展開される地方政治になることに期待します。

<高砂市議会議員 島津明香>

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