沖縄県政にみる、地域主義と地域政党の意義―島袋純 琉球大学教授
政治山 / 2017年11月29日 15時0分
沖縄の政治に根付く地域主義
沖縄の問題を解決するのは「自治」ではないか、と大学3年生の頃から思っていました。そして『アメリカの民主政治』(トクヴィル)という本に出会い、そこから自治の重要性を知りました。
沖縄は歴史的に中央のいうことを聞かないという気質を持っています。太平洋戦争の中戦地となってしまった沖縄は、強制収容所の中で県政の基礎が始まりました。沖縄諮詢会(おきなわしじゅんかい)は、アメリカ軍により招集された住民代表の組織で、琉球列島米国軍政府の諮問機関として発足した、沖縄本島における最初の行政機構です。
島袋純 琉球大学教授
戦後しばらく、沖縄はアメリカによる直接統治が続き、諮詢会は沖縄県議会となります。当時議会にある会派は親米でした。47年になると日本国憲法が発布され、沖縄でも浸透していくのですが、49年ごろからは「日本は生まれ変わった」ということが沖縄にも伝わり希望が見出されるようになっていきます。50年になると沖縄群島議会選挙が始まり、沖縄ではその時に日本復帰を望む政党が生まれるようになっていきました。
中でも比嘉秀平(1901~1956年)、西銘順治(1921~2001年)などの保守派も加わった社会大衆党はアメリカ支配に反対し、憲法のもとに生まれ変わった日本への復帰をうたうようになります。60年以降は社会党、人民党と合流して非常に重要な政党となっていきました。
1955年になると日本では保守合同、左右社会党の再統一が起こり、55年体制ができました。93年まではこの55年体制のもと、利益還元政治が行われたわけですが、沖縄でも55年体制に近い体制ができていきました。社会党、人民党(共産党系)、社会大衆党が一緒に戦うという68年体制と呼ばれた体制です、90年選挙まではずっとそうでした。この流れの中でも沖縄独自のことが起きます。
共産党が独自候補を立てないということもその一つです。革新共闘体制を長年にわたって築いてきました。一方で、保守系側はそもそもアメリカ軍政にすり寄る政党でしたが、県民のためにならないということがあれば、行政主席の側につかないということもやってきました。保守党を割ってでもやりました。行政主席は軍からの任命首長で、60年代になるとキャラウェイ(1905~1985年、アメリカ陸軍中将)という高等弁務官がいろいろな弾圧を行ったのですが、これに対しても自治権回復運動を行い、首長を直接選挙で選ぶ運動を展開していったわけです。つまり、沖縄の政党は常に沖縄県民のための政治をやろうとしてきたのです。
沖縄県の政党はやがて、中央政党の支部となっていくのですが、県民の利益にならなければ、中央政党の言うことを聞かないということも続きました。西銘氏が知事になって、利益還元がはびこりましたが、90年代になって米軍兵による少女強姦事件が起きると、沖縄県民が軍をこのままにはできないという運動が沸き起こります。
94年の社会党の政権交代で、村山首相が沖縄の米軍を容認するという大転換を行うと、沖縄社会党は中央社会党と断絶し、沖縄社会党は独自の道を歩いていくようになります。太田県政と橋本首相(いずれも当時)がとても仲が良かった時代がありますが、自民党本部から県連に住民投票をさせろという圧力がかかったこともありました。吉本副知事再選の動きがあったときも、中央からの指示を無視して県連は拒否しました。保守でも革新でも中央のいうことを聞かない、県の利益のために独自のことをやっていくという政党のありようがあったのです。
社会大衆党は今はずいぶん縮小してきましたが、与党の接着剤として存在意義を証明しています。復帰政党、ヒューマニズムという戦後の歩みに大きな価値を置き続けているのです。琉球民族に基づくアイデンティティというよりも、長い戦後の中で闘い、県民の権利を勝ち取ってきた歴史にこそ誇りを持っているといえるのでしょう。
ヨーロッパにおいては地域主義政党が多く存在します。それらの政党は基本的には地域の中で地域の利益を最大限にするということが目標です。必ずしも地域のための利益だけを代表するのではなく、地域からなるヨーロッパというように、結びつきを深めてヨーロッパのような発展に寄与していこうともしています。こうしたことが、日本の地域政党においても可能なのではないでしょうか。
地益優先で考えれば国益にもつながる
政党の中央による党議拘束、国策の地方への強制は可能なのでしょうか?様々な法改正により、自民党は組織政党と化し、刺客を送り込むというようなことをやり、選挙介入力を強めていきました。若手議員は、党本部のいうことを聞くのか、住民に寄り添うのかの二者択一を迫られ、党本部にすり寄るということを選ぶようになってしまっています。
お金では解決できないのが人権侵害の問題です。安全保障のために人権を侵害していいということはあり得ません。憲法では人権は何よりも優先されるべき事項として掲げられています。この人権侵害が、沖縄では「安保」のもとに起きてしまっているという悲しい現実が横たわっています。
2000年の地方分権改革法は、新しい国と地方の係争処理委員会なども設けられましたが、沖縄では残念なことに機能していないと言わざるを得ません。地方は地方の独自性を考えて、それを実現できる余地が2000年の地方自治法の改革で登場しました。日本では議会は議論をしません。議論を禁止しています。質問するだけの議会という奇妙な状況に誰も文句を言いません。でも、議会である以上議論を尽くすということが必要なのではと思います。
重要なモデルはアメリカの議会です。予算編成権を議会は持っています。実際に政策決定を行う議会になるまでに議会改革が進んでいけばよいと思います。ただ、政策形成能力のある議員はまだまだ沖縄では育っているとは思えない状況です。
公共ということを考えたとき、国益が最上位にあり、地方は下にあるというあり方は、2000年の法改正で否定されています。国益重視ではなく、地域の利益を明らかにし、それを優先することで、国にも利益がもたらされるという考え方が推進されています。地方優先の議員がたくさんいることが、地方自治の確立につながるのではないでしょうか。
◇
島袋 純氏(しまぶくろ・じゅん)
1961年、那覇市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程終了、政治学博士。93年、琉球大学教育学部政治学助教授、2007年4月より教授。2002年自治体職員や市民らと沖縄自治研究会を設立。著書に『「沖縄振興体制」を問う』(法律文化社、2013年)など。
<地域政党連絡協議会(地域政党サミット)>
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