女性活躍に埋もれる女性の健康―子育てもキャリアもあきらめない社会へ
政治山 / 2018年10月30日 10時0分
政府は2020年までに指導的地位の女性比率30%を目標に掲げましたが、女性議員は1割程度、上場企業役員の女性比率は3.7%と、このままでは目標への到達が難しい状況です。女性活躍社会の推進を妨げている課題を明らかにするために、「女性の健康推進」などの啓発活動を行っている大塚製薬の西山和枝氏による、清家あい港区議会議員へのインタビューの様子をご紹介します。
港区は女性議員3割、多様性の確保へ【西山】 港区議会における女性議員の現状はいかがでしょうか。
【清家】 国では今年の5月に「政治分野における男女共同参画推進法」の議員立法が成立しました。私もそれを推進する団体に参画し、国政、地方の候補者の男女均等を掲げて進めてきました。
安倍政権は2020年までに社会のあらゆる分野における指導的地位に占める女性の割合を3割という目標を掲げていますが、港区の女性議員の現状からお話しますと、34人中11人が女性議員で、約32%と全国と比較して高いものの、実感としてはもっと多くていいと思っています。
【西山】 女性の議員の数が増えると、意見の通りやすさなど何か変化はありますか。
【清家】 私が所属する会派は、9人のうち男性4人女性5人で、幹事長が女性であり珍しいといえます。女性がトップにいますと、リーダーシップの形として、「調整」を重視する傾向にあります。
私は2期8年目なのですが、1期目当選した時は「なんでお母さんが働くのか」という空気がまだまだあり、子どもを預けて働くこと自体が批判される風潮でした。しかし、この8年でかなり環境は変わりましたね。男女を同数にするべきだということについて、党が違っていても女性が団結して、声を挙げられるようになりました。
また、女性が多いと、いろいろな意見が入りますので多様性が確保されてきているのではないかなと思います。
女性が働きやすい環境づくりはまだまだ課題は多いですが、子育て中のお母さんたちが声を挙げることが議会の後押しになっているのは事実です。議会にもお子さんを連れてきて傍聴したりする人もいて、大変さを自分たちで変えていくんだという流れにはなってきています。
ママの声、あっという間に200人【西山】 清家議員は、政治家になろうという女性が少ない中で、どうして政治家を志したのでしょうか。
【清家】 もともと新聞記者で取材をするのは慣れていましたが、出産で会社を辞めフリーランスになった後、自分の子どもが待機児童の問題にぶつかり、なぜ問題が起きているのか役所に聞きに行きました。しかし、名刺がなければ重要なことは教えてくれないことに愕然として、「港区ママの会」という会を作って代表になり取材をしてブログで発信していきました。
そうしたところ、たくさんの方の共感を得たのです。「なんで変えられないのだろう」と多くの方が思っていて、あっという間に200人が集まりました。こうした声を届けたいと思い選挙に出ることにしたのです。その当時何も分からないまま選挙に出たんですよ。たすきの作り方さえ分からず、仕方なく主人が紙で作ってくれたという状況でしたね(笑)。
議場に「子育てママ」が増えて気づくこと【清家】 港区の女性議員11人のうち、ほとんどがママなんです。港区は全体として子育て世代が多いですし、今子育て中の女性議員も多くいます。そのため、議会中に生後6カ月の赤ちゃんを連れてきた女性議員もいて、その方は議会中の1カ月は、議会傍聴用の託児室に連れてきていました。しかし託児室が工事中だったので、議会事務局の局長室を借りてお布団を敷いて仮の託児室にしていましたね。請願にいらした区民の方も利用されていました。
子育て中の議員が働くには何が必要か、やってみて気づくこともありました。例えば託児室にテレビがあって議会中継が見られたら良いとか、神奈川県の秦野市のように議場に音が漏れない防音の傍聴室があったらいいねということが話題になりました。
また託児室には授乳室がなかったのでカーテンを設置することになり、そうしたことを少しずつ整えていっています。まず議員からやってみて、いろいろな気づきがあり、それが一般の傍聴の方にとっても便利になっていくと思うのです。
女性は自分の健康は後回しになりがち【西山】 女性議員として子育て支援や待機児童解消の取り組みを進めている中で、「女性の健康」ということで何か取り組まれていますか。また、清家議員も自身の健康で気にしていることなどありますか。
【清家】 やはり自分の健康はどうしても後回しになりがちです。仕事して家では家事と育児があって、土日はイベントがあって、休みは家族と過ごさなきゃということになると自分の健康を気遣っている時間がありません。それでもなんとかジムに行こうと思って、最も多忙な3月を過ぎた4月にジムに入会してみました。しかし、4、5月は通っていましたが、6月ころから1回も行けない状況で先日退会届を出してしまいましたね。
【西山】 仕事と家事・育児の中でなかなか健康まで気遣うのが難しいのが現状かと思います。そうした中で大塚製薬では、一般市民の方や企業を対象に女性の健康セミナーを行っています。
セミナーの目的は、(1)女性特有の身体のリズムや健康問題について正しい知識を得る (2)女性自身の健康リテラシーの向上 (3)男性の理解促進への貢献です。管理職になる年代がちょうど更年期だったりもしますので、企業も女性の管理職を増やしたいのなら女性の健康を考える必要があると思っています。
今の自分のライフステージを知り、対処方法について正しい知識を身につけ、自分に合った対処法の選択肢を1つでも多く持ってほしいと思います。企業も女性の労働生産性を上げるために、単発の女性の健康セミナーではなく網羅的かつ継続的に教育を行っていく必要があると思います。
また、先日、日本医療政策機構が発表したアンケートの結果で、更年期時の仕事のパフォーマンスは低ヘルスリテラシーの人よりも高ヘルスリテラシーの人の方が高いというデータが発表されました。リテラシーを上げる必要性について説明する際ご紹介しております。
管理職を増やし負担を軽減、メンター制度も【清家】 港区も2020年に管理職30%の目標を掲げたものの、いまだ17%の状態でまだまだ達成していません。また、女性の中には管理職になりたがらない人もいます。役所の傾向として、男性よりも女性の方が、管理職になるのが10年ほど遅れていると言われますが、結局係長になる40代が子育て期と重なっていて、昇進をためらってしまうのです。
そういったことを何とかしようという取り組みで、港区は係長を10年で100人増員しようと掲げ、係長や副係長の数を増やし負担をシェアしようという体制をとっています。また、女性管理職がこれから管理職を目指す女性職員の相談にのる「キャリアアドバイザー」の制度も実施し、メンター制度も進めています。
【西山】 管理職の人数を増やすと同時に管理職に対するフォローなどはありますか?女性が管理職になった場合プレッシャーでダメになっていく人もいます。そうした場合本人の気持ちの強さもありますが、周りの男性のフォローが結構大きいです。数を増やすだけではどうなのかなとも思いますが…。
【清家】 そうですね、数を増やして「私ができなくても他の人に任せられる」という気持ちの部分で負担軽減になるので、ワークをシェアしようという考え方は良いと思います。今港区では、働き方改革の一貫で、残業を減らし1年で1億円以上の削減に成功しました。ただ、子どもと教育などの部署は、まだ残業が多いのが現状です。
健康診断に行くくらいならお茶でもしたい!?【西山】 議員の婦人科がん検診の受診率はどれぐらいですか。日本は他国に比べて受診率が低く、自治体はクーポンを渡すなど取り組みもされていますが、港区はいかがでしょうか。
【清家】 議員は議員健康診断が1年に1回あり、子宮がん検診、乳がん、マンモグラフィー、触診は行っています。港区では、がん検診や特定健診、30代が対象の「サンマル検診」など、区民向けの様々な無料検診のメニューを用意していますが、受診率は「サンマル検診」で10%台、他はだいたい30%台。それでも、23区の中では高い方だと言われています。
私は、新聞社に勤めていた時もほとんど受診していませんでしたが、会社を辞めてフリーになって主婦になったとき、本当に行かなくなりましたね。子どもを抱えて自分の時間なんてまったくないし、健康診断に行く時間があるなら、一人でお茶でもしたいと思うくらいです。分かっているけど時間がない方が多いです。
また、会社に勤めている女性は、会社の定期健診の機会がありますが、家で子どもをみているお母さんは、健診の機会を逸してしまい行かなくなっていると思います。
【西山】 それに加え、男性は女性の健康を気にしない人が多く、妻が人間ドックに行っているかどうかなど関知しないご主人も多いので、誰も促してはくれない。乳がんや子宮がんになる原因をきちんとお伝えし、理解が進めば人間ドックに行こうと思うようになるのではないでしょうか。やはり健康リテラシーの向上は重要です。
【清家】 人間ドックに行くことを特に真剣に考えておらず、受けられるのに受けに行かない人もいます。さらに要検査が出ても受診しない人も多いと思います。私も行っていないですが…。
【西山】 健康は自分だけの問題ではなく、清家議員なら、家族のため区民のためといった周りの人のための健康でもあります。個人だけの話ではないと考えないと、自分の行動変容にはならないですよね。何でも相談できる婦人科のかかりつけ医も必要です。
議員にも更年期障害は訪れる、その対策は…【清家】 全国に議員の知り合いがいますが、女性の議員で更年期障害に悩んでいる議員は結構いるのではないかと思います。ふらふらして、とてもつらそうな人も見たことがあります。
【西山】 女性は加齢とともにコレステロール値や血圧が上がったり、動脈硬化や骨粗鬆症などの生活習慣病が増えたりします。これは女性の守り神であるエストロゲン(女性ホルモン)が閉経を迎えなくなる事が原因の1つです。
更年期は人生の折り返し地点。人生100年ライフの時代、守り神がいない50年をどう生きるか、知識があれば今何をするべきか対策が取れるはずです。
【清家】 出産に関して言えば、女性は「キャリアを捨ててでも産む」って決めないと、若い時期になかなか子どもを産めないですね。何かを捨てて子どもを産むというのが今の社会であって、20、30代でも産みやすい社会にしていかないといけないと思います。
全国の第一子の平均出産年齢は約30歳ですが、港区は約33歳と高く、不妊治療費助成も約900件で2億円超です。例えば、私は大学全部に保育園を作ってほしいと呼び掛けています。海外ですと大学に託児施設が整備されていて、子どもを連れて行って学び続ける人も多いです。出産しながら勉強して何が悪い、という社会であってほしいし、産めるときに産む制度を整えてあげないといけないと思います。
私も「このまま仕事を続けるなら産めないだろうな」と思っていました。でも、私は子どものいる人生を望んだので、断腸の思いでキャリアを諦めました。そうした「大きな決断をしなければ子どもを産めない社会」を変えていきたいと思います。
「差別」ではなく「性差」への理解を―それぞれができること【清家】 民間企業、大学、病院には保育園を作ってほしいと思います。現状ですと、大学や病院のようなまだまだ古い男性優位の価値観が強い職場の場合、女性が出産で辞めなければならないケースが多いです。男性主体の業界でもっと保育園を作ってほしいです。そもそも、女性に働き続けてもらってキャリアを積んでもらわないと女性の管理職が増えません。保育園を作るなど対策をしなければ、いつまでも何も変わらないのです。
もちろん自治体でも頑張って保育園を増やしていますが、病院や大学など半分研究職の人たちは、正規の「労働」とみなされず、保育園に入るためのポイントが低くなりがちで、入園にとても苦労している現状があります。出産、育児に関しては経験をした人でないと重要なことが伝わらない部分はあるので、女性が管理職になって様々な制度を変えていく必要があると思います。
【西山】 そうですね、女性が働きやすい環境を作らなければ管理職は増えないと思います。それに加え、女性特有の健康問題についも考慮していただきたいですね。われわれ一企業が草の根的に啓発を行っても広まらないので、行政なども女性の健康推進を一緒に行ってほしいと思っています。
港区ではキャリアアドバイザーがいらっしゃると伺いました。まずはキャリアアドバイザーの方々に、女性の健康について理解を深めてもらい、相談に来られた方に、労働生産性を上げるためにヘルスリテラシーを上げることも重要であると発信していただくのはいかがでしょうか。女性の働き方が変わっていくかもしれません。
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