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菅原文仁 戸田市長に聞く、子どもの「第三の居場所」にかける思い

政治山 / 1970年1月1日 9時0分

 2016年11月、埼玉県戸田市に「第三の居場所」の第1号拠点が開設されました。日本財団が戸田市と協力して設立し、NPO法人「ラーニング・フォー・オール」が運営する第三の居場所には、現在17人の子どもたちが訪れています。

 設立から2年、これまでの成果と今後の課題について、同所を視察に訪れた菅原文仁市長と日本財団の本山勝寛氏にお話をうかがいました。

菅原文仁 戸田市長

NPO法人「ラーニング・フォー・オール」が運営する第三の居場所を視察する菅原文仁 戸田市長

戸田市を教育日本一のまちにしたい

【市長】 私は市長に就任する前、埼玉県議会議員を務めていた際にもこの場所を訪れましたが、やはり2年経つと使用感も出て、子どもたちの暮らしに馴染んだ感じがしますね。

 家でも学校でもない、子どもたちにとっての「第三の居場所」として、この場所が地域の皆さんにも受け入れられていることは素晴らしいことです。私も「教育日本一」「子どもの貧困対策の徹底」を公約に掲げており、これからも継続して取り組んでいきたいと思います。

【本山氏】 子どもの貧困対策として、この「第三の居場所」はとても重要な役割を果たしているのですが、子どもへの支援を親がすぐに受け入れてくれない場合もあります。子どもだけでなく親への支援もセットで行う必要があるのですが、私たちだけでどうにかできるものではありません。戸田市のように担当部局を越えて横の連携を図り、全面的な支援に乗り出す自治体はまだ多くありません。他の拠点でも支援・連携を進めるため、このモデルケースを広く発信していきたいと考えています。

職員から説明を受ける菅原市長

職員から説明を受ける菅原市長

事業評価には数値だけでなく“実感”が必要

【市長】 私は「教育日本一」の公約の中で「戸田型15年教育」を掲げています。0歳から15歳まで、生まれてから中学校を卒業まで、市が責任をもって育てるべきと考えているのですが、そのためには医療、福祉、教育と様々な分野の連携が必要です。「戸田で教育を受けて良かった」と思えるような環境を整え、育んだ人材が地域に貢献・還元し、市全体が活力をもち、さらには世界に飛び出していくような人材も輩出できればと思います。

 貧困対策においても部署間の連携を強化し、支援の必要な子どもに、必要な支援が届くようにしていかなければなりません。事業においてはエビデンスを重視した支援を実施していきたいと考えていますが数値目標だけではなく、そこに実感が伴わなければなりません。数値と実感どちらも大事で、両方が揃って初めて市民も納得し、行政の事業として評価され、次の投資につながります。事業を実施してみて、変わった、良くなったという実感が形になることが大事だと思います。

【本山氏】 第三の居場所は他の拠点も含めて、それぞれ困難を抱えた子どもたちとどのように接すれば良いのか手探りの時期があり、運営当初は様々な苦労がありました。人の話をしっかりと聞けない、ものごとに集中できない、なかには歯を磨く習慣やお風呂に入る習慣のない子どももいて、少しずつコミュニケーションを重ねてきました。継続することで子どもたちに変化が表れ、変化が見られると学校の見る目も変わり、紹介も受けるようになりました。

対談の様子

「持続可能な事業として、汎用性のあるモデルづくりが必要」と語る

大切なのは箱ではなく“人”

【市長】 県議時代に視察に訪れた時と比べて、地域に溶け込んでいることを感じますね。このような雰囲気であれば子どもも集まりやすいでしょうが、ここまで来るには大変なご苦労があったと思います。設立時に奔走されていたスタッフの方とは、いろいろな地域の会合やイベントで、頻繁に顔を合わせました。そうした地道な活動を通じて地域の信頼を得ることが大事で、それは戸田市とか日本財団とかでなく、人として地域に密着したNPOの強みなのだと思います。

【本山氏】 予算があれば、箱(施設)を作ることはできますが、やはり“人”が大事ですね。子どもたちと向き合い、支えるのは地域の大人ですから。

【市長】 情熱と使命感、それに行動力がなければ、新しいことを始めることも継続することもできません。

【本山氏】 仰る通りで、戸田では17人と定員ほぼいっぱいに子どもが集まっていますが、ほかの地域では子ども集めに苦労しているところもありますし、支援が必要な子どもの把握が難しい地域も少なくありません。支援の必要な子どもへのリーチは情熱だけではできないので、行政との密な連携が重要です。戸田市においては、行政が対象となり得る世帯の情報をまとめ、NPOと連携することで本当に必要な世帯の子どもが利用できる状態を実現しています。

 第三の居場所は現在、全国に13拠点ありますが、これを増やしていくためには自治体や学校、そして地域の協力を欠かすことはできません。

第1号拠点から全国へ、持続可能な事業計画を

【市長】 親の経済事情や家庭環境などによって、例えば新しい上履きを買えない子どもがいるといったことも耳にします。子どもの貧困という深刻な社会課題を解決するモデルをつくって、全国に広げていきたいと思います。

【本山氏】 全国13の拠点は地域ごとに工夫を凝らしていて、先だってはその運営者や自治体職員らが集まって知見を共有する研修会を開き、全国への拡大を加速していきたいと考えています。

【市長】 その第1号拠点として戸田市ではパイロット的な取り組みを行っていますが、拡大していくためには持続可能な事業として、汎用性のあるモデルづくりが必要です。原資が集まる仕組み、誰もが参加できる支援体制づくりを実現するには、行政だけでは限界があります。民間企業やNPO、地域の力も集めていきたいと思います。

【本山氏】 運営コストを抑えつつ、子どもたちの成長を支える拠点をどのように広げていくかは、私たちも様々な試みを実施しています。当財団では様々な寄付を募っていますが、生活困窮家庭の子どもたちを応援したいという方々はとても多く、最近では遺贈寄付(編集部注:物故者または相続人が遺産を寄付すること)も増えてきています。こういった呼びかけも継続していきます。

第三の居場所のこれから

【市長】 他の地域への展開も大切なのですが、戸田市内でもすべての子どもに十分な支援の手を差し伸べられているわけではありません。市がこれまで実施してきた既存事業だけでは、負の連鎖を断ち切ることはできません。今年度、埼玉県と連携して子どもの生活実態調査を実施しましたので、その結果を元により実践的な施策を検討していきたいと考えています。

 引き続き地域の方々の協力もいただきながら、ここで得たノウハウや課題を全市的に広め、国や県の支援メニューとの組み合わせなども見ながら総合的に検討していきたいと考えています。

【本山氏】 私たちとしても拠点拡大の取り組みを継続するとともに、次のフェーズとして、国の予算措置につながるような政策提言、制度改革の働きかけなどを行っていきたいと思います。そのためにも、より多くの自治体職員や議員の方々に、この取り組みを知ってもらえればと思います。

日本財団の本山勝寛氏(左)と菅原市長(右)

日本財団の本山勝寛氏(左)と菅原市長(右)

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