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行政と市民の話し合いが炎上する理由・前編―遠藤ちひろ多摩市議

政治山 / 2019年3月7日 10時0分

 納めた税の「使い道に文句を言う側」から「使い道を決める側」に回ろうと決心したのは25歳の時だった。仕事をしながら初めて立った朝の街頭遊説では通り過ぎる市民の目すら見られなかったが、地盤のない東京多摩を舞台に9年かけてやっと市議会議員に当選。8年が過ぎ、それなりに議員としての振る舞い方もわかってきた。

 しかし市議会というもっとも市民に近い現場にいるはずの私は、一周回って住民自治や市民参加が一体なんなのかわからなくなってきている。

市民討議会をさらに発展させた多摩市の「SIMたま2030」

市民討議会をさらに発展させた多摩市の「SIMたま2030」

 議員も行政も何かと言えば「市民主権」と唱えるものの、実のところ政策立案過程に市民がコミットする仕組みはまだまだ未完。このご時世、政策決定の前に市民意見を聞かないとならないから場所を用意するものの、来場市民の多くと行政マンの間には前提となる情報に開きがあり過ぎて、議論がかみ合わない。

 政治行政関係者の間では、地域住民=勉強せずに来庁し要求ばかりを居丈高に重ねる面倒な人々、という図式にすらなっている。

 なぜなのか。

 民間企業には優れた人材が多々揃っている。そのビジネスパーソンが家に帰れば地域住民になるのだから、住民としても交渉スキルは高いはず。だが自分の仕事であれば会議に出る前に、過去のレジュメや議事録くらいは目を通してから参加するだろうに、地方自治体の意見交換会では予備知識ゼロで感情のままに足を運んでも平気な顔をしてしまう。

 そのため前提となっている法規制や、これまで重ねてきた議論を行政マンは毎回、一から説明し直さなければならなくなる。行政側も住民向け意見交換会をガス抜き程度にしか捉えなくなるのも無理はないだろう。これではもはや話し合いとは言えない。

優秀なビジネスマンですら豹変

 議員になって2、3年目のことだった。地元のパパからメールをもらい、引きこもっている我が子のことでお話を聞くことになった。会ってみると、初対面ながらお父さんは大変理知的な方で、労働法規も読み込んでいるし、目下のところ市が揃えている行政サービスについてもすでに把握をされていた。

 引きこもりの我が子(といっても成人しているが)に就労と社会復帰の機会がほしいとのことで、近隣の公的機関に就労できないかという相談であった。当時は子ども・若者支援推進法も未整備であり、結論から言うと数少ない非常勤職員枠はすでに埋まっていてご期待に添えなかった。

 担当課長も恐縮しつつ、その旨を伝えて民間企業での就労を勧めたのだが、そのお父さんは表情を固くしてなかなか引き下がらない。これがビジネスの現場であれば彼ほどの人だ、状況を理解したうえで違う作戦を考えたり搦め手を探ったりするだろう。しかし、こと公務員・行政が相手になるとなぜかテンションが変わる。

 「なぜ雇用枠を拡充しないのか」「他の自治体では適切な対応をしていると聞いている」という無理押しを始めてしまい、挙句は公務員としてちゃんと仕事をしているのかといった感情的な言葉まで飛び交う始末。こういう対立モードになってしまうと、行政もおなじみの慇懃無礼な仮面を持ち出して、話は聞くものの時間と怒りが過ぎるのを待つという防御態勢をとるため、話し合いは何の実を結ぶことなく終わることになる…。

 繰り返すがこの方は地域社会にもコミットし、バランス感覚を持ったビジネスパーソンである。だが、ひとたび「納税者・地域住民」という鎧を着ると多くの市民がコワモテ要求テンションになってしまう現場をしばしば見て来た。自分たちは納税しており、正当な行政サービスを受けて当然。ひとたびその要求が通らないと、簡単に感情ダムの決壊へと向かってしまうのだ……。

(後編へつづく)

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