[当事者と地方議員]高校中退・不登校―山本たかし中野区議
政治山 / 2019年4月6日 6時0分
4年に一度の選挙シーズン。地方自治体選挙にも注目が集まっていると思います。人によってはマイナスの要因として見られることもあった課題・特性を持った5人の方に取材しました。課題を抱えながら社会をどう考えていたか、選挙に出て、議員となって何を感じたか?なぜ当事者が必要かを答えていただきました。
山本たかし中野区議会議員(1期)高校中退・不登校
高校不登校、中退、大検を受け大学に進学後、引きこもりを経験。「やり直せる社会こそ豊かな社会」と山本区議。2015年初当選。
議員になる前、当事者として選挙、政治への思いは当事者という視点で言えば、高校時代に不登校を経験し、高校を辞めて中退となり、大検学校に通い大学入学資格検定を取得し、大学に行くも1年後期あたりから1年程度ひきこもり状態となってしまいました。復帰してから大学時代、司法試験を目指しましたが叶わず、非正規社員をやりながらその後もチャレンジを続けていました。法科大学院がちょうどできる時期にチャレンジも辞めまして、西沢けいた東京都議会議員の秘書、長妻昭衆議院議員の秘書を経て、今に至ります。
高校の時、僕は不登校真っ最中でした。学校に行ったり行かなかったり、不登校は年間30日以上の欠席が定義ですが、それ以上に行けませんでした。高校を辞めてからは、高校進学が叶わなかった人や中退者が通う大検学校に行った際、やんちゃそうな人からすごく静かな人など、様々な人がそれぞれの理由で学びに来ている姿がありました。ただ皆、悩みや生きづらさを抱えているのは共通点であったと思います。
不登校となったきっかけなど、人によってそれぞれ違いますし、事情も複雑に絡んでいるため、安易に類型化はできません。また、その後、復学したいのか、フリースクールに行くのか、それ以外かも千差万別です。私や誰かの発言だけで不登校全体と見てもらうと見誤るということは皆さんに知ってほしいと思います。
不登校だけどバンドの練習には行っていた頑張って好きな高校に入れたのですが、自主退学で高校中退した時、「終わりだな。人生どうなっちゃうんだろう、頑張って高校入ったのに、中卒になってしまった」と思いました。高1の時はまだ通えていたのですが、高2の時に行けたり行けなかったりの五月雨登校となり、留年して下の学年と頑張りましたが、苦手科目が追試でもクリアできず、また留年となってしまい、高2(同じ学年)を3回はできないルールだったので、辞めざるを得えない状況となりました。
20年以上前の話ではありますが、挫折したり失敗した時に、大検学校に通えるとか、大学受験に再チャレンジできる機会が与えられるというのは、親の資金的な体力がとても大きかったと思っています。生まれた環境に左右されて能力の発揮や将来を描けない。これは政治が何とかしないといけないと強く思っています。
大検学校の時も特にアルバイトなどはせず、朝から夕方までずっと通っていました。今は高卒認定試験と呼ばれていますが、当時の大検は1年かけて1教科1年分の範囲、プラス取得しなくてはいけない科目数をやらなければならず、一発勝負だったので結構きつかった思い出です。
高校時代は軽音部の活動が楽しくて、登校してバンド練習だけやって帰るということもありました。あと、心配して声をかけてくれる友人たちがいて、それもさっと辞めずに頑張れた理由だと思います。中退した後も、変わらず声をかけ続けてくれた友人に感謝しています。親の資本力と同等に、理解ある先生と仲間も重要ですよね。
大学時代では、社会の生きづらさに興味を持ち、少年院や児童養護施設、鑑別所、刑務所など更生処遇の研究ゼミを選んで没頭しました。
当時、「うつ」という言葉が流行り出し、ポケベルやPHSを高校生でも持つようになりました。持った直後は「つながって嬉しい」という感覚だったのが、徐々に「つながれるのに生きづらい」と感じ出し、「つながりって何だろう」という問いを持ち始めた時代でした。しかし社会にはそういったツールを持つことができず、つながることができない同世代の人も多くいることを知り、視野が狭かったと恥じたことを覚えています。
ボーナスがないと生きられない?大学時代、(後に判明することですが)最後の就職氷河期世代であり、新卒で就活に失敗したら終わりだよねという不安が同世代を覆っていたと思います。みんな必死に就活をやってました。そこで決まらず、若いからまだいいかと派遣や契約の道に行った人も多くいると思います。
派遣社員として働いて思ったのは、賞与、ボーナスがないと人生設計が難しいなと思いましたね。月数万円を給料から貯めても、結婚資金が貯まるのか、みたいな話です。
世の中、うつ病で辞めていく若手社員もよく聞くようになった時ですが、男女問わず非正規はさらにしんどい状況に追い込まれる。辞めたら、もう下降一直線じゃないですか。滑り台社会だなと思いました。こういう働き方が助長される社会でいいのだろうかと思いましたね。人を人らしく、育ち活かせる社会にするために、どうにかして社会を変えたいと考えていました。やはり自分のことで手いっぱいの社会を変えていけるのは政治の力だなと思い立ち、縁あって当時、都議選の新人候補予定者だった西沢けいたさんの活動を手伝うこととなりました。
当事者として実際に当選してから感じた事や取り組み4年前、初当選の時に「不登校対策」を訴えていました。
私は中野区なので、小中学校の教育は中野区教育委員会が管轄していますが、教諭は東京都教育委員会から配属されている構図があります。議員になって感じたことは、地方自治体へ教育関係の視察を重ねるごとに東京都と中野区の教育委員会の連携が円滑でないなと思いました。
簡単な例を挙げると、中野区の中学校を卒業し、都立高校に上がり、そこで中退した区民の人数は何人かと聞いてもわからない。他自治体に視察に行って、担当者に把握してますか?と聞くと知っている。中学校を卒業して都の管轄の高校に行っても、区民は区民ですし、その後の情報の連携を図る必要があると感じます。特に中学校で不登校や不登校予備軍だった区内の子どもたちが、その後どういう状況かを追わずして、今行っている教育の成果を測ることなどできないと思います。
先生も教育委員会も忙しいのはわかりますが、そこの感覚、視野を広げて把握してもらわないといけません。中学卒業後でラインを引いて弾き、その人たちを区が追わなくなると、区の支援の目からこぼれ落ちていくんですよね。
中学卒業後、引きこもったり、中退し、大学に行けず、就職できなかったり、病気になったり、結果、仮にですが、生活保護にならざるを得ない環境に至った時に、どこが現場として支援をするのかと言えば、やはり基礎自治体(中野区)です。自分たちの区民のことなのだから自分ごととしてしっかり伴走しないと。
また追跡する視点と同時に、より手前の支援が肝心だと感じます。引きこもりの前に不登校があって、不登校の前に10倍予備軍がいると言われています。前段階で伴走して予防した方が、支援する側のエネルギーは軽くなり、他にも力を割けます。
そこで、電話相談だけではない、今の時代に合わせたSNSを用いた相談ツールが必要だと提案しました(中野区は来年度から始まります)。子どもたちのSOSを受けとめることも必要だし、子育てに関する保護者の悩みもそう。
三菱UFJリサーチコンサルティングの調査では「地域の中で子育ての悩みを相談できる人がいる」と答えた母親は平成14年度では73.8%から平成26年度は43.8%まで下がっています。
SNS相談システムはスマホを使いインターネットに手軽により多くの情報を入手しやすくなるも、どれが正解かはわからない。昔と違い頼れる祖父母も近くにいない、といった保護者の悩みを受け止め、前に進むためのツールとして期待されます。学校にはスクールカウンセラーもスクールソーシャルワーカーもいて活躍してくださっていますが、保護者もまだ電話で相談をするまでじゃないかななど、潜伏期間を経て、より課題が表出してから電話相談となる傾向にあり、あまり利用されていないのが実態です。早い段階で端緒を掴んで、子どもたちがいきいきと成長してほしいです。
なぜ当事者が必要か?当事者にできることとは?当事者議員にはその課題の解決に強い思いがあるので、議員になっていると思います。ゆえに、行政は「この議員はこういう背景があるんだな」と認知して、そのテーマに聞く耳を持ってくれやすいと感じます。ただ、単発の本会議の質問なら、当事者じゃなくても想いを持てば質問しますが、当事者であると、より想いを継続して取り組みますし、周りを巻き込んでいこうとすると思います。そのぐらいのパワーがなければ、役所は新しいことをやりたがらないと思います。役所は一度始めた事業を簡単に止めれない。だから、この事業をやる必要があるんだということを行政に認識してもらい、これはやるべき事業ですと首長を説得するには、当事者が変えたいと声を上げ、議員となっていくことは実現へのスピードが違うと思います。
当事者じゃないとわからないデリケートなテーマであればあるほど、簡単には触れられないと感じる議員は多いと思いますが、その当事者なら説得力を持って扱うことができる。様々な課題において、当事者議員が増えて、アクションを起こして社会が変わっていければいいですね。
同じ課題・特性を持った方へのメッセージ不登校や引きこもりに関しては当事者の皆さんや支援する方々の発信で、国の行政もしっかり取り組むべき政治課題として認識されるようになってきたと思います。
小さい団体には、組織力のある団体が行うロビイングや、議員への献金などができる体力を持っていません。また、それができる団体に予算や政策が引っ張られすぎているとも思います。長妻昭衆議院議員の秘書時代に、長妻さんはそれを「政治の力を最も必要としている人が、政治と最も遠い所にいる」と表現しているのを聞いて、区議となってからもその傾向はあるなと感じています。
その理念も訴えて議会に送り込んでいただきましたが、今もその想いは変わっていません。
不登校や引きこもりで苦しんでいる人や保護者、そこをサポートする支援者が力を合わせられる体制づくりに引き続き取り組んでいきたいと思います。
大学の時の更生保護研究や就職氷河期の非正規雇用の経験を通して、「やり直しができる社会こそ豊かな社会」を信念に、伴走支援の輪が拡がるように中野区から変えていきたい。
心の孤独を抱えるすべての人に「自分はひとりじゃないんだ」と、思える社会・地域づくりには、おこがましいかもしれませんが、「経験した自分にしかできない!」という気持ちで身を引き締めて取り組んでいきたいと思います。
※次回は、発達障害・てんかん・自死遺族の当事者として、おぎの稔前大田区議にご登場いただきます。
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山本たかしプロフィール
1980年2月26日生まれ 39歳。武蔵工業大学附属中学校卒業、中央大学杉並高校で不登校を経験し中退、大検取得。青山学院大学法学部卒(刑事政策ゼミ)後、IT企業で派遣社員として働く。
東京都議会議員西沢けいた秘書として都のムダ遣いを共に正し、衆議院議員長妻昭秘書として国の現場を支える2015年中野区議会議員選挙にて初当選。「やり直せる社会こそ豊かな社会」の実現に向けて活動を続ける。
防災士・野方消防団第4分団員・更生保護団体 中野区BBS会副会長・中野区キャンプ協会役員
家族:妻・娘(1才) 趣味:登山・キャンプ・合唱・神輿
山本たかし氏プロフィールページ
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