お役所仕事を変えるには?起業家が公務員を3年追って分かったこと
政治山 / 2019年8月27日 10時0分
「『人の根源的な幸せに繋がるが、儲からない事業』を、維持可能なビジネスへと育てる」という、聞きなれない言葉を経営理念に掲げるのは株式会社ホルグだ。同社代表の加藤年紀さんは、起業から約3年の時を経て、8月8日に著書「なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?-常識・前例・慣習を打破する仕事術」を出版した。同書は予約が殺到し、発売日の1週間以上前に増刷が決定、発売後も2週間を待たずに2度目の増刷となった。
政治山は創業後の同氏に注目し、「創業から売上ゼロ!『地方創生』ではなく『地方自治体』にこだわる社会起業家」等の記事を2年以上前から掲載している。本記事では、同氏の著書に秘めた想いから、事業の経過について改めて伺った。
![株式会社ホルグ代表の加藤年紀さん](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2019/08/3322e01f3b72a59188c8be5839a47df5-500x333.jpg)
株式会社ホルグ代表の加藤年紀さん
――8月に著書「なぜ、彼らは『お役所仕事』を変えられたのか?-常識・前例・慣習を打破する仕事術」を出版されました。読者に何を伝えたかったのでしょうか?
【加藤】 地方公務員は「出る杭は打たれる」という組織です。ただ、その中にあっても大きな成果をあげている公務員が存在します。そこから10人を紹介して、いかに彼らが成果をあげるようになったのかを体系的にまとめています。組織の中でモヤモヤしているけど、何か実現したいことがある場合に、どのように行動すべきかヒントを書きました。
――成果をあげる公務員に共通する要素はあるのでしょうか。
【加藤】 あります。まず前提として、多くの場合は自らの力で、上司からの信頼を勝ち得ています。よく、「アイツは上司が許してくれたから運が良かっただけ」という批判的な意見が公務員内で出てくるのですが、これは正しい解釈ではないと考えます。
重要なポイントは、寛容な上司だとしても、誰にでもやりたいことをやらせるわけではありません。部下のやりたいことに、成功可能性があるから任せるわけです。部下が失敗したら当然、上司の責任になりますよね。誰でも、わざわざ責任を取らされるようなことはしたくない。だからこそ、やりたいことを実現するためには、普段から職場で信頼を獲得している必要があるのです。
――成果をあげる公務員はどのように行動しているのでしょうか。
【加藤】 細かなやり方は千差万別ですが、傾向は同じです。まず、改善すべき課題を発見し、次に、その根拠や大義の練度を高める。そして、最後に風を読むこと。風を読むというのは、しかるべき人に、しかるべきタイミングで提案しているということです。
――企業の中で何かを実現したい場合でも、同じことが言えるかもしれませんね。
【加藤】 本質的には同じだと思います。ある大手メディアの方が、「公務員でイノベーティブなことをできている人は、世の中のすべての組織の中で、最も改善や改革を進める能力が高いのではないか」とお話しているのが印象的でした。その人の論拠はこうです。「民間企業の場合は、最終的に会社を辞めて自分の力で食っていける業種も多い。だから、能力のある人は必ずしも組織と同じ方向性を見続けるわけではない。一方で役所は出る杭は打たれる組織。一定のルールを侵さない中で変革を起こす必要があり、その難易度は非常に高い。だからこそ、成果をあげる公務員は、組織の中で改革や改善を進めるトップ中のトップ人材だ」と。
![なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?-常識・前例・慣習を打破する仕事術](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2019/08/e4abf7da3cb629b66f07cd419201863b-342x500.jpg)
amazon「日本の政治」「公務員・官僚」カテゴリ、楽天ブックス日別「政治」カテゴリで1位を獲得した
――創業されて売上ゼロの状態から3年経ちました。御社の事業展開は順調に進んでいるとお考えでしょうか。
【加藤】 今まで進めてきた様々な事業が相乗効果を生むようになり、少しは企業としての体を成してきたと思います。例えば、著書を読んでくださった方が、『地方公務員オンラインサロン』という、学びや交流を促進する有料コミュニティに入会するケースも生まれています。現在、このコミュニティの参加者は236名に達しました。
また、「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード」という、地方公務員を表彰するイベントを2017年から毎年開催しています。2019年には日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)さんが後援に参画してくださったり、協賛企業に電通さんやNECのグループ会社さんのような大企業も並ぶようになりました。
もちろん、弊社の売上規模は今でも小さいですが、それは問題視していません。創業から掲げる「『人の根源的な幸せに繋がるが、儲からない事業』を、維持可能なビジネスへと育てる」という経営理念を着々と進めているに過ぎないからです。
――以前は、一部上場企業の海外子会社でトップも務めました。この3年間で、退職したことを後悔したことはありませんか。
【加藤】 まったくありません。日々、変化を手触りで感じることができて、とても充実しています。もちろん大変なこともありますが、事業を通じて目の前の一人ひとりの方に、喜んでもらうことができるからです。
今後、恐らく、人はお金を稼ぐことから、他人に喜んでもらえる事業や行動をとることに、少しずつシフトしていくと思います。それが、人にとって最大の幸せになる時代が来ているからです。公務員は既に長らく、市民や社会へ貢献するという大きな役割を担っているはずですよね。しかも、地域の中で独占的に。だからこそ、行政組織には大きな価値があるのだと思っていますし、公務員にも同様に価値があるのではないかと、私は信じています。
◇「なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?-常識・前例・慣習を打破する仕事術」
「出る杭は打たれる」と言われる公務員の世界にありながら、業務分野の地味・派手を問わず、自らの信念を貫き、役所の中で成果を上げてきた公務員たちがいる。苦難にぶつかりながらも、「常識・前例・慣習」を乗り越えた10人の実践を通じて、組織の中でやりたいことを実現するヒントを伝える。すべての組織人に「一歩踏み出す勇気」を贈る一冊!
◇地方公務員オンラインサロンとは
2019年元日にオープンした、地方公務員限定のコミュニティ。活躍する首長や公務員のウェブセミナー・ウェブ交流会に参加可能。メディアへの寄稿や新たな人脈の構築、士業などへの相談など、公務員が活躍する場を広げることが可能。2019年8月時点で235人が在籍。
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