「議員報酬&議員定数の全国データ2020」を読み解く
政治山 / 2020年2月19日 10時0分
今般、早稲田大学マニフェスト研究所により「議員報酬&議員定数の全国データ2020」が公開されました。最近人気のBIツール(※)を用いており、見る側の操作で動的にグラフを変化させ、ニーズに応じて読み取ることができるのが特徴です。末尾に貼り付けますので、若干小さくはなりますが、まずは見本としてご覧いただけたらと思います。
※BIツール:BIはBusiness Intelligenceの略。膨大な情報を可視化し分析するツール。
今回、私はこの作業を担った者の一人として、データから見えた傾向と分析を報告したいと思います。
ただし、基本的な姿勢として、今回は報酬や定数について「こうあるべきだ」といった主張をするものではありません。むしろ、地方自治の本旨に則り、市区町村の議会のあり方は多様であっていいと考えています。また、住民自治の観点からも、各市区町村の住民や議員らの活発な議論を通して決定すればいいと考えており、そのための素材となることを願って情報提供するものです。
とはいえ、淡々とデータの羅列をしてもお役に立てないでしょうから、データから読み取ることのできることを、できるだけ面白く、でもなるべく主張を交えずに読み取ってお伝えしたいと思います。
なお、データソースは2020年1月1日時点で全国市議会議長会及び全国町村議会議長会のホームページに掲載されていた、いずれも2018年度の調査結果です。
報酬も定数も人口との相関が強い政治山の過去記事でも同様の調査を報告していますが、報酬も定数も市区町村の人口との関連性が深く、面積とは相関性が低くなっています。
面積については、相関係数が報酬とは0.05、定数とは0.23でした。「1に近いほど正の相関が強く、0に近いほど関連が薄い」というものですので、あまり関係ないと言っていいでしょう。「大きな市区町村では、広い面積をカバーするため、その分多くの議員が必要とされるかもしれない」と想像していましたが、そのようなことはありませんでした。
一方、人口については、相関係数が報酬とは0.92、定数とは0.98であり、高い相関が見られました。そのため、グラフ類の作成にあたっては、面積の要素は割愛し、主に人口と対照させて提示しています。予めご理解いただければと思います。
なお、定数については、かつて人口に応じて法定で定数を定めてきた歴史が尾を引いているものと考えられます。ただし、報酬については、なぜそのような傾向があるのか、ご説明できるような材料を持ち合わせていません。
異彩を放つ唯一報酬ゼロの福島県矢祭町データを見ていて、まず目を引くのが報酬0円の福島県矢祭町です。ここは、日本で唯一の日当制を採用しています。そのため、月額としては0円で、ボーナス(期末手当)もありません。議会のある日に出席すると日当30,000円が支払われる格好です。
こうした「基本的にはボランティアで、費用弁償的に日当を支払う」というスタイルは、欧州や米国の中小規模の地方議会で最も多い報酬形態のようです。
報酬も定数もランキング1位は、日本最大の横浜市次に目立つのが報酬でも定数でも第1位の横浜市です。
人口370万人を超える日本最大の基礎自治体は、その分、報酬も定数も多いようです。報酬は都道府県議会並みの年額1658万円で、かつては神奈川県議よりも高い額でした。定数については、人口270万人超の日本第2位の基礎自治体・大阪市が86人の同数第1位となっています。
定数1位タイの大阪市は報酬では14位ところで、面白いのが、定数では全国1位タイの大阪市が、報酬については全国第14位となります。
政令指定都市平均の1338万円よりも低い1296万円で、大阪維新の会の「議員報酬30%削減」との主張を受けて各党とも「身を切る改革」を訴えたことが影響しているものと思われます。
揺り戻しの名古屋市大阪と同様に地域政党の影響を受けた事例が、人口230万人で第3位の名古屋市です。
名古屋市はかつて報酬1655万円だったものが、2011年に河村たかし市長率いる減税日本が提案した「報酬半減条例」で800万円まで下がりました。800万円は、中核市平均の1017万円や特別区(23区)平均の1054万円よりも低い額で、むしろ一般市平均の643万円に近い水準です。
その後、2016年に政令指定都市平均の1455万円に増額したようですが、今回の調査時点では1388万円であり、現在の平均に近い額となっています。
旧五大都市は都市の「格」が高い?大阪市と名古屋市は人口の割に報酬が低くなった例ですが、逆に人口の割に報酬が高く目立つのが神戸市です。人口では6位なのに、報酬は第2位の1537万円となっています。
このように見ていくと、戦前の旧五大都市である横浜市・名古屋市・京都市・大阪市・神戸市は、前述の大阪市と名古屋市を除いて報酬が高めとなっているようにも見えます。旧五大都市は、戦後にできた政令指定都市制度にも第一陣として指定されましたので、都市の「格」が高いという意識が働いている可能性もあるのではと推測しています。
また、他にも人口14位の北九州市が報酬では第4位の1470万円となっているのも目立ちます。この背景には、かつて人口6位で五大都市以外で初めて政令指定都市になった誇りや、報酬3位で1483万円の福岡市に、人口で追い抜かれたことへのライバル心が働いて同レベルの「格」を維持しているのかもしれません。
また、旧五大都市と北九州市は、定数でも傾向線より高めとなっていますから、歴史的「格」意識の存在をますます疑ってしまいます。
人口も権限も小さい千代田区が高報酬の謎飛び抜けている政令指定都市を外してみると、最も人口の割に報酬が高くて目立つのが千代田区です。6万人強の人口でありながら、中核市平均や特別区(23区)平均を上回る額の1065万円を支払っています。
これについては、特別区を抜き出してみると人口規模に関わらず、23区とも1000万円前後に収まっていることがわかります。992万円の台東区から1090万円の大田区まで、23区ほぼ横並びとなっている模様です。人口を基準とせず「同じような仕事をしているのだから同様の報酬を支払おう」という考え方は理解できます。
ところで、東京23区は扱っている業務や権限は一般市よりも限定的であることがよく知られています。その分は都庁が担っているのです。ですから業務範囲としては、分野によっては町村より多く、分野によっては町村よりも少ないという格好です。
しかし、ある東京23区の区議に「まちの格はどの辺りのイメージなんですか?」と聞いたら「そりゃ、首都東京でもあるし、中核市の上ぐらい」という回答が返ってきて驚いたことがあります。こうした自己認識は報酬面でも、中核市平均1017万円に対し特別区平均1054万円という形で反映されていると言えるでしょう。
もちろん、カバーする行政分野だけでなく、住民からの相談件数や会議の開催数など、仕事量を測る指標は様々だと思いますので、ここから先は東京23区の区民のみなさんが判断することになります。
夕張市は、やはり最低額年額報酬をよく見ていくと、最低額は北海道夕張市でした。なお、期末手当情報がなく年額がわからない町村を除いた場合の話です。財政再建団体となったことで知られる夕張市は段違いに低く、年額260万円となっていました。
定数も9で、一般市で2番目に少ない定数です。もっとも最少は歌志内市の定数8であり、一般市で人口最少が歌志内市3,000人強、次いで夕張市8,000人強ですから、人口相応ということでしょうか。
町村の定数には「20人の壁」?ここまで報酬を中心に見てきましたが、目を転じて定数の面で気づきがないか見てみました。
定数は過去の法定の経緯もあってバラつきが少なくなっています。ただし、町村の定数を見ると過去の法定上限より、かなり少なく抑えられていることに気づきます。不思議なことに町村の定数には「20人の壁」でもあるようです。人口5万人を超える、市にもなれるような町村でも18人にとどまっています。
定数には「偶数の法則」があった!そして、グラフを拡大して初めて気づいたのですが、定数が偶数の町村が明らかに多いですね。「こういう所がデータ・ビジュアライゼーションの面白さだなあ」と思います。そこで、926町村を全てカウントしてみました。すると、奇数が152町村、偶数が774町村で、偶数が84%を占める結果となりました。
ちなみに、町村を拡大して見たから気付いたわけですが、全体の1741市区町村ではどうかも確認しました。すると、全体でも同じ傾向で、奇数が308、偶数が1433であり、実に82%が偶数でした。
なぜ、こんな不自然なことが起こるのか?
ヒントとなるのが、2018年に議長選挙を99回もやり直して話題となった与那国町議会の事例でしょう。このケースでは、定数10の議会で5対5の対立構図ができており、採決に加われない議長を自分たちの仲間から出してしまうと4対5で採決で負けてしまうために、両陣営とも議長を辞退し続けたとのことです。つまり、議長選挙以外の通常の採決において、このように賛否が拮抗して決められないという事態を防ぐために、定数を偶数にして議長を除くと採決に加わる議員が奇数となるようにしているのではないか?
この推測に自信がなかったので調べてみると、既に同様の指摘をしている論文はあり、もはや定説だったようです。また、振り返ってみれば、かつて法定定数だった時代にもすべて偶数とされていましたし、その後の法定上限を定めていた時代にも上限はすべて偶数でした。きちんと理由があってのことだったのですね。
定数最少は、北大東村今度は町村のうち、人口が少なく定数が少ない部分を取り出してみました。
人口1,000人以下の市区町村は30あり、全て村でした。いずれも、定数8以下でした。こういった人口の少ない村では、議会を廃止して「町村総会」を模索していた高知県大川村を筆頭に、議員のなり手不足に悩む村の名前がいくつも見られます。
そして、定数が最少だったのは定数5の沖縄県北大東村でした。議長を除くと審議や採決に加わるのは4人ですから、かなり議論を密にやりやすいだろうと思われます。
定数×報酬=直接的民主主義コスト?ここで今回、「直接的民主主義コスト」という造語を持ち出してみます。
これは、定数分の年額報酬のことです。つまり、その市区町村の住民は、議員らを年間いくら払って雇っているのか、というものです(ちなみに、ほとんどの議会では議長と副議長の報酬は一般の議員よりも多くなっていますので、定数分の報酬は単純な定数×報酬よりも若干高くなっています)。
「直接的」と言うのは、実際には議会費としては事務局員の報酬や議場の維持管理などその他の間接的コストもかかるため、議員全員への報酬を議員を選ぶ代議制民主主義という制度への直接的コストと見做したものです。
これを人口と対比させると、相関係数0.98でした。つまり、「多くの市区町村では、人口に応じて民主主義のコストを負担している」とでも言えるでしょうか。
一人当たりで見るとガラリと景色が変わる。ところが、この「直接的民主主義コスト」とやらを人口一人当たりで見てみると、ガラリと見え方が変わってきます。
人口最多で370万人超の横浜市では、議員86人に毎月8229万円、期末手当も含めた年間では14億円以上も払っており、その金額に驚いてしまいます。しかし、横浜市民一人当たりで割ると毎月22円。年間でも383円ずつ出して議員86人を雇えていることになります。意外にも、これは全国で最も市民負担が少ない市区町村となります。
一方、人口最少で162人の東京都青ヶ島村はどうでしょうか。議員6人に払う額は毎月90万円であり、報酬ゼロの矢祭町を入れても5番目に低い負担となっています。しかし、村民一人当たりでは毎月5,524円もの負担! 当然、全国で最も一人当たりの負担が重い市区町村となります。単純計算で12カ月で6万6,288円となり、これにボーナス分も加えると村民一人当たりの負担は7万円を下らないのではないでしょうか。
もちろん、地方交付税交付金(国からの仕送り)などもありますから、これが直接に村民の負担となるわけではありません。しかし、議会制民主主義にかかるコストは小さい市区町村ほど負担が大きいことがよくわかります。人口402人の高知県大川村が、村民一人当たり毎月2,555円を負担しながら議会を維持するよりは、「村民みんなで年一回集まって株主総会を開いたほうが、直接意見も言えるし、年間一人当たり3万円以上のお金を別な行政サービスに使えるし、いいんじゃないか?」と考え始めたのも理解できます。
まとめ冒頭に述べたように、市区町村の議会のあり方は多様でいいはずです。定数の上限も撤廃されました。町村であれば、議会を廃止することもできます。
海外の地方議会を見れば、本当に多様です。日本より定数が多く、代わりに全員ボランティアの国もあります。少数精鋭で、会計士や税理士のような経営のプロを高報酬を払って選ぶ市もあります。そして、住民全員で話し合って決めるまちもあれば、議会など置いてはいけない国もあります。
地方自治は、自己決定・自己責任です。どんなまちにしたいのか、住民がよく考えて、自分たちが望む議会のカタチをつくり、そこでまちの今後をしっかりと議論していく。今回のデータ分析が、その材料の一つとなれば幸いです。
(参考)市区町村議員の報酬&定数
- 小林 伸行(こばやし のぶゆき)
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神奈川県横須賀市議会議員
2011年4月より横須賀市議会議員。地域情報誌と環境コンサルティングに携わるが、地域の疲弊と日本の将来を憂い、政治を志す。政策秘書試験合格後、国会議員公設秘書として修行し、現職。2020年4月より早稲田大学公共経営大学院に入学予定。
ホームページ/facebook/twitter
小林伸行氏プロフィールページ
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