国会議員が逮捕されない「不逮捕特権」とは
政治山 / 2020年3月25日 11時28分
3つの議員特権
国会議員には憲法で認められた3つの特権がある。
- (1)歳費特権(憲法第49条)
- 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
- (2)不逮捕特権(憲法第50条)
- 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
- (3)免責特権(憲法第51条)
- 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
(1)は金銭に関して、(2)は議員活動に関して、(3)は議会での発言に関して、それぞれ国会議員の自由な活動を保障するために設けられた特権であるとされている。
他にJR全線の無料パスや安価な議員宿舎も議員特権であるとして批判されることもあるが、厳密に言うと、それらは議員特権ではない。憲法上で規定されているのは上記の3つの特権だけであり、その他は議員の待遇の問題であって、別の根拠法によって規定されている。
不逮捕特権とは議員の特権のうち、特に問題になるのは(2)の不逮捕特権だろう。
この特権は、政府が議員の活動を妨害するために逮捕したという歴史的な背景があって、そのようなことが起こらないように設定されたものとされている。
憲法の条文にあるように、国会議員は会期中には逮捕されない。ただ、「法律の定める場合を除いては」とあり、これは国会法33条の「各議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されない」を指し、現行犯逮捕や所属する院の許諾があれば、逮捕されることもある。
現行犯の逮捕は犯罪事実が明白な場合に行われるもので、国会議員であっても例外を認めにくい。
会期中であっても必要であれば逮捕されることもあるが、その場合には一定の手続きを踏んで、所属の院の許諾を得る必要がある。簡単に許諾を得て逮捕ができるわけではないという歯止めがかけられているのである。
その手続きとは、まず司法当局が内閣に逮捕許諾請求書を提出する。これを受けて、閣議決定を行い、請求を受ける議員の所属する議院に許諾を求めることになる。閣議決定の後、議院では議院運営委員会が開かれ、そこで法務大臣や刑事局長等から捜査状況等について聴取・質疑が行われ、各派が態度を表明し採決する。そして、本会議で採決することとなる。
これまで20例ほどの逮捕許諾請求がなされているが、大半が賛成多数で可決されているものの、不許諾や撤回の例も存在する。直近では、2003年になされた請求が最後である。
会期前に逮捕されていた場合には釈放も憲法では、会期中に逮捕されないだけではなく、会期前に逮捕されていた場合に、議院の要求があれば当該議員は会期中釈放されることも定められている。
ただ、現行憲法下で、この釈放の要求が本会議で採決されたことはない。
これは、国会開会前の議員の逮捕を避ける傾向があること、また議会としても逮捕された議員の保釈を求めにくいことといった理由があるものと思われる。加えて、国会会期中も逮捕許諾請求を行い院の許諾を得る必要があることから、会期中の逮捕も避けられるようである。
国会議員の逮捕は院への許諾請求が不要な国会閉会後に行われることが多く、国会閉会後の検察の動きが注目されることになるのである。
なお、不逮捕特権はあくまでも身体的拘束を免れるということであって、身体的拘束を伴わない訴追は禁じられていない。もちろん、任意の事情聴取などを行うことも可能であり、実際に逮捕に至らずとも事情聴取を会期中に受ける国会議員がいる。
ただ、他の事件であれば、任意の事情聴取からそのまま逮捕という流れも予想されるところであるが、相手が国会議員の場合、会期中であると事情聴取どまりということがよく見られる光景である。
不逮捕特権に「守られる」議員現行憲法下では、逮捕許諾請求がなされた事例は20ほど、釈放の要求はなされていない。不逮捕特権はまさに特権として大きな効力を発揮し、国会議員の活動の自由を保障していると言えるだろう。
しかし、不逮捕特権は、いまや政府や警察権力から議員を守るためにあると言うよりも、犯罪を行った議員が過度に保護される特権として作用してしまっているきらいがある。
議員の活動の自由を保障するために非常に重要な特権ではあるが、犯罪を行ったかもしれない議員の逃げ道を用意するような特権であってはほしくないところだ。
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