行方不明認知症高齢者ゼロを実現。文京区の「ただいま!支援SOSメール」とは
政治山 / 2020年4月17日 12時0分
超高齢化社会が進む中、いかにして高齢者が住みやすい街とするかが自治体における重要な政策課題であることは誰もが認めるところだろう。この課題に対して、「行方不明認知症高齢者ゼロ推進事業」を2015(平成27)年度から開始し、亡くなる方をゼロに抑えている文京区福祉部認知症・地域包括ケア係の吉田信行さん、川村純子さんと、「ただいま支援SOSメール」配信システムを提供している株式会社パイプドビッツの石橋さんにお話をうかがいました。
きっかけは「新オレンジプラン」――行方不明認知症高齢者への対策について、取り組みの全体像を教えてください。
【川村さん】 「認知症になっても人として尊重され、希望を持って自分らしく生きることができる文京区」という理念を掲げて、認知症施策総合推進事業を2014(平成26)年度より推進しています。3つの枠組み(「普及・啓発の推進」「切れ目のない支援体制づくり」「地域での日常生活支援の充実・家族支援の強化」)があり、行方不明への備えと早期発見のための事業として「行方不明認知症高齢者ゼロ推進事業」を、2015(平成27)年7月より推進してきました。
「ただいま支援SOSメール」は、2014(平成26)年に行方不明者のデータが公開され、2015(平成27)年に政府が発表した認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)などにより認知症対策が急務となった際に、当時の担当課長が福岡市の事例を知り、事業化したと聞いています。
事前の備えから有事の際の対応までに対応――「ただいま支援SOSメール」事業の概要を教えてください。
【川村さん】 まず、「ただいま!支援登録」の申請を受け付けて、あらかじめ区の台帳に登録します。登録した際に地域包括支援センターと区内警察署にも写し(紙)を共有しています。また、SOSメールを受信してくださる協力サポーター・協力事業者については、WEB上で登録をしてもらっています。
そして、行方不明者事案が発生した場合、ご家族の方にはまず警察署に連絡してもらった上で、SOSメール受付窓口へご連絡いただくことで、メールを協力サポーター・協力事業者へ一斉配信し、可能な範囲で捜索にご協力いただき、発見した場合は警察に連絡する…といった流れで対応しています。
ポイントとしてはまず、24時間365日窓口が開設されていることです。そして、メールで一斉配信する際、申請時の個人情報開示許可に基づいて、行方不明者情報を詳細に共有します。そうすることで、協力サポーター・協力事業者が発見しやすいようにしています。
また、「ただいま支援SOSメール」「ただいま!支援登録」とともに、靴用ステッカー、衣服用アイロンシール、GPS端末利用の一部助成を合わせて「行方不明認知症高齢者ゼロ推進事業」として推進しています。1つ1つの仕組みがあっても、これらを連動させて1つの大きな事業として推進していかないと、なかなか効果が得られないという思いで取り組んでいます。
――どれくらいの人がサービスを利用しているのでしょうか。
【川村さん】 2020年1月現在で「ただいま!支援登録」事前登録者は86名、協力サポーター・協力事業者の登録者は697名となっています。
「ただいま支援SOSメール」への協力については、イベントや講座の際に登録をお願いしており、その場で登録してくださることも多いです。
「ただいま!支援登録」事前登録者は、窓口にご相談にきた方で、「行方不明になるおそれがあり心配」とおっしゃる方にご案内したり、ステッカーやアイロンシールの申請があった際に、こういった仕組みがあることを伝えています。ケアマネジャーさんからの紹介というケースも多いです。要介護・要支援認定を受けている人数からするとまだ少ないですが、いろいろある支援策の中から取捨選択をして、登録される方が大多数ですね。「ただいま!支援登録」に登録要件は無いので、この先が心配だから登録するといった備えとして登録していただければと思っています。
――実際にメールを発信した実績はいかがですか?
【川村さん】 メールを配信した回数は2015(平成27)年度は6件、2016(平成28)年度は10件、2017(平成29)年度は5件、2018(平成30)年度は3件、2019(平成31)年度(1月末現在)は4件、となっており、すべての方を発見することができました。
正直なところ、メール配信に至る前に警察やご家族が発見するケース、協力サポーター・協力事業者からの連絡を受ける前に発見するケースが圧倒的に多いのですが、区としては仕組みを整備しておくことは、「区民がお互いに見守る」という意識醸成となることや、ネットワークを作るという意味でとても大切なことだと考えています。
――そうなんですね。では区民の反応はいかがでしょうか?
【川村さん】 区民の方からは、今は行方不明になったりしないが元気なうちに登録しておくということでもいいと聞いて、備えとして利用することもできるのは良いという反応をいただいたことがあります。また、事前登録の仕組みで、登録者から写真を受領し、その情報を警察に共有していますが、警察の方からは身元不明者を保護した際に、早期の身元判明に役立ったとのお話をうかがったこともあります。
人命に関わる業務だからこそ万全の準備でトラブル0を実現。――続いて事業者側にもお話をうかがいたいと思います。本事業に取り組んだきっかけを教えてください。
【石橋さん】 弊社は2000(平成12)年より、一斉メール配信システムから始まったクラウドサービス「SPIRAL」を中心に事業を行っていますが、創業当初からパブリックセクターに特化した部署を持ち、官公庁や自治体の取り組み支援をしてきました。バージョンアップによる機能拡充を進めることで、メール配信以外にも、セミナー講習会管理や、各種電子申請システム、調査システムなどを提供してきた実績がありますが、今回のように早期発見が人命救助の成否に直接影響し、24時間365日安定性のあるシステムを求められる要件はプレッシャーがあります。しかし、事業コンセプトとして「情報資産の銀行」を掲げ、20年もの間、安定したデータベースサービスの提供実績を積み上げてきた弊社だからこそ、この役割を担えるのだと考え、ご提案に臨みました。
――本事業に取り組むにあたって大変だったことはありますか?
【石橋さん】 何より、早期発見が人命救助の成否に直結をする条件下で、電話を受けた後、1時間以内にメールを発信できるようにする必要がある、という点は配慮しました。システム自体は24時間365日、稼働率も99.9%保証で稼働しています。また、協力事業者が電話窓口業務を行うということで、スムーズに連携できるようサポート体制を整えました。お陰様で、今まで配信トラブルはありません。
―― 「高齢者見守りメール」サービスの意義はどのように捉えていますか?
【石橋さん】 メールを配信すれば、すべての行方不明者を発見できるという簡単なものでは当然ありません。文京区様のように「行方不明認知症高齢者ゼロ推進事業」と理念を掲げ、日々の普及啓発・サポーター養成から始まり、認知症診断・早期支援体制を整備、GPS・ステッカー配付といった様々なアイデアを形にされ、警察・行政・市民・事業者が協働で見守っていく包括的な体制を構築するうちの一つの役割を、弊社にお任せいただきました。今後さらに高齢化は進みますが、文京区のような熱意をお持ちの自治体担当者様を支援し続けられる事業者であり続けたいと思っています。
事業1つ1つをつなげていくことの重要性――今回ご紹介いただいた事業の課題について教えてください。
【川村さん】 「行方不明認知症高齢者ゼロ推進事業」においては、1つ1つの事業は以前より実施していましたが、連動して推進していかなければならないということ、そういった周知を十分にできていなかったという課題意識があり、新たにパンフレットを作成して情報発信を始めました。目で見てご理解いただきやすくなったと思っています。
また、区の事業だけで対応できるものではなく、区内の様々なネットワークを活用していかないと限界があると感じています。
「ただいま!支援SOSメール」事業においては、約700名の協力者が動いてくれるという登録者側の期待値が非常に高いのですが、必ずしも700名が皆動ける訳ではありません。登録者の期待と協力者の現状にギャップがあることや、複数の組織をまたぐ仕組みや支援体制である都合上、窓口となる電話番号が複数あることも、高齢者のご家族の視点から見ると課題であろうと考えています。
高齢者自らが選択できる「見守り」を目指す。――最後に、今後の事業展開について教えてください。
【吉田さん】 まずは先に述べた課題に取り組んでいきたいと考えています。
また、SOSメールやGPSといったツールを利用した仕組みでの行方不明対策は一定のレベルにあると思いますが、例えば地域の事業所・団体さんの協力で構成された「見守りネットワーク」など他のネットワークとの連携は十分ではないと考えています。
今後は、認知症の方が地域で希望を持って自分らしく生きることができる一助となるよう、地域の見守りネットワークも活用しながら重層的な取り組みに発展させていけたらと考えています。
株式会社パイプドビッツ
東京都港区赤坂2-9-11 オリックス赤坂2丁目ビル(受付2F)
TEL:03-5575-6601 / FAX:03-5575-6677(平日10:00-18:00)
https://www.pi-pe.co.jp/
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