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一斉休校、子どもたちの「第三の居場所」が果たす役割とは―Learning for All 李炯植代表に聞く

政治山 / 2020年4月24日 10時0分

 政府の緊急事態宣言を受けて、各地で緊急事態措置が講じられています。予期せぬ長期の休校により多くの家庭が影響を受けている中、子どもたちの預かりを続ける「第三の居場所」は、どのような役割を果たしているのでしょうか。2016年11月の開設から戸田拠点の運営を担ってきた、NPO法人Learning for All の李炯植(り ひょんしぎ)代表理事にお話をうかがいました。

――「第三の居場所」設立の背景と現在の利用状況をお聞かせください。

 日本全体では7人に1人、ひとり親家庭では実に2人に1人の子どもが貧困状態(※1)にあります。貧困家庭で育つ子どもたちの多くは、学習や就業の機会も制限され、将来も貧困から抜け出すことのできない“負の連鎖”が続いています。この連鎖を断ち切るためには、なるべく低年齢のうちから生活習慣を見直し、将来自立する力を育む必要があります。その拠点として「第三の居場所」は設立されました。

 戸田拠点は「第三の居場所」第1号拠点として2016年11月にオープンし、現在は小学校低学年を中心とする子どもたち13人が利用しています。ひとり親家庭の子どもや、忙しい家庭の子どもなどが利用しており、それぞれの家庭が抱える課題は、経済的困窮など様々です。

 通常は平日の午後2時から午後9時まで子どもたちを預かり、その間、学習支援だけでなく、親以外の大人や子どもたち同士の関係構築を通じてソーシャルスキル(※2)を身につけたり、夕食の提供を通じて食事の仕方や歯磨きなどの生活習慣を見直したりと、幅広く支援しています。

※1:ここでいう「貧困」とは「相対的貧困」であり、その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状態を指します。
※2:社会的技能。他者に対する振る舞い方やものの伝え方。

夕食の時間

夕食の時間。子どもたちとスタッフ、みんなで一緒に食卓を囲みます。

――施設運営において、日本財団はどのような役割を果たしているのでしょうか?

 立ち上げの開設費用と3年間にかかる運営費用は日本財団に支援いただき、それ以降は自治体の財政で運営していくことを各自治体と折衝して推進しています。また、財政面だけでなく、職員のスキルアップのためのトレーニング支援なども受けています。日本財団は「第三の居場所」を全国に100カ所開設することを目標としていますので、私たちはこの戸田拠点で良いモデルを示すことができればと考えています。

――新型コロナウィルス感染症の拡大により、どのような影響がありましたか?

 感染症の拡大を受けて、まずは感染予防を徹底しています。職員は毎日出勤前に検温し、手洗いうがいをこまめに行い、常時マスクを着用して2時間に1回は換気をしています。また、施設内ではドアや手すりなど皆が触れる場所の消毒も行っています。子どもたちも毎日検温し、発熱時は来ないようにしてもらい、入室時にも検温しています。

 3月下旬の一斉休校時には、春休みまでの期間、午前9時から午後5時まで預かりを実施し、夕食ではなく昼食を共にしました。とにかく急な休校だったので、ひとり親でどうしても仕事を休めない家庭など、午前中からのの預かりニーズはとても高かったのです。急なシフトへの対応は拠点内だけでは難しかったため、他の事業所などから職員を派遣、増員して対応しました。

 このような緊急事態下では、仕事と子育ての両立に悩む人や生活に困窮する人たちの問題が、とくに顕在化しやすいのです。こんな時だからこそ、「第三の居場所」のような事業は続けていかなければならないと思います。

Learning_for_All_李炯植代表

Learning_for_All_李炯植代表

――実際に通っているお子さんや保護者の方はどのような様子なのでしょうか?

 学校がなくて朝から拠点に通える“特別感”を楽しんでいる子もいますね。お医者さんごっこのように自分たちで検温したり。とくに不登校気味の子はポジティブに捉えていますが、長引けば学校再開への不安も増すといった懸念もあります。

 そんな子どもたちとは反対に、保護者の方々は深刻な悩みを抱えている人も多く、「この拠点のおかげで本当に救われた」と言ってくださる方もいます。いつも以上に忙しくしている人もいますが、仕事とともに収入も減り、家計への影響が出始めている人もいます。そんな保護者の方からは、不安定な精神状態で、連日長時間、子どもと2人きりでいることにストレスを感じてしまうといった声も聞かれました。

 外出制限が続いてDV(ドメスティックバイオレンス=家庭内暴力)が増えているという海外の事例も報道されていますが、決して遠い国のことではないと思います。

――子どもや保護者と接する職員の方々には、戸惑いはありませんか?

 新型コロナウィルス感染症は、いつ誰が感染してもおかしくないと言われていますよね。自分自身の感染リスクもある中、子どもたちの居場所を守り続け、目に見えないウィルスからも子どもたちを守るというのはとても大変なことで、心の中には不安や葛藤を抱えている職員もいると思います。

 それでも職員全体のモチベーションは高く、ピンチをチャンスと捉えて子どもたちと新たな目標設定をしたり、関わる時間がいつもより増えた分、様々なアクティビティに挑戦したりしています。

菅原文仁_戸田市長

2018年12月、戸田拠点を視察する菅原文仁_戸田市長

――緊急事態宣言下ですが、これからの展望をお聞かせください。

 どうしても必要な人には欠かせない施設ですので、戸田市と連携を取りつつ、規模を縮小するなどしても継続する方向で検討しています。また、学習支援などはオンラインでも可能ですので、私たち Learning for All としても実施する予定ですが、回線や端末が整っていない家庭もありますので、行政にはそういった家庭への支援も視野に入れてほしいと思います。

 今懸念していることは、子どもたちとの距離が物理的にも心理的にも離れてしまうことで、学習機会が再び失われたり、せっかく身につけた生活習慣を疎かにしてしまったりすることです。学習意欲や生活習慣を取り戻すのにはとても時間がかかります。本当に必要な子は通い続けられるように、そして少し間の空いてしまった子はいつでも戻ってこられるように、皆で子どもたちの「第三の居場所」を守っていきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。

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