未成熟な社会への警笛-藤井浩人美濃加茂市長×中谷一馬衆院議員
政治山 / 2024年10月21日 11時53分
2014年、前年に岐阜県美濃加茂市長選挙で当選した藤井浩人市長が、受託収賄などの罪で逮捕・起訴された事件から10年。藤井浩人美濃加茂市長と中谷一馬衆院議員の対談の様子をご寄稿いただきました。
【中谷】 藤井市長とは、共通の知り合いも多く、昔から一方的には知っていたのですが、付き合いとしてはどれくらいになりますかね?
【藤井】 お会いしてから6、7年経つかと。
【中谷】 市長になられたのは、28歳のときでしたよね。当時は、すげー熱い人だなぁ、と思って見ていて、同世代ながら刺激をもらっていました。
【藤井】 いや、たぶん政治家になった経緯でいえば、中谷さんほど苛烈な人はいないと思います。
【中谷】 とんでもない。私の友人たちがむちゃくちゃ藤井さんのことを褒めていたんですよ。「ものすごく爽やかで、とてもいい政治家なんだ」って。
【中谷】 そんな共通の友人も多い我々ですが、藤井さんと私は、ある共通の体験をしています。それは冤罪の当事者として苦しんだということ。藤井さんは、市長就任の1年後、身に覚えのない収賄などの罪で逮捕・起訴されました(※美濃加茂市長汚職事件:2013年に初当選した岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長が翌年、受託収賄などの罪で逮捕・起訴された事件)。証拠は贈賄側の証言だけで、藤井さんは一貫して潔白を主張してこられましたが、逮捕から取り調べ、裁判に至るまで、理不尽な仕打ちを受け続け、また、世間からは犯罪者として見られてきました。まず逮捕されたときの率直な気持ちをお聞かせください。
【藤井】 私が政治家を志した経緯を話すと長くなってしまうのですが、政治の世界に足を踏み入れた以上は社会にはさまざまな闇があって、闘うべき相手がいるだろう、そんな社会を良くしたいと思っていました。そんな正義感は、父が警察官だったということが強く影響していると思っています。ですから、ある意味、警察はもっとも信頼していた組織だったのですが、まさかそこから疑われ、無実の罪を着せられるとは思わなかったですね。それがまずショックでした。中谷さんは、最初、どんな感じだったんですか?
【中谷】 私は、2022年9月、とある議員の方から「中谷一馬衆議院議員からハラスメントを受けた」と言われて、本当に驚きました。その議員の方は記者会見を開き、「出産直前に選挙に向けた活動を何度も断ったのに、ビラまきや街頭活動などの活動を再三求められた」旨を訴えたのですが、私自身はそんなことを一切言っていない上に、むしろゆっくりと静養していただきたいと何度もお伝えし、メッセージもお送りしていましたので、まさに青天の霹靂でした。
私は、妻とともに5歳と2歳の娘を育てていますが、その当時は下の子が産まれた時期で、出産前後は育休を取得していました。党の青年局長を務めていたこともあり、産休育休の取得を率先して推進していましたので、私自身も妻と共に出産、育児に奮闘していました。マタハラの濡れ衣を着せられたときには驚愕し、唖然としました。私自身は党内でも事務所内でも、ハラスメント対策についての研修を行い、率先してハラスメント撲滅に尽力してきた自負もありました。そうした状況の中で、まったく身に覚えもないことでしたから、まさかそんなことを自分が言われるとは夢にも思わなかったですね。
【藤井】 同様の体験をされた方はたくさんいます。私のところには、冤罪当事者の方々からたくさんのメッセージが寄せられていて、その中には痴漢や交通事故で罪を着せられた方、離婚訴訟で妻からDVの作り話の告発を受けたという話をされる方などがいます。この国は、証言のみで貶められるリスクを孕んだ未熟な社会であることをもっと広く知ってもらいたいですね。
メディアとSNSが作る空気【中谷】 アテンションエコノミー(情報の優劣よりも人々の注目が経済的価値を持つ関心経済)が台頭する社会では、こうした事件が起きると、メディアも視聴者が共感したり、読者に読んでもらえるように感情を煽るような構成をして、報道しがちです。藤井さんが逮捕されたときもそうでしたね。
【藤井】 新聞は「選挙前、贈賄側に『金ない』」「取引記録 決め手」「汚れた人脈」といった根拠のない見出しを並べ、いかにも有罪であると決めつけるような記事を掲載しました。しかし、それらはすべて警察や検察が描いたストーリーを言われるまま書き写したに過ぎません。裁判の中で事実と認定されてもいないのに事実かのように報道されます。また、「29歳市長 危うい手腕」「施策 庁内に疑問」という見出しのついた、事件とは関係ない印象を操作するための批判記事もあって、そこには「市長の資格がない」「犯罪者」という印象を植え付けようとする悪意を感じました。
【中谷】 それは酷いですね。私の場合も、記者に対して根拠をもとに詳細な説明をしても、その部分は「『事実と異なる』と話した」と一文紹介されるだけで一方の相手のコメントは詳しく報道されることが多くありましたので、客観的な事実をフェアに伝えようとする報道よりも扇情的な内容が多かったと感じています。
【藤井】 そうなると、多くの人は相手の語った内容を信じるでしょうね。
【中谷】 そうしたメディアの報道もあって、「火のないところに煙は立たない」みたいな雰囲気が作られ、それがSNSなどを通して事実であるかのように拡散されていくという哀しい循環でした。
【藤井】 私もよく「火のないところに煙は立たない」と言われましたね。いったい誰がこんな言葉を作ったんだ、と思ったくらい、その言葉を恨みました。
【中谷】 そうした空気を作る人たちを私たちの目線から見ると「証拠・根拠がないフェイクニュースを鵜呑みにして、事実に基づかない内容を喧伝し、冤罪被害者を傷つけている人」としか思えないのですが、相手側をかばう人たちの目線で考えるとこっちは「ハラスメントをしたひどい奴」であり、「社会正義のためにやっつけよう」と思っている。SNSの時代に入ってからは、フィルターバブルやエコーチェンバーの現象で自分と似た情報を持つ人で集団が形成されがちなので、見えている景色の違いが大きくなりやすい。
一度そうした空気や雰囲気が特定の集団の中で醸成されると、証拠に基づいて事実を説明してもなかなか理解をしていただけません。人は他者を陥れることを主張したときに、それが間違っていたとしても周囲の目を考えると冤罪づくりに加担をした真実を認めて、振り上げた拳を降ろすことはなかなか難しいのだと思います。ただ親しく付き合っていたと思っていた人でも一方的に相手の言うことを信じて罵詈雑言を浴びせられたりしました。それに加えて、選挙が近い時期になると明らかな虚偽内容が記載された怪文書をバラ撒かれたりすることもあり、最近も被害に遭いました。
現状は、顧問弁護士と話し合い、虚偽事項の公表罪や名誉毀損罪などに該当すると思料いたしましたので、捜査と処罰をして頂きたいと考え、警察の方々にご相談をしながら刑事告訴の手続きを進めております。やはり、事実ではないことを主張して人を陥れる行為は極めて卑劣だと思いますし、私自身も虚偽の内容で名誉を傷つけられるのは本当にショックでしたね。
【藤井】 私のときも政治家=お金に汚い、政治家=悪という前提で、事件の詳細を知らないまま「政治家を懲らしめてやろう」という思いだけで大騒ぎしている人がいました。そうした固定観念を抱く人たちは、「政治家=悪」というストーリーを完成させるため、事件の一部や憶測を切り取って、ストーリーの追い風にしようとする。現実に、そんなストーリーを信じたい人はたくさんいて、どんどん話が大きくなってしまうこともあると感じます。こんなことを言っている私自身も、自分が逮捕されるまでは多くの政治家が悪だと思っていました。
ただ、その時の一時的な、情報だけを聞いた人の印象やイメージを変えることが難しくて、いまでも美濃加茂の近くにある大都市名古屋あたりに行くと「あれ、逮捕された人じゃないの?」という当時のイメージで止まっちゃっている人も一定数いますね。イメージだけで物事を決めつけてしまう傾向があるのは仕方のないことですが、SNSは、そのイメージの強化を助長する。非常に恐ろしいですね。
【中谷】 国際情勢のリスク分析を手掛ける米国の調査会社・ユーアシアグループが発表した「10大リスク」に「偽情報(フェイクニュース)の拡散による社会の混乱」を挙げています。
人工知能(AI)の進化とソーシャルメディア(SNS)の普及で、偽情報が拡散されやすくなり、「大半の人々には真偽の見極めができなくなる」との懸念を示し、人が真実を見抜くことが非常に難しい時代になったことを表しています。
フェイクニュースについては科学的にも研究が進んでおり、マサチューセッツ工科大学(MIT)の調査結果によると、正確な情報が記載されたファクトニュースよりも偽情報が記載されたフェイクニュースの方が6倍速く拡散するといいます。理由は事実とは異なるニュースは目新しく、人々の感情を扇動する内容が多いことが理由だそうです。
要するに自分たちがどれだけ証拠やエビデンスを持ち、立証して打ち返しても、感情を煽るフェイクが一度広まると、それを打ち消すのは極めて困難だということです。群馬県草津町の町長から性被害にあったと主張していた元町議が裁判の中で、訴えが虚偽だったと認めた事例がありました。
この事件の真相が明らかになる前には「セカンドレイプの町、草津」などと主張した団体がネガティブキャンペーンを行っていました。ここまで明確に判決が出て、冤罪づくりに加担をしていた人たちが追い込まれて初めて謝罪をしましたが、ここまで法廷闘争を行った町長の心痛ははかり知れないものだと思いますし、残念ながらいまでも草津町のイメージが必ずしも回復しているかと言えばそうではありません。
社会的制裁と苦悩 【中谷】 間違った情報の拡散によって社会的に負の烙印を押されると、本人だけでなく家族や仲間など周囲にも影響が及びます。たとえば、うちの地元事務所には「お前らはハラスメントをしたんだろう」という人たちがドドっと来て、スタッフがさんざん恫喝されたことがありました。「いじめをしたら謝れ」「側から見たら肌感覚でわかる」「中谷はもう終わり」「落選運動するよ」「あなただって失職するんだよ」と怒鳴り散らし、スタッフに謝罪を迫ってきた。もはや私刑で処罰するみたいな方向になっていて、自分たちの方がひどいハラスメントをしているのに、本人たちは気づいていない。
【藤井】 私も刑罰より社会的制裁による痛手の方が大きかったですね。一審で無罪判決が出るまでは世間では「いずれ有罪が確定して市長をやめるんだろう」と見られていて、市長としての仕事にもかなり支障が出ました。幸い、市の職員たちは一生懸命に私を守ってくれて、行政としてやるべきことをしっかりやってくれましたが、民間との連携業務などについては、保釈されてからもかなり制約がありました。推定無罪なんてまったく通用しません。
【中谷】 家族について言えば、当時、うちの娘が幼稚園に入る時期だったので、自分の報道のせいで幼稚園に入れてもらえなかったら申し訳ないなとか、通っている保育園でいじめられたりしないか、など親としてとても心配になりました。本当に家族にも申し訳なく苦しかったですねぇ。
【藤井】 父は、すでに警察官を引退していましたので、まだ良かったですが、中傷ビラや誹謗中傷などに家族は悩まされ、その精神的苦痛はいまも尾を引いています。
【中谷】 ただ、そんな苦境の中にあっても、藤井さんと弁護団の人たちは、一つ一つの情報をすべてオープンにして、誤解が蔓延した空気と闘った。それで状況がかなり好転したのではないでしょうか。
【藤井】 私の弁護団は、拘束されているときは私不在でも記者会見を開き、保釈後の裁判のたびに私自身も出席をして会見をやりました。そこでは毎回、記者の質問がなくなるまで質問を受け付けました。合計30回か40回はやったと思います。最初は激しい口調で噛みついていた記者もいましたが、そのうち、「隠しごとはないようだから、市長を疑うべきではないかもしれない」と話してくれる記者もいました。弁護士の郷原信郎さんが会見でマスコミに対し、警察・検察の捜査ミスや主張の間違い、ミスリードを的確に指摘し、それをネットなどに逐一公開したことも大きな力になりました。それを見て、とくに美濃加茂市には「新聞だけ見ていちゃダメだね」と報道に疑問を持つ人が急速に増えましたからね。
【中谷】 「早期釈放を求める」署名はかなりの数が集まったと聞いています。
【藤井】 美濃加茂市の有権者に限定したもので2万1154筆。これは当時の市の有権者の約半数に当たります。
【中谷】 それはすごいですね。私の場合、先方の一方的な情報発信によって報道がヒートアップする形になりました。そのいざこざが注目され、統一地方選挙を控えた仲間たちには迷惑をかけてしまったところがあります。党内の議員同士の話だったので、私自身は先方を仲間だと思っていましたからできる限り包容したいと思う気持ちもありましたし、守秘義務を守らなければならない情報もありましたので、どこまで社会的に晒すべきなのかという難しさもありました。また自分が全然やっていないことでどこまで相手の土俵に乗るべきであるのかという点でもかなり対応に苦慮しました。いまでもあのときに、どこまでどういった情報発信の仕方をすべきだったのかと反省して考えることがあります。
「悪魔の証明」と「人質司法」【中谷】 普通、やっていないことの証明は「悪魔の証明」と言われるようにとても難しいのですが、私の場合はそれができ、先方の主張が全然違うという点も立証できました。幸いだったのは、私が「ハラスメントをした」と指摘された時期はコロナ禍だったこともあり、会議や打ち合わせはZoomなどが多く、しっかりと内容が録画されていて、普段のやりとりもメールが多かったのでほとんど証拠が残っており、私の主張をしっかりと証明することができました。本件については、党のハラスメント対策委員会が弁護士などで構成される第三者機関に調査を依頼し、約8ヶ月間の調査をして頂きましたが、結果として2023年1月に、「ハラスメントはなかった」という結論を示していただき、嫌疑を晴らすことができました。
【藤井】 私の事件の争点は「賄賂を受け取ったか否か」ということだけでしたから、贈賄側が「金を渡した」と証言した店の防犯カメラの映像でも残っていればよかったのですが、残念ながらそうしたものはありませんでした。
【中谷】 たぶん身に覚えのない嫌疑をかけられた方の多くは、相手との会話なんて録音も録画もしてないでしょう。だからいったん告発や証言をされてしまうと、簡単にそれを覆せない。
【藤井】 私の場合は、警察・検察がもう逮捕してしまった以上、「金の受け渡しは間違いなくあった」ことにするしかなかったので、無実の証明は困難でした。事実の追求ではなく、ストーリーをでっちあげるとはこういうことかと目の当たりにしました。裁判で検察が出してくる証拠は、検察の主張にとって都合のいいものばかり。警察の捜査資料や検察が持つ情報の中には、こちらに有利な証拠があるかもしれないけれど、それは出してくるわけがありません。本当に事実を追求することを目的にするのであれば、最初からすべての操作資料やデータを開示した上で、被疑者・被告人の有罪立証だけじゃなく、無罪のための立証もできるようにするべきでしょう。
【中谷】 諸外国では、そうした証拠開示や手続きについてしっかりと法整備がされている印象があります。
【藤井】 先進国の中で日本はその点において最低レベルだと聞いています。国連からは日本の刑事司法制度に関して、国際的な基準との整合性について懸念と改革を求める勧告を受けています。
【中谷】 それだけでなく、日本では警察に一度逮捕されたら、犯行を否認する限り、釈放も保釈もされないという「人質司法」の問題があります。最近、私も国会で総理大臣に質問主意書を提出させていただきましたが、この問題は国連からも指摘されていますので、解消に向けた司法制度改革が必要だと考えています。
【藤井】 痴漢で捕まると、警察が被疑者に「いま認めれば、本人との示談もできるし、すぐに帰れる。無罪を訴えたいなら裁判でやればいい」と説得して調書に印鑑を押させるケースがよくあると聞きます。しかし、その調書が裁判の決定的な証拠となり、無実であっても有罪判決が下されることも少なくない。私も警察からまったく同じことを言われました。人質司法という理不尽な制度は、冤罪を生む大きな原因の一つといえます。
【中谷】 拘束された状態で捜査機関が、自分たちの正義に基づいたストーリーに誘導して、社会的に喧伝すれば、たとえ潔白であっても、一般の人々はそういうものかと鵜呑みにしてしまいます。しかも、藤井さんの事件のときにはその誘導の仕方がかなり暴力的で、脅しすかしみたいなことが行われたと著書で拝読し、衝撃を受けました。
【藤井】 逮捕され、取り調べを受ける中で、学習塾をやっていたころの教え子にも捜査の手が及ぶと脅され、挙げ句、「美濃加茂市を焼け野原にしてやる」とまで言われましたからね。そのときはかなり動揺しました。ですが、取調官の立場からすると、それが「仕事」なんですよ。上司や現場の捜査官のメンツを保つためには、私を無実と認めるわけにはいかない。よって自白以外の答えは認めることができないので、否認する相手には自ずと暴力的になる。それはマスコミも同じです。私を取材していた記者は、「調べれば調べるほど藤井さんの無実は明らかだと思うんですが、デスクは絶対によしとはしませんし、僕らが警察への反論記事を書くことなんてできない。仕事がなくなるんです。分かってください」みたいに言われたことを良く覚えています。社会や自分の正義より、組織の正義が先に立つわけです。いかにも日本的だと感じます。
【中谷】 当初、世のため人のための正義だったものが、特定の組織や地位、立場のための正義に変わってしまうということは、残念ながらいつの時代の組織にも起こりうることなんでしょうね。
【藤井】 どこに自分が立っているのか、その立ち位置が正しいのか、ということを誰もがしっかり見つめ直さなければいけないと思いますね。
真に冤罪を撲滅するために【中谷】 ここからは制度や仕組みをどう変えるかというお話をしたいと思います。
【藤井】 SNSが普及し、正しい情報とそうでない情報を見分けることが困難になっている中、罪をかぶせられたとき、精神的に強かったり、人間関係の支えがある人は相手に立ち向かえるかもしれませんが、いまの制度やシステムでは、たいがいの場合、救済の方法がないので、泣き寝入りすることが多いと思います。それはまったくフェアじゃない。そうした現状の認識がまず必要だと感じますね。
【中谷】 立憲民主党の話でいうと、23年6月、党本部の常任委員会で「ハラスメント対策指針」が見直され、ハラスメント救済の目的に明らかに合致しない申し立ては、ハラスメント対策委員会の判断で審議しないようにできる項目が盛り込まれました。合致しない例として挙げているのは、「虚偽の事実にもとづくもの」「特定の議員または候補者を貶めることを目的としたもの」「公認等または政策等の決定に関し特定の政治的目的を有するもの」「明らかに無秩序な申し立てである場合」。
これは、私の案件を含め、ハラスメントが政争の具に利用されてしまった事例がいくつもあったため、その反省の意味が込められています。ハラスメントが政治利用されることは真のハラスメントを受けた被害者の救済が困難となり、社会に重大な悪影響を与えてしまいます。本当に困っている人たちを助けるためには政治利用への厳正な対処は必要ですし、エビデンスに基づいてハラスメントが客観的に判断されるクリーン・フェア・オープンな仕組みが必要ですので、適切な対応を行うためにこうした指針改定がなされたのだと思います。ただ、政党組織の指針とは異なり、法律を作ったり改正するとなると、もっと大きな枠組みの話になるので容易にはいかないでしょう。
【藤井】 第三者が公正に評価し、それをオープンにしていく仕組みは重要だと思います。私が市民から信頼を勝ち得たのも、郷原弁護士が第三者として外に向かって説明してくれたことが大きく影響しています。自分の言いたいことだけ主張するのでは説得力がないし、違うところで痛いところを持っていると、そちらを責められて事件とは関係ないことで悪いイメージが広がることも充分ありえます。ですから、たとえば民事訴訟でも国選弁護人をつけられる制度を作ってはどうでしょう。あるいは弁護士じゃなく、人権NPОの専門家などでもいいと思います。
フェイクニュースに対応するシティズンシップ教育【藤井】 メディアやSNSの問題でいえば、リテラシーを育む環境をどう整えるかという点も課題になってきます。
【中谷】 残念ながらフェイクニュースが蔓延するいまはファクトチェックが重要になっているので、教育課程の中にそうした内容を含んだリテラシーの科目を組み入れるべきだと思います。情報が正しいかどうかを客観的にチェックする能力を醸成できれば、グローバルな社会でよりよいプレゼンスを発揮できる国になると私は考えています。
これに関し、欧米ではシティズンシップ教育が非常に進んでいます。 情報収集を行う際に、「十分な情報量を収集できているか」・「情報源は信頼できるか」・「集めた情報は事実と合致しているか」などのリテラシーを向上させるために米国の例でいうと、小学生の低学年から授業でこんなことをやっています。「アイスクリーム・休み時間・宿題のそれぞれの賛否を選んでください」という質問を出す。多くの子どもはだいたいアイスクリーム・休み時間に賛成、宿題に反対を選ぶ。でも賛成したアイスクリームはニンニク味で、休み時間には腹筋訓練をするという罰ゲームが待っている一方で、宿題を選ぶと「週末の宿題はなしですよ」となる。
そこで先生は子どもたちに問うわけです。「あなたが選んだ選択肢は、望んだとおりの結果になりましたか? なっていなかったとしたら、なぜあなたはアイスクリームの味やどんな宿題なのかを聞かなかったのですか? あなたは情報を精査しましたか?」と。仮にこれを消費税に置き換えると、「20%にしますか? 0%にしますか?」と選択を迫られたとき、20%を選んだ場合、それが本当に社会保障財源など国民のために使われるのか、経済は大丈夫か、0%を選ぶなら社会保障財源などをどう補うのか、必要な財源をどのように捻出するのか、といったことを精査する必要があるということです。当然、どちらにもメリット・デメリットはありますから。
【藤井】 小さいときから、自分自身で深く考えて意思決定するためのスキルを身に付けさせるわけですね。
【中谷】 加えて、情報の背後にはステークホルダー(利害関係者)が存在していて、公平中立であるとは限らないという点を認識させる。だから与えられた情報で判断するのではなく、自分から多角的な情報を能動的にとりにいって、元情報の信憑性の有無や公平中立のものであるか否かなどを吟味する。幼い頃から情報とどう向き合うかということを考えることができる仕組みを構築することがこれからの時代には必要となります。
これまでは、「日本語の壁」があって、世界からフェイクニュースが入りにくい状況にあり、諸外国のプロバカンダ(意図やたくらみを持った宣伝行為)で制脳権(感情を利用し、大衆の認識・認知をコントロールすること)を脅かされることは少なかったし、認知戦(人間の脳などの認知領域に働きかけて言動をコントロールする戦い)に巻き込まれることもあまりなかった。しかし、生成AIが活用される時代になり、それっぽい日本語の文章が容易に作成できてしまい、総理大臣や天皇陛下までもが詐欺の偽広告に悪用される時代になりました。6G時代になれば、4Gの1万倍の速度で情報伝達できるようになり、Zoomでしゃべっているくらいの速度レベルでどんな言語にも翻訳される。現在でもディープフェイクの技術で人の音声をコピーした音声データが簡単に作られてしまう。そんな時代を迎える中で、日本人として情報とどう向き合うかという教育をしっかりと行い、受験レベルでも落とし込んでいかないと、この国は情報戦に勝てないので、時代のニーズに対応した体制構築を行いたいと考えています。
無辜を罰するなかれ【藤井】 司法制度の改革についていえば、証拠の全面開示や人質司法の廃止はもちろんですが、大前提として、「10人の真犯人を逃すとも1人の無辜を罰するなかれ」という刑事司法の大原則をまずきちんと徹底してもらいたい。検察は「1人くらい冤罪者がいても10の犯罪が防げるのであれば社会としてはそちらの方がいい」と考えているように感じます。基本的な人権に関する制度改革が圧倒的に足りないと感じます。また、私たち国民もそのことを考える必要があると思います。
そしてさきほど指摘したように、警察は事実解明や人権尊重より組織を維持し、支えることを重視している。中谷さんは、いまの時代に合わせ、総合的な評価指標を定めるべきだと言われましたが、国会において、政治家がしっかりとガバナンスを利かせ、評価軸を変えることで彼らの正義と社会の正義が一致するように努力してもらいたいですね。
実際のところ、司法制度や法務省にメスを入れても、票や政治資金にはつながらないので、国会議員は誰も動かない。これは問題だと思います。一方、市民も三権分立のうち行政や立法は盛んにチェックし、批判するけれど、司法に対するチェックは行わない。こうした状況を根本から変えていかねばならないと思います。
【中谷】 いまいろいろ話してみて、あらためて冤罪の闇というのは本当に深いと感じました。当事者になった人間として、冤罪で困った人たちに寄り添いたいので、一緒により良い政策・制度を作っていけたらと思います。
【藤井】 国会議員にも、罪を着せられた経験のある人が結構いるのではないでしょうか。誰もが陥れられる可能性がありますが、とくに政治家なんて狙い撃ちされやすい。ぜひ、当事者意識を持って動いてもらいたいな、と思います。
【中谷】 「この制度をこんなふうに改善した方がいい」というのがあれば、是非、どんどん言ってください。私からもしっかりと国会へ提案をし続けて参ります。
■藤井浩人(ふじい・ひろと) 美濃加茂市長
1984年生まれ。2007年に名古屋工業大学卒業後、同大学大学院に進むが、09年に中退し、学習塾の塾長になる。10年10月に美濃加茂市議会議員選挙で初当選。13年6月、美濃加茂市長選に出馬し当選を果たす。当時28歳の全国最年少市長だった。14年、受託収賄容疑などにより逮捕。15年の名古屋地裁判決では無罪とされたが、16年の名古屋高裁判決では懲役1年6ヵ月、執行猶予3年の逆転有罪となった。これを受け、任期を半年残しながらも民意を問うため辞職し、市長選に臨む。結果、19,088票、得票率82.30%で圧勝。17年3月の市長選は無投票で3選。同年12月、最高裁で有罪が確定し、公民権が停止することを受けて辞職。その後、国会議員秘書、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科付属メディアデザイン研究所リサーチャー、情報経営イノベーション専門職大学超客員教授などを務めた。執行猶予が明けた2022年1月の市長選で返り咲き当選。現在4期目。無実を訴えて再審請求するも23年2月に棄却。
https://hiroto-fujii.jp/
■中谷一馬(なかたに・かずま) 衆議院議員
1983年生まれ。貧しい母子家庭で育ったことから経済的に自立するため、日吉中学校卒業後、社会に出る。のちに、一念発起して横浜平沼高校(通信制)に入学し、21歳で卒業。その後、働きながら、呉竹鍼灸柔整専門学校に通い、柔道整復師の資格を取得。慶應義塾大学((通信制))に進学。デジタルハリウッド大学大学院ではMVPを受賞し、首席で修了。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士号の学位を取得。その傍ら、東証プライムに上場したIT企業gumiの創業に役員として参画後、のちに内閣総理大臣となる衆議院議員・菅直人氏の秘書を務め、27歳で神奈川県議会における県政史上最年少議員として当選。在職中に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers(U33 日本代表)に地方議員として初選出。2017年、衆議院議員(神奈川7区)に初当選。現在2期目。立憲民主党 神奈川県連 幹事長などを務める。
https://kazumanakatani.com/home/
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