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ユネスコ「創造都市」篠山市―空き家を活かした「創造農村」への挑戦

政治山 / 2017年4月26日 11時50分

地方創生と空き家の活用

 地方創生の取り組みの一つとして、内閣官房に「歴史的資源を活用した観光まちづくり連携推進室」が設置されました。この施策のモデル事例として篠山市内の町屋改修や「集落丸山」の取り組みが紹介され注目を集めています。

 紹介されている事例は、地域住民をはじめとした関係者の努力の積み重ねが評価されていますが、側面的に関わった経験を踏まえ、「地域活性化」の本質とは何か? 私なりの考えを述べたいと思います。

築150年の丹波篠山の宿「集落丸山」
築150年の丹波篠山の宿「集落丸山」

篠山市における空き家活用

 篠山市では、平成21年に丹波篠山築城400年祭を開催しました。「丹波篠山スタイル」をテーマに、一過性のイベントに終わらせない、これからの100年を見据えたまちづくりの祭り(暮らしと住まい・歴史と文化・観光)としてスタートさせました。

 空き家や耕作放棄地の増加、文化財の不十分な活用、ブランド化の立ち遅れ、高齢化や農家の担い手不足といったマイナス要因を、歴史的なまちなみや美しい田園風景、多種多様な文化財、豊富な農産物の活用による力強いコミュニティへとプラス要因に置き換え、さらにはまちづくり協議会の設立支援、市域全域を対象とした景観行政団体への移行、丹波篠山の家プロジェクト、歴史文化基本構想や環境基本計画の策定と推進などのプロジェクトに取り組みました。

 市内には、一般社団法人ノオトやNPO法人町なみ屋なみ研究所など、町なみ景観を大切にしながら空き家を活用しようとする民間法人があり、「集落丸山」は宿泊施設やレストランへの活用を試行錯誤していましたが、空き家活用を柱とした移住・定住の促進は「創造農村」のアウトプットとして大きな目標となりました。

町屋が美術館に変わる「丹波篠山・まちなみアートフェスティバル」-国重要伝統的建造物群保存地区 河原町妻入商家群-
町屋が美術館に変わる「丹波篠山・まちなみアートフェスティバル」
-国重要伝統的建造物群保存地区 河原町妻入商家群-

慶長14年(1609)、徳川家康の命により西国諸大名が動員されて築かれた篠山城
慶長14年(1609)、徳川家康の命により西国諸大名が動員されて築かれた篠山城

移住・定住促進と空き家活用の実態

 平成21年から23年にかけて自治会長の協力のもと、空き家調査を実施して、600件余りが存在することを確認しました。これをもとに、所有者の意向調査への協力を自治会にお願いし、理解の得られた330件について、市が所有者に問い合わせました。また、子どもの倍増計画という目標を掲げていた福住まちづくり協議会には、空き家活用対策ワークショップの開催を通じて50件の調査をお願いしました。

 調査の結果は、市が調査した330件については6件の登録検討という回答にとどまったのに対し、福住地区では調査対象50件のうち10件ほどが、移住やコミュニティビジネスの拠点として活用されることになりました。

そこに暮らす住民の想い

 なぜこのように、両者の調査結果が大きく異なるのか? その答えを探しているうちに3つのポイントが見えてきました。

 一つは、目先の空き家の活用ということだけでなく、日々の暮らしの場をイメージして、関係する人が主体的に行動を起す「まちづくりの視点」で取り組むこと、二つ目は、耐震や改修設計の専門家、大工・左官などの技術職人、行政制度の活用など、総合的にコーディネートできる「適切な支援組織」があること、三つ目に来る人、受け入れる人、支援する人など、異なる主体の本音を聞き出しながら「関係者の信頼関係」を育むことではないかと考えました。

 私は、行政職員、NPO法人の会員という二つの顔で関わっていましたが、市民・事業者などの力に対して行政の微力さを感じました。また、行政職員として、単に机上で事務をするだけでなく、相手の立場に立って考え、関係者をつなぎながら施策の立案・実施をしていく大切さを経験し、その後の姿勢にも大きく影響したと思っています。

市の空き家調査と何がどう違うのか?

創造農村への挑戦

 こうした丹波篠山築城400年祭に端を発した特徴的な地域文化を活かしながら、住民の生活の豊かさを高める取り組みが『篠山市創造都市推進計画』として整理され、そこでは「先人が残した技術や資産に、新しい知恵を重ねて、生業として継承する」ことを目標にしています。

 そして、これらの取り組みが平成27年には日本遺産認定、ユネスコ創造都市ネットワーク加盟という形で評価されました。これまでの取り組みの成功体験を多くの住民に「見える化」できたことは、住民の大きな誇りと自信、地域への愛着に繋がっています。

 他方で、オーベルジュスタイルの「集落丸山」を共同経営するNPO法人集落丸山の代表・佐古田直實さんは、集落丸山が全国的に脚光を浴びる中で「楽しんで無理をしない。ホテル営業は自分たちにはあまり関係がない。むしろ、いろんな人が入ってくることにより、村人の姿勢が前向きになったり、耕作放棄地が減っていることが嬉しい」と、まちづくりの本質的なコメントをされています。

NPO法人集落丸山 代表 佐古田直實さん
NPO法人集落丸山 代表 佐古田直實さん

 空き家を活用する、移住・定住人口を増やすという目先の結果を求めるだけでなく、そうした手段を駆使してまちを元気にし、最後にはまちの人たちが「住んで良かった」「幸せだ」と感じられる状況を創り出すこと・・・。そこに暮らす人たちが、いろんな関係者と共に考え、方向性を出して行動に移し、納得できる結果を導き出すところに自治があり幸せがある。

 町屋改修や「集落丸山」の取り組みは、地方創生施策のモデル事例として取り上げられていますが、創造農村への挑戦はまだまだ始まったばかりなのかもしれません。

        ◇

「住民を主体とする地方自治の実現と、地域の潜在力を活かした多様性あるまちづくりのために、自らの頭で考え、行動を起こすことができる人材を育成すること」を目的とした、地方自治体職員対象の人材育成プログラム「東京財団週末学校」の受講生によるコラムです。

<兵庫県篠山市 政策部創造都市課 課長 竹見聖司>

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