日本で唯一!?よそ者20代当選議員だけでつくる2人会派の挑戦(後編)
政治山 / 2015年10月21日 17時30分
東京から陸路で約7時間、空路でも約5時間ほど離れた、紀伊半島の最南端からやや東にある和歌山県新宮市。人口約3万人の同市は、2004年に世界遺産に指定された「紀伊山地の霊場と参詣道」(いわゆる熊野古道)の一部を有する歴史ある街です。そんな新宮市の市議会議員選挙で2011年に25歳で初当選され、今年4月に29歳で再選された並河哲次さん(大阪府出身)と、27歳で初当選された北村奈七海さん(長野県出身)。前編に続き後編では、会派結成後の様子や、並河さんの議会外での地域活動についてお話を伺いました。
過去4年間一度も提出されなかった予算修正案に賛成として5名が起立。よそ者20代当選議員の2人会派が議会に変化を起こし始めている。(写真提供:熊野新聞社)
4とか5の数字はまるで夢のようやなって(笑)。いつも1でしたから。
【仁木】 ご当選後、お二人で会派『新宮政策研究所(略称:新ラボ)』を立ち上げられたとのことですが、最初から当選したら会派を作ると決めていたのですか?
【並河】 いえ、そこまでは決めてなかったのですが、北村さんは論理的に話をすればわかってくれるだろうなという思いはありました。言葉が通じる、対話ができる、という事は大きいですね。
【仁木】 今までの並河さんの苦労が伝わってきます(笑)。会派をつくった後はどのように活動されていますか?
【並河】 動議をばんばん出しています。
6月の議会で資料の提出を求める動議を出して、賛成6人・反対9人(1人排斥)でした。
続く9月の議会で、予算の修正案を2つ出した時は、それぞれ賛成4人・反対12人と賛成5人・反対11人で、いずれも否決されてしまいましたが、数を見ても全く理解を得られていないというわけではないですね。本会議で補正予算の修正案が提出されたのは少なくとも過去4年で初めてでした。
それでも、4とか5の数字はまるで夢のようやなって(笑)。いつも1でしたから。
【北村】 嬉しかったのは、根回しができていなかった議員さんが、議場での話を聞いて(賛成として)立ってくれたんです。
【並河】 これは本当に大きな変化です。
【仁木】 議案によっては、通すことができるかもしれないですね。
【並河】 それが2期目の目標の一つです。
予算の修正案の提出の他にも、随意契約の偏りをデータから明らかにし、その原因と対策を提起するなど、会派『新宮政策研究所』は、将来世代のために活発に働いている。(画像:議会提出資料より並河さん提供)
議場や現場から人々の意識は変えられる。
【並河】 今回の予算の修正案では、各議員さんがたくさん質疑をしてくださって、5人の方から何往復も質疑を受けました。あれは精神衛生上よくないですね(笑)。市長や職員さんはいつもあれに耐えているわけですけど。
【仁木】 一問一答方式(※)は全国的にも増えてきているようですし、傍聴する側も聴き応えがありそうですね。
【北村】 傍聴席で帰ろうとしている人がいたので、もうすぐ予算の修正案の審議が始まるので見ていくと面白いですよ、と言ったら最後まで残ってくれたのですが、その方にも議場でのやりとりが響いたようで、これはUstream等で見られるようにしたほうがいい!とおっしゃってくれました。
【並河】 その方と後日お話する機会があって、もっと政治を身近にしていかないといけないという話になったので、Voters Barという方法もありますよ、と言ったら、ぜひやってみたい、とおっしゃっていました。新宮でも実現すれば、ぜひ参加したいと思います。
【仁木】 「Voters Bar」は、地域の議員と若者がお酒を片手に気軽に語り合うイベントで、僕らと同世代のハラケンこと原田謙介君が代表を務めるNPO法人YouthCreateが始めたプロジェクトですね。議場から市民の方の意識を変えることがあるのですね。すばらしいです。
【並河】 あと、これは議会内では無いですが、先日、会派で議会報告会を開いたのですが、そこになんと市役所の職員さんが来てくれたんです。
普段から、現場の方としっかり話すことを心がけているので、関係性は築けてきているのではと思っていましたが、まさか議会報告会に来てくれるとは思いませんでした。議会では執行部と対峙することが多いのですが、立場にとらわれず、より良いまちづくりのために議論していける場にしていけると思い、嬉しかったです。
【仁木】 いずれも、お二人の議会活動に真摯(し)に取り組まれている姿勢が周囲の人々の意識を変えていっている事例だと思います。
【並河】 田舎特有のしがらみがあるので、表立っては手伝えないけど、とよく言われますが、影の応援が生まれてきている気がしています。ありがたいですね。
議会外の地域活動から得られることとは
世界遺産の隣、徒歩10秒の場所に、泊まれる民間図書館『Youth Library えんがわ』はある。旅館業許可を取得し登録しているAirbnbを通じて外国人旅行者がやってくる。
【仁木】 並河さんは『Youth Library えんがわ』のような議会外の地域活動も活発にされていますが、これらの活動の目的を教えてください。
【並河】 『Youth Library えんがわ』は泊まれる民間図書館として運営しているのですが、世界からやってくる外国人旅行者と地域の若者が接点を持つことで新しい可能性が生まれるといいなあって思っています。
地域の若者に何か新しい気づきを得てもらいたいという思いがあります。自分がやっていて楽しいということもありますが(笑)。
この取り組みを通じて、先進的な図書館関係者の方と出会えたことや、その方々から得られる知見は、市の図書館建て替えの計画が進む今も役立っていると思います。
【仁木】 なるほど。議会外での地域活動が、議会活動に良い影響を与えているんですね。
外国人旅行者と地域の若者が出逢うことで、新しい可能性が生まれるかもしれない。
【仁木】 他にはどんな取り組みをされていますか?
【並河】 最近のものだと、新宮市の姉妹都市であるカリフォルニア州のサンタ・クルーズ市に訪問経験があるメンバーが主催で『何かを始めた人たちが集まるcafebar』というトークイベントを開催しています。サンタ・クルーズ市は雇用を生み出すポテンシャルのある街としてForbesで全米6位という評価を得ていて、起業支援がとても盛んな街なのです。
このイベントは、その名の通り『何かを始めた人たち』が、これから新しく挑戦しようとしている若者たちに対してメッセージを送る、というものなのですが、この集まりをきっかけとして、起業やチャレンジがしやすい街になっていったら良いな、という思いがあります。新宮市にはコワーキングスペースがまだ無いので、そういった環境を創っていくということも大切だと思っています。
【仁木】 とても有意義な試みですね。地域が活性化するには、若者が新しいことにチャレンジしていくしか無いと思います。従来の産業が衰退していく中で起業しやすい環境づくりはとても重要ですね。
『何かを始めた人たちが集まるcafebar』の取り組みは地元紙でも詳しく取り上げられる等、注目を集めている。
これから挑戦する地域活動での取り組みについて
【仁木】 なんだか並河さんのお話を伺っているとやりたい事がまだまだ湧き出てきそうですが、少し先のことも含めてこれから関わっていく地域活動について教えてもらえますか?
【並河】 そうですね、来年4月になりますが、地域の方と新しいタイプの学校を立ち上げます。大人がカリキュラムを提供するのでは無く、子どもたちがやりたいということを応援していくというスタイルの学校です。ここでは学年も分けません。この取り組みの立ち上げメンバーに入らせてもらっています。そこから見えてくるものがあれば良いなって思っています。
【仁木】 どこまでも現場主義ですね。
【並河】 こういう取り組みと公教育とは違うものだとは思うのですが、まず自分が教育に関わってみる、ということで市政やもっと大きなことに生きることがあると思っています。
それから、知り合いに和歌山県公式のGitHubアカウント開設に協力をされた県内在住のプログラマーの方がおられるのですが、ITを駆使して地方の活性化を目指すNPO法人を作られるとのことで、それにも関わらせてもらうと思います。
【仁木】 自治体で初めてのGitHubアカウント開設ということで、一時期話題になりましたよね。海外ではGitHubで法案を作るプロジェクトもあるそうですし、これからが楽しみですね。
【並河】 あと、最近、凄いサービスできたじゃないですか。モノをネットにつなぐためにSIMカードを自由に発行できるっていう…。
【仁木】 もしかして、SORACOM Airですか?
【並河】 そうそう、それです。その方もそのサービスを見て感動していて、これで安価に遠隔センサーで獣害対策ができるな、とかいろいろアイデアを出し合っていました。
【仁木】 技術革新は場所を問わず影響を及ぼしていくものなんですね。
【並河】 こういう新しい技術やサービスもどんどん活用して、様々な社会課題に挑戦していきたいです。
【仁木】 まさか今日のインタビューでSORACOM Airが話題に登るとは思いませんでした(笑)。出たばかりですが、IT界隈でも注目されているサービスですよね。
まだまだ話が尽きませんが、これらが形になった頃にまたお話を聞かせてください。今後もお二人で地域の方を巻き込んで、どんどん未来を創っていってくださいね!長時間お付き合いいただきありがとうございました。
【並河・北村】 ありがとうございました。頑張ります!
※「一問一答方式」とは、案件に対する疑問点をひとつずつ取り上げ、納得いくまで質疑、答弁を繰り返す方法で、これにより議案の審議を十分深めることが可能となる。
<一般社団法人ユースデモクラシー推進機構 代表理事 仁木崇嗣>
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