猟師から町議へ 「狩りガール」は政界で何を狩るのか?
政治山 / 2015年11月18日 21時0分
福井県の最西端にある町、高浜町。原子力発電所の立地自治体である同町の人口は約1万人で、年々減少しています。さらに、高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は毎年1%近く上昇を続けており、2014(平成26)年10月時点で29.4%と3割超えが目前に迫っています。それに伴い、有害鳥獣の駆除を目的とするハンターの高齢化も大きな問題となっています。そんな高浜町で、2014年に狩猟免許を取得し、今年の町会議員選挙においては、当選時26歳で町会史上最年少議員として当選された児玉千明さんにお話を伺いました。
美容院を営みながら猟師と町議を兼ねる児玉さん(26歳)。年に数回しか飲まないのにたくさん陳列されているお酒はイベントの余りのいただき物だそうで、一切無駄にしない姿勢は狩猟で培われるのかもしれない。
高浜町の自然が大好きなんです
【仁木】 20代女性で猟師と町議をしている方は極めて珍しいと思います。そんな児玉さんへの最初の質問ですが、狩猟を始めようと思ったのはなぜですか?
【児玉】 もともと猟師に憧れていたのと、地域の住民や農家の皆さんの役に立てればという思いがありました。私も畑で作物を育てているのですが荒らされることもしばしばありますし、鳥獣被害額は福井県だけでも1億円近くあるそうで、猟師の高齢化も問題視されていることを聞いていたので。そして何より、この高浜町の自然が大好きなんです。
【仁木】 確かに東京でお会いした時より、高浜町におられる時の方が生き生きされていますね。すぐに山に入れそうな服装ですし。
【児玉】 やはりわかりますか。高浜町を離れると、とても不安になるんです。何か事故が起きてないかな? 大丈夫かな?って。まあ、私がいたとして何かできるというわけでもないですけど(笑)。
【仁木】 郷土愛を感じます。一方で、若い「狩りガール」として狩猟文化のPRや若い猟師を増やす役割もありそうですね。
【児玉】 はい。免許取得時はそれなりに注目を浴びまして、メディアへの露出もあり、選挙をするにあたってそれも有効に活用できるんじゃないのかという意見もありました。
【仁木】 立候補は誰か他の方からの推薦があったのですか?
【児玉】 推薦といえるのかわかりませんが、私の兄や知人を中心とした20代の若手の仲間で、この町をどうにかしないといけない、という話が盛り上がっていたのですが、じゃあ誰がやるのか、となると皆しゅんとなっちゃって…。じゃあ、私やるよ!と。その代わり、私が当選したら下の世代の子たちの事しか考えないからね、という条件を出しました。今の代で利権を奪い合うのではなくて、次の世代の踏み台になるんだという意図です。そういう流れで私の立候補が決まりました。
銃砲店での談笑が日常生活に入っている20代女性はそうそういない。
選対はほぼ全員20代、支持はお年寄りからも
【仁木】 児玉さんは、候補者15名中4位当選でトップとの差は21票と、新人の中でも頭一つ飛び抜けた印象ですが、実際の選挙もその20代の仲間とともに戦ったのですか?
【児玉】 選対はほぼ全員20代で、一切政治に興味の無かった人たちがほとんどでした。選挙の手伝い経験のある私の兄とその友人の2人以外は、政治や選挙に関する知識はゼロでした。中には投票に行ったことのない人たちもいました。私もですが、現職議員の名前や副町長すら誰か知らなかった人がほとんどでしたね。
【仁木】 具体的にはどういう活動をされたのですか?
【児玉】 私と私の兄とその友人の3人が中心になって、20~40代の議員がいないことや、このままではまずいということを若い人たちに伝えていきました。
【仁木】 となると、児玉さんが獲得した票は若い人中心だったということでしょうか?
【児玉】 いえ、実はそうでもなくて、ご年配の方からのご支持も多くいただくことができました。印象的だったのは、選挙運動中、地域のおばあさんから「あなたたちに苦労をさせてしまってごめんね」と謝られたことがありました。
【仁木】 それは象徴的ですね。若者が変化を起こそうとすることで、高齢者の心を動かしたのかもしれませんね。
普段づかいの自家用車を選挙仕様に。ありのままで飾らないスタイルが伝わってくる。
「おいおいおい、児玉千明、一般質問で爆弾発言するってよ。」ってざわつかせたい
【仁木】 続いて、議員になった後のことについて伺いたいのですが、議会内の活動で何か挑戦している取り組みはありますか?
【児玉】 私は、高浜町議会の情報公開をもっと進めるべきだと思っていて、町民に身近な議会になるべきだと思っています。
本会議だけはケーブルテレビで録画放映されるのですが、USTREAM等でリアルタイムでどこでも見られるようにするべきだし、全員協議会にも気軽に傍聴に来られるようにしたらいいと思っています。規則としては傍聴OKなのになぜ誰も来ないかといえば、そもそも傍聴席が無いんです。
これはおかしいと思って、一番最初に議長に傍聴席を設けるようお願いしたんです。先輩議員は、またこいつ面倒くさいこと言い出したなーという感じでしたね。ああ、見られたくないんだなって(笑)。
【仁木】 うまくいきそうですか?
【児玉】 議長決裁でできる内容にもかかわらず、議会運営委員会の全会一致が必要とされてしまい、先延ばしにされていたのですが、最近「議員と語ろう会」というタウンミーティングで町民からも同様の意見が出たので、ようやく重い腰を上げてくれそうです。
【仁木】 実現するといいですね。今後はどういう姿勢で議会に臨んでいく考えですか?
【児玉】 議会や政治を町民に身近なものに戻したいですね。
特に議会にも話題性が必要で、関心を持ってもらえる伝え方が必要だと思っています。周囲の若い友だちにも政治に興味を持たないとやばいよ、無関心でいたらやばいよ、と言って回っているのですが、そのうち「おいおいおい、児玉千明、一般質問、爆弾発言するってよ。」というふうに、ザワザワって人が集まる議会にできたら楽しいなって思っています。
【仁木】 日常の話題にあがるくらい身近になると素晴らしいですね。
【児玉】 そもそも本来は、国政は国民がにぎるものだし、県政は県民がにぎるものだし、町政は町民がにぎるものだと思っています。バッジをつけたら勘違いする人もいて、俺がすごいから当選したって内心で思っている人もいるので、まずは、議員が偉いという価値観を変えないといけないと思っています。
【仁木】 おっしゃる通りですね。
行政に依存しない、若者発の手づくりイベント
【仁木】 続いて、議会外で関わっている地域活動などあれば教えてください。
【児玉】 地域活動といえるかわかりませんが、ご覧のとおり、この町には若者の娯楽になるものがほとんど無いので、自分たちの小遣いを集めて2012年からオールジャンルの音楽イベントを開催しています。
【仁木】 若者たちだけでやっているのですか?
【児玉】 20~30代が中心です。メンバーたちは、補助金ありきの姿勢や行政に依存するのはやめようと言っていて、自腹を切ってでも自分たちで盛り上がるものを作っていこうと言っています。
【仁木】 なるほど。町おこしと言って補助金にたかる事例は枚挙に暇がありませんが、そうでは無く、自分たちの手で盛り上がるものを創るんだという強い意志を感じますね。
若者たちには自分たちが望むものを自分たちで実現していく熱意がある。
「行動すること」が重要だと伝えたい
【仁木】 最後に、猟師としての活動や、町議としての取り組み、若者発イベントなどを通して何を伝えたいと思っていますか?
【児玉】 そうですね、私の立候補だってそうだったように、うちの町の特性なのかもしれないんですけど、何かをやろうとか話をしている段階はめっちゃ盛り上がるんですよ。めっちゃいいアイデアも出る。でも、誰がやるのと言ったら、皆しゅんとなるんです。いろいろ理由をつけて誰もやらない。「いつか、誰かがしてくれるだろう」と受け身ではなく、自分たちのしたいことは、自分たちで実現する。「いつか」は「今」に、「誰か」を「自分」に変換していきたいです
【仁木】 それは高浜町だけでなく、日本全体やどんな組織でも言える問題かもしれません。
【児玉】 みんな評論家なんですよ。私はそれを変えたいし、自分も変わっていきたいです。
私って自分のことをすごくすごくしょうもない人間だと思ってるんですよ。でも、そのしょうもない人間でも、いろいろできるんだから皆できるんじゃないの?っていうことを伝えたいです。それが、政治でも狩猟でも音楽でも、自分の好きなことでいいんです。文句を言いながらいやいや仕事をする若い世代が多いですが、好きなことをしたらいいと思うんです。
【仁木】 不満を言うなら行動しろ、ということですね。
【児玉】 そうです。例えば、1期だけでもいいので、議員をしたことがある若者が100人いたら、町は変わりますよ。
【仁木】 確かに、町を愛する若者が100人いるのと同じことですからね。今日は何だか希望をもらえた気がします。ありがとうございました!
【児玉】 ありがとうございました!
たとえツケが回されてきたとしても、若者たちは健気に前を向いて未来を創っていくのかもしれない。
<一般社団法人ユースデモクラシー推進機構 代表理事 仁木崇嗣>
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