地域の状況と目的によってファシリテーションは変わる~協働のまちづくり4市合同研究会
政治山 / 2016年2月25日 13時30分
「協働のまちづくり4市合同研究会」
第38回のコラム(対話が創る地方創生)でも取り上げましたが、静岡県牧之原市では、西原茂樹市長のリーダーシップのもと、「対話」による協働のまちづくりに本気になって取り組んできました。この牧之原市の取り組みを近隣自治体に広げるために、2014年度に発足したのが、牧之原市、掛川市、島田市、焼津市による「協働のまちづくり4市合同研究会」です。
私がアドバイザーを務めるこの研究会では、年間8回程度の研究会のほか、県外視察、フォーラムを開催しています。2014年度は、富山県氷見市(第28回コラム:話しやすい空間での「対話」が未来を創造する)の視察を行い、2月には、「対話による協働のまちづくフォーラム~ダイアローグ・イン・ザ・マキノハラ~」を牧之原市で開催しました。2015年度は、福岡県福津市にある津屋崎ブランチを視察し、同じく2月に「住みよいまちを私が創る~対話で創る地方創生フォーラム~」を静岡市で開催しました。
初日のパネルデスカッションでコメントする北川先生
この4市合同研究会の実践は、1市による「点」でのまちづくりは、ややもすると息詰まり孤立してしまいますが、「善政競争」により、「点」から「線」「面」に広げる取り組みであることが評価されて、2015年の第10回マニフェスト大賞で「優秀コミュニケーション・ネット選挙戦略賞」を受賞しています。
今回は、2016年2月に、対話の力、地方創生における対話の必要性に気付いてもらう目的で開催された「対話で創る地方創生フォーラム」の内容を紹介しながら、さまざまな「対話の手法(ファシリテーション)」、対話の場を運営する際の方法論について考えてみたいと思います。
地域の状況と目的によって「ファシリテーション」は変わる
「対話(ダイアローグ)」とは、「討論(ディベート)」のように、互いの立脚点を明らかにし、相手を論破するのではなく、互いに耳を傾け、意見の多様性を知り、新しい知見を得る、そんな話し合いのやり方です。対話の効果は、参加者の気付き、関係性(つながり)の構築、そのプロセスの中での腹落ち、合意形成、前向きな次へのアクションなどがあります。また、対話を効果的に行うには、話し合いを促進させる「ファシリテーション」のスキルが必要になります。
牧之原市の実践と4市の合同研究会を通して分かってきたことは、地域の状況と目的によって、使う「対話の手法(ファシリテーション)」は変わるということです。まず、ゼロから地域に対話の場を作るスタートの段階では、参加を促すためにも話し合いの場を楽しくし、参加者の関係性を構築するようなファシリテーションが重要になります。次のステップとてしては、話し合いの結果を行政計画などの形としてアウトプットを出すためのファシリテーションが必要になります。
また、本来アウトプットとして求められるのは計画だけではなく、実際に行動を起こすこと、それによって地域の課題が解決するということです。この段階では、行動を促すためのファシリテーションが求められます。また、形のある計画や行動といったアウトプットを重視するのではなく、参加者の心の変化、アウトカムを意識し、何かが生み出され、参加者を勇気づけるようなファシリテーションのやり方もあります。そのほかにも、対話の内容を文字だけではなく絵を含めて記録して、対話から生まれた成果を振り返り共有して、次への行動につなげていこうとする「グラフィックハーベステイング」といったファシリテーションの手法もあります。
西原市長は、牧之原市は「対話の総合デパート」だとおっしゃいます。それは、さまざまな対話の方法論をお持ちのファシリテーターの方にご支援していただいているということです。会議ファシリテーション普及協会の釘山健一さん、世田谷トラストまちづくりの浅海義治さん、ファシリテーター市長の氷見市の本川祐治郎市長、サステナビリティダイアローグの牧原ゆりえさん、フューチャーセッションズの野村恭彦さん、津屋崎ブランチの山口覚さん、日本ファシリテーション協会の加留部貴行さんなど、そうそうたるメンバーです。
事例報告をする西原市長
対話で創る「地方創生」フォーラム
延べ180人が参加して2日間開催された今回のフォーラムでは、初日、北川正恭早稲田大学名誉教授が「対話で創る地方創生」をテーマに基調講演。西原牧之原市長が「牧之原市における対話による協働のまちづくり」のテーマで事例報告。また北川先生、本川氷見市長、フューチャーセッションズの野村さん、日本ファシリテーション協会の加留部さん、津屋崎ブランチの山口さんのメンバーで、「今こそ対話で地方創生を」をテーマにパネルデイスカッションが行われました。
そしてこのフォーラムのメインイベントは、2日目の「ダイアローグ・セッション」。野村さん、加留部さん、山口さん、牧之原市の市民ファシリテーターがそれぞれファシリテーターとなり、分科会方式で実際に対話を行いました。
対話を行うには、課題を抱えたテーマオーナーの思いがスタートになります。今回は、4市がそれぞれテーマオーナーとなりました。焼津市は野村さんが担当して「若者が輝くまちになるには」、島田市は加留部さんが担当して「元気な高齢者が活躍するまちを目指して」、掛川市は山口さんが担当して「子育て日本一のまちを目指して」、牧之原市は市民ファシリテーターが担当して「地域の魅力を活かした観光まちづくり」をテーマとしたセッションを行いました。
野村さんのセッションでは、まず野村さんが「対話」の必要性や、ワークショップにおける「問い」の重要性について説明し、まちづくり団体代表、焼津市市民協働課職員と野村さんの3人が対談型式でテーマについて確認しました。当初「若者が輝くまちになるには」のテーマでしたが、より当事者意識が高まるように、「若者自身がまちを輝かせるには」に野村さんの提案で変更しました。
まず4人ぐらいのグループで、まちにどんな若者がいたら良いかを対話を通して考え、その後、参加者が個人で考えた若者像に近い新しいグループを作りました。そのグループで、アイデアを体を使って表現する「ボディーストーミング」というアクティビテイーを行いました。今回は、「まちにこんな若者がいたら」ということをグループで考え、ありたい未来の姿を寸劇で披露し合いました。最後に、このワークショップでの気付きを車座になってフリートーク(「サークル」)しました。
フューチャーセッションズの野村さん
加留部さんのセッションでは、加留部さんが「対話」の意味を、「聴く」と「話す」の掛け算と説明した後、テーマオーナーである島田市の長寿健康課長からテーマについての思いを話してもらうことからスタート。その後、グループで「元気な高齢者ってどんな人?」の問いについて模造紙に書きながら話し合い、グループを変え2セット行いました。
次に、個人で対話を通して考えた「元気な高齢者」はどういう人かをA4用紙に書き出し、OST(オープン・スペース・テクノロジー)の手法を使い、同じ意見、似ている意見同士で新しいグループを作りました。新しいグループでは、「10年後のあなたのまちが元気な高齢者が活躍するまちになっているとしたら…その時の『新聞』にはどのような記事が掲載されているでしょうか?」の問いで、未来新聞を作成しました。最後にその新聞の内容を全体で共有して、元気な高齢者がたくさんいる未来の島田市の姿をイメージし合いました。
日本ファシリテーション協会の加留部さん
山口さんのセッションは、ボサノバのBGMが流れ、ゆったりとした雰囲気の中で、ワールドカフェの手法で行われました。冒頭、テーマオーナーである掛川市の子ども希望部長から、テーマの説明と思いが語られました。ウオーミングアップとして、「最近どう?」という問いについての返事を付け加えての自己紹介を、席替えしながら2セット行いました。場が馴染んだころに、山口さんが「対話」について、自分が正しいと思っていることを疑ってみることであると説明。
1つ目の問いとして「子育てにおける、大人の本当の役割とは?」が示され、グループでクラフトペーパーに書きながら対話しました。席替え、情報共有した後、「子育てにおける、それぞれの立場での役割とは?」を2つ目の問いとして話し合いました。次に、自分と向き合う時間として、「子育てにおける私の役割とは?」という問いについて個人で考えてA4用紙に書き込み、最初のグループに戻ってそれを共有しました。最後に、全体でセッションの感想を延べ合い終わりました。
津屋崎ブランチ山口さん
牧之原市の市民ファシリテーターのセッションでは、市民が、メインファシリテーター、司会、緊張をほぐすアイスブレイク担当、グラフィッカーとそれぞれ役割を持ちチームで進行を行いました。まず、アイスブレイクとして、ペアになって体操をした後、牧之原市で行われる「男女協働サロン」のルールとモットーを説明し、ご当地自慢を話題に自己紹介を行いました。
静岡県観光政策課の職員からの情報提供後、「地域の魅力を活かし観光まちづくり:何をしたら、何があれば地域に人が集まるだろう?私たちが何をしたら地域の人が集まるだろう?みんなでできる、地域に人が集まる方法を考えよう!」という問いで、付せんに書き出し、グループで共有しました。グループで出たアイデアの中で「大事にしたいこと」を3つ、「どうしても残したいこと」を2つに絞り込み、発表、全体共有しました。最後に、参加者の共感が高いアイデアを確認するために、ドッドシールで投票を行いました。
4者4様、対話の手法(ファシリテーション)はさまざまです。
牧之原市の市民ファシリテーター山本さん
偽物の対話、ワークショップ、ファシリテーター
最近、「対話」「ワークショップ」「ファシリテーター」という言葉が、一般的に使われるようになってきました。良いことではありますが、その意味がしっかり理解されているか心配になることがあります。つまり、「偽物の対話」「偽物のワークショップ」「偽物のファシリテーター」が見かけられるということです。単に住民と話をすることを対話と考えている首長や役所の職員が、残念ながら多いです。対話とは、こうした一方通行のものではなく、双方向で、お互いの思いや、地域で起こっている事象の意味付けを確認する話し合いのことを指しています。
ワークショップを開催する目的は、良いアイデアを出すことだけではなく、出てきたアイデアを実行しようと参加者が立ち上がることが目的です。また、ワークショップのやり方も、グループになり、アイスブレイクで始まり、付せんへの書き出し、グルーピング(構造化)をして発表、というスタイルだけではありません。その時の参加者の状況や目的によって、さまざまなワークショップの手法があります。また、対話を促すファシリテーターにも、話し合いを上手く整理し、まとめることだけではなく、参加者に気付きを起こさせ、新しい行動を促すといった、高いスキルが求められています。
「対話」は「地方創生」には不可欠です。しかし、対話をするだけでは、地方創生、イノベーションは起こりません。対話を通して、参加者によるネットワーキングが構築され、アイデアが湧き上がり、よしやろうといったコミットメント、覚悟が生まれ、それが、アクション、行動につながることで、イノベーション、地方創生が実現します。そのためにも、その地域の状況と目的によって、「対話の手法(ファシリテーション)」を上手く使い分ける必要があります。
登壇したメンバー
◇
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第40回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
<青森中央学院大学 経営法学部 准教授、早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員 佐藤 淳>
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