若者が活躍できるまちを目指して~愛知県新城市の「若者議会」の取り組み

政治山 / 2017年3月30日 12時20分

きっかけは市長マニフェスト

 2016年の参院選から18歳選挙権が導入されたこともあり、若者の投票率の向上、政治参加の推進、それを実現するための「シチズンシップ教育」の定着が、地域にとって大きな課題となっています。このコラムでも、高校生を対象に行う岐阜県可児市議会の「地域課題懇談会」の取り組みや、静岡県牧之原市の「学び合いの場デザイン会議」の取り組みについて紹介してきました。今回は、2016年「第11回マニフェスト大賞」で最優秀シチズンシップ推進賞を受賞した、新城市の「若者議会」の取り組みを事例に、若者の声を行政に如何に反映させていくかについて考えたいと思います。

 新城市では、2013年11月の市長選挙で、現職の穂積亮次市長が3選を果たしました。その時のマニフェストでは、「はばたく新城~3つの新機軸」の中の一つとして、「若者政策市民会議」(仮称)を創設し、若者が活躍するまちを目指す総合的政策を制定することが書かれていました。首長が、若者の力を活かすまちづくりの推進を新しいまちの方向性としてマニフェストで打ち出し、その思いが形になったものが、「若者議会」になります。

マニフェスト大賞授賞式
マニフェスト大賞授賞式

「若者条例」で実効性を担保する

 若者政策が具体的に動き出したのは、2014年度からになります。まず、地域の住民自治を担う「まちづくり推進課」の中に、若者の思いを政策につなげる専門部署「若者政策係」が創設されました。そして、市内の若者19人(高校生2人、大学生7人、社会人1人、地域おこし協力隊4人、市役所の若手職員5人)が集まり、「若者議会」の前身となる「若者政策ワーキング」が立ちあげられました。

 ワーキングでは21回のワークショップが行われ、「新城市若者総合政策」がまとめられました。「若者総合政策」は、若者が活躍し、市民全員が元気に住み続けられ、世代のリレーができるまちづくりを最終目標として、(1)好きなことにアツくなれるまち、(2)ホッ♡(ハートマーク)ちょっとひといきできるまち、(3)夢が実現するまち、(4)あっ、こんなところに素敵な出会い、の4つのテーマに基づく具体的なアクションを若者自らでまとめた宣言文とでも言えるものです。

 また、ワーキングでは、新城市で持続的に若者政策を展開する実効性を担保するために、条例を制定するべきとの意見があがりました。市ではそれを受けて、2014年12月の議会で「若者条例」「若者議会条例」が制定されました。「若者条例」では、「若者」を中学入学後の概ね13歳から29歳までの者と定義。市の責務として、若者が活躍するまちの形成の推進のために必要な施策を策定、実施することが謳われています。

 市長は、若者が活躍するまちの形成に関する施策を計画的に実施するための計画(若者総合政策)を定め、その調査審議の場として「若者議会」を設置することにしています。そして、若者の活動などに対する支援として、予算の範囲内において、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとするとしています。

若者議会ポスター
若者議会ポスター

「若者議会」の実践と成果

 2015年度、条例に基づき、「若者議会」がスタートしました。「若者議会」は、市長の付属機関として位置づけられ、市長の諮問に応じて、若者総合政策の策定、実施に関する事項などを調査、審議し市長に答申します。要件は、市内に在住、在学、在勤し、概ね16歳から29歳まで、定員20人以内、任期は1年(再任は妨げない)、報酬は1日3000円になります。

 第1期「若者議会」のメンバーは、公募で選ばれた高校生10人、大学生4人、専門学校生1人、社会人5人の20人で組織されました。その他、メンターとして市民5人、職員12人が活動をサポートします。職員は研修も兼ねた公務としての扱いの参加です。

 「若者議会」では、14回の全体会、60回の分科会(市内PRチーム、市外PRチーム、防災チーム、世代間交流チーム、図書館チーム、医療チームの6チーム)、地域意見交換会10回、市議会議員との意見交換会、アンケート調査、市部長職との意見交換、市担当職員との意見交換など、話し合いを積み重ねて6つの事業提案をまとめました。

ワークショップの様子
ワークショップの様子

 市内PRチームは、駅前の公共施設をリノベーションして、若者の拠点、情報共有スペースを立ち上げる事業。市外PRチームは、若者議会の活動をSNSなどのメデイアを活用して発信、PRする事業。防災チームは、防災訓練や消防団への若者の参加を促すための若者防災意識向上事業。世代間交流チームは、高齢者と若者のつながりを創出するためのおしゃべりチケット事業。図書館チームは、図書館の勉強スペースが不足している若者目線の課題を、使われていない郷土資料室のスペースを活用することで解決する、図書館リノベーション事業。医療チームは、医療費の削減のため、市民の健康増進を進めるいきいき健康づくり事業。市長に答申されたこの6つの事業については、事業を実現させるため、2016度予算として議会で総額1000万円が承認されました。

 2016年度の第2期「若者議会」は、委員20人(高校生12人、大学生4人、社会人4人)、市外委員4人、メンター15人(市民7人、職員8人)で活動しています。第1期提案事業のうち図書館リノベーション事業、情報センターリノベーション事業、若者議会広報事業の3事業について、引き続き第2期メンバーで検討しています。また、その他の事業は、第1期のメンバーが中心に事業の実施にも関わり、いきいき健康づくり事業は、バブルサッカー健康教室となり若者発の政策が具体化されていっています。

リノベーション前の郷土資料室
リノベーション前の郷土資料室

リノベーション後の図書館学習室
リノベーション後の図書館学習室

若者が活躍できるまちを目指して

 「若者議会」は、若者にとっては社会の仕組みを知りそこでの振る舞いを学ぶ「成長の場」、行政にとっては若者の発想力と行動力を感じる「気付きの場」になっています。新城市の取り組みがこのように成功しているのには、いくつかのポイントがあると思います。

 一つは、穂積市長が選挙のマニフェストの中で、主要政策の一つとして、若者が活躍するまちを目指すとして、当選後それに本気になって取り組んでいることです。マニフェストを実現させるための実行体制として「若者政策係」を配置したことからも、その本気さはうかがえます。また、若者政策の推進を地域のルールとして明確に位置付ける意味からも、「若者条例」「若者議会条例」を制定したことにより、政策の継続性、実効性が担保されました。そして何よりも、1000万円の予算を確保し、若者からの提案を実現させることに拘ったことは大きいと思います。

若者議会メンバー集合写真
若者議会メンバー集合写真

 教育哲学者のガート・ビースタは著書、『民主主義を学習する(原題 “Learning Democracy In School And Society”)』の中で、「シチズンシップ教育」を批判的、発展的に検証し、シチズンシップを教授することから、民主主義を学習することに考え方を変えなければならないと訴えています。シチズンシップの教授とは、「善き市民」になるための、知識、スキル、性向を教える、身につけてもらうというもの。その責任は学校と教員が担います。ある意味、若者を既存の社会の常識に順応させる社会化とも捉えられます。

 一方、民主主義を学習するとは、そもそも「善き市民」とは何かを、民主主義の現場に参加することで、学習することを意味しています。責任は、学校だけでなく地域も担います。この考え方では、若者を政治的に主体化することを標榜しています。新城市の「若者議会」はまさに、「民主主義を学習する場」として機能していると思います。こうした場、若者が活躍できるまちづくりに自治体が本気で取り組むか否かが、今後の地方創生の成否に大きな影響を及ぼすと思います。

答申を市長に提出する様子
答申を市長に提出する様子

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第59回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

<青森中央学院大学 経営法学部 准教授、早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員 佐藤 淳>

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