2017衆院選を振り返る マニフェスト型選挙の未来
政治山 / 2017年10月31日 11時50分
今回の衆院選は何だったのだろうか。9月25日、安倍晋三首相は、「この解散は国難突破解散だ」と述べ、28日の臨時国会冒頭に衆議院の解散に踏み切った。10月10日公示、22日投開票日、解散から1カ月もない、短期決戦の選挙となった。
安倍首相が、解散の理由、大義としてあげたのが、北朝鮮への対応強化と、2019年10月に予定通り消費税の10%への増税を行い、その増税分の使い道を子育て世代への投資拡充に見直すということ。確かに重要な政治課題ではあるが、今本当に国民に信を問うことが不可欠な解散だったのだろうか。どちらも、国会でしっかり議論すればいい話ではないのか。
選挙期間中の街頭演説(JR中野駅前)
解散権のあり方を検討すべき
今回の解散は、天皇の国事行為を定めた憲法第7条による解散であった。これを機会に、首相の解散権のあり方を検討する必要がある。今の状況では、落ち着いた政治も投票もできない。「マニフェスト・サイクル」という考え方がある。各政党が選挙の際に具体的な政策を盛り込んだマニフェスト(政権公約)を掲げて戦うだけではなく、政権をとった政党は、マニフェストの実行体制を構築し政策を実現するよう努力し、定期的にその進捗状況を評価検証するというものだ。
次の選挙では、政権与党は評価を踏まえて、新しいマニフェストを有権者に示す。野党も4年間で政策を練り、政権を目指すマニフェストを作りあげる。その内容を選挙で競い合うのがマニフェスト型選挙だ。突然の解散では、評価を落ち着いてする時間もなく、付け焼刃のマニフェストが示されることになってしまう。これでは我々国民のためにはならない。
有権者には分かりにくい選挙
この選挙は、「政策」も、「政局」も、「選挙区」も、全てが有権者にとって分かりにくいものだった。まず、「政策」だが、自民党が掲げる保守と希望の党が掲げる改革保守は、何が違うのか。消費増税、原子力政策などで立ち位置は違ってみえるが、憲法改正への積極性は同じ。政策というよりは、政権の体質や手法の違いを訴えていたが、有権者に違いは伝わらなかった。また、希望の党の候補者は、政党のマニフェストと、その主張が一貫せず、党の政策に反する発言などもあり、有権者はそのズレを敏感に感じた。
先行きの「政局」も全く見通せなかった。解散時の野党第一党の民進党が候補者を擁立せず、希望の党、立憲民主党が新しく立ち上げられた。選挙後の野党再編も見え隠れし、現政権に批判的な考えを持つ有権者が判断に迷う結果となった。
最後に、「選挙区」だが、一票の格差是正のため、小選挙区の区割りが、19都道府県の97選挙区で変更された。新しい選挙区の区割りが確定したのが6月、周知期間4カ月での選挙となった。候補者選定が遅れた選挙区もあり、戸惑った有権者も多かった。
2017年衆院選、各党のマニフェスト
低迷する投票率こそが「国難」
結果は、寛容な改革保守を標榜していたはずだった希望の党の小池百合子代表の、9月29日の「排除」発言から流れが大きく変わり、野党は自滅、自民党の圧勝。解散前後の与党の議席数はほぼ変わらなかった。排除は、対話の姿勢ではなく討論、そこから新しい価値は生まれてこない。
投票率は、53.68%(小選挙区)。戦後最低だった前回の52.66%をわずかに上回ったものの、戦後2番目に低い水準だ。これこそ「国難」ではないのか。国民を向いた分かりやすい政治を行うことで、政治への信頼と関心を高めなければならない。政治家の姿勢が問われている。
自民党の比例代表の得票率は33.28%、公明党の12.51%と合わせても45.79%。投票を棄権した人を踏まえると、積極的に政権与党を支持しているのは、1/4の国民ということになる。内閣支持率を見ても、現政権に懐疑的な国民も一定数存在する。言葉だけではない、「謙虚な」政権運営が望まれる。
◇
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第66回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
<青森中央学院大学 経営法学部 准教授、早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員 佐藤 淳>
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