第77回 議員間討議で「政策サイクル」を回す(2)「対話」を前提とした議員間討議の実践
政治山 / 2018年9月13日 10時0分
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第77回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
◇ ◇ ◇
前回に引き続き、今回も議員間討議のあり方について考えていきます。
「対話」の重要性話し合いを表す日本語には、いくつかありますが、議員間討議で意識したいのは、「対話」です。「対話」とは、違いに耳を傾け、意見の多様性を知り、新しい知見を得るものです。もしかすると自分の意見は間違っているかもしれない、相手の意見がより良いものかもしれないといったスタンスで話し合いに臨みます。
それに対して「討論」は、互いの立脚点を明らかにして、相手を論破する話し合いのやり方です。前提にあるのは、自分の意見は絶対正しい、相手の意見は必ず間違っているという考え。相手を否定する「討論」からは何も生まれませんが、お互いに認め合う「対話」を通してこそ、新しい気付きやアイデアが生まれてきます。
議員間討議が定着しないネック議員間討議が定着しないネックは、大きく2つに分けられると思います。1つは議員の意識とスキルなどのソフトの問題。もう1つは設備などのハードの問題です。ソフトの問題として、審議を執行部への質疑応答だと思い込んでしまっている、話し合いと聞くと反射的に「討論」になってしまう議員の意識があります。
スキルとしては、議論を行う前提としての、論理的な思考力(ロジカルシンキング)も重要になります。事実に基づいている、根拠が明確である、展開の筋道がつながっている、結論がはっきりしている。話が論理的で、分かりやすくなければ、咬み合いやすくなります。
また、話し合いを促進させるファシリテーションのスキルも不可欠です。とりわけ、委員会を仕切る委員長には、このスキルが求められます。多くの議会では、委員長は期数でなることが慣例で、委員会の議論を上手く仕切れるか否かは、委員長の要件に入っていません。経験など場慣れも必要ですが、会議の議論が深まるように進行するスキルが、委員長そして各議員に求められます。
次にハードの問題ですが、委員会室に、ホワイトボード、プロジェクター、スクリーンなどの設備が整っていない議会が多いです。特にホワイトボードは、議論が空中戦になり、話が錯綜する状況を、可視化することに効果があります。また、タブレット端末を活用し、検索しながら議論をしていくことで、話し合いの質もあげられます。
議員間討議中に意識しなければならないこと議員間討議中で特に意識しなければならないことは、「対話」ができているかどうか?と言うことですが、それ以外にも次の6つの問いを全員が意識することが重要になります。
(1)皆が発言しているか、参加しているか?
(2)何が事実で、何が意見か?もしかして憶測ではないか?
(3)曖昧なこと、分からないことをそのままにしていないか?
(4)対立している点が整理されているか?
(5)話し漏れていることはないか?
(6)何が決まり、何が決まっていないか?
以上の6つです。
人は意識しないと「対話」ができないと言われています。それは、人は、「自分自身」と「自分の意見」を同一視してしまい、本能的に自分の意見を守ろうとし、自分の意見と異なるものに反対してしまうからです。つまり、我々の話し合いは無意識に「討論」になってしまいます。相手の意見の評価、判断を保留し、自分に非があった場合には謙虚に負けを認めて自分の意見を手放す勇気を持つことが、新しい価値を創造する議員間討議の要諦だと思います。
宮城県柴田町議会の「ワールドカフェ」による議員間討議宮城県柴田町議会では、「総合体育館建設」という意見の分かれる課題に対して、議員間討議に挑戦しています。賛否をいきなり表明し合うのではなく、全員協議会の場で「ワールドカフェ(4~5人の少人数のグループに分かれ、参加者の組み合わせを変えながら、自由に話し合うワークショップ)」(第74回「ポジテイブな発想と当事者意識で実践へつなげる」)で「対話」を実施しました。
これができたのも、2016年から3年間、町内の柴田高校の高校生との意見交換会を「ワールドカフェ」で継続してきた成果です(第52回「議会×高校生の対話で地方創生を」)。「この案件(総合体育館建設)に対する疑問点(執行部に確認したい点)は何ですか?」「この案件の論点(意思決定をする上で考慮されるべきポイント)は何ですか?」「この案件の論点で特に大事にしたい、深めたい論点は何ですか?」の問いで話し合い、その結果、74項目の疑問点と4つの論点((1)総合体育館建設の時期、必要性について、(2)町の財政などについて、(3)町民の意向について、(4)総合体育館建設の規模や内容について)が抽出、話し合う優先順位も決められました。今後、この論点、優先順位に基づいて議論を深めていきます。
議員間討議で「政策サイクル」を回す先にある「地方創生」「議会改革第2ステージ」では、地域課題を解決する議会、住民の役に立つ議会改革を進めていかなければなりません。そのためには、議員間討議を重ねて、議会からの「政策サイクル」を回すことが求められます。「対話」を前提とした議員間討議の実践です。
話し合いの中で、相手の意見の評価、判断を保留し、自分に非があった場合には謙虚に負けを認めて自分の意見を手放す勇気を持つことが、新しい価値を創造する議員間討議の要諦です。慣れないと、話し合いの論点、優先順位が定まらず混乱が起き、議論が錯綜してしまいます。
また、議員は選挙で選ばれるライバル同士でもあり、本音のところでは、分かり合えない、通じ合えない微妙な心理的な距離や対立があるのも事実です。そして何よりも、正解が分からない複雑な問題が地域には山積しており、どうすれば良いか分からず、先が見えない状況です。難易度の高いテーマですが、議員間討議に挑戦する先に、議会からの「地方創生」の実現があると思います。
◇ ◇ ◇
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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