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第78回 自治体職員志望の本気の学生を増やすために~「対話の学び場」の取り組み

政治山 / 2018年10月31日 10時0分

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第78回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

学生と自治体職員の「対話の学び場」の様子1

自治体職員志望の学生たちの状況

 地方大学ということもあってか、筆者が勤める大学には地元の自治体職員を志望する学生が一定数いる。そうした学生になぜ自治体職員を志望するのか尋ねると、公務員は安定している、定時に帰れる楽そうな仕事だから、という答えが返ってくる場合が多い。突っ込んで聞くと、親からその様なステレオタイプのイメージを植え付けられていたり、自分はやる気はないが親に勧められて嫌々という場合まである。

 試しに、志望する自治体の首長の名前を知っているかと聞くと、中には答えられない学生もいる。自治体職員と会ったことも、話をしたこともなく、職員がどんな仕事をしているのか知らずに、公務員講座を受講している学生がたくさんいる。残念ながら、仕事を理解し、夢と志を持って自治体職員を目指す学生は少ないような印象だ。

学生と自治体職員の「対話の学び場」の様子2

 一方筆者は、仕事柄、自治体の首長や人事担当者と話す機会が多い。最近聞くのが、人手不足による売り手市場により、職員採用試験の出願者が減少、全体的にレベルが下がっているのではという危機感である。社会常識を逸脱するびっくりする様な出願者の話も耳にする。

 また、公務員予備校の影響等もあり、筆記試験の点数、面接の受け答えは完璧であったのに、入庁後今一つという若手職員を嘆く声も多く聞く。残念だが職場に馴染めずに退職する若手職員も多い。いわゆる「就職のミスマッチ」である。

 ミスマッチを防ぐ意味からも、学生と自治体職員が本音で語り合う場は必要だ。そうした場として2013年9月、福岡市役所の職員のオフサイトミーティング「明日晴れるかな」に西南学院大学の学生を招き、「公務員と語る。公務員を語る。」という企画が開催された。翌年以降も大学の枠を広げ毎年開催されているという。また、その取り組みは、思いある全国の自治体職員にも広がり、山形県酒田市、山形市、秋田県由利本荘市等で開催されている。

 今回は、筆者が2108年度自治体職員の人材育成の場として開催してきた自治体職員「対話の学び場」の実践企画として実施された、学生と自治体職員の「対話の学び場」の取り組みを紹介するとともに、これからの自治を担う自治体職員志望の本気の学生を増やす方法を考えたい。

自治体職員「対話の学び場」

 地域での「対話」の重要性については、何度となくこのコラムで書いてきた(第74回「ポジテイブ発想と当事者意識で実践へつなげる」)。地域を自らの手で創り育てる住民を増やす、そうした真の「地方創生」実現のために、これからの自治体職員には、「対話(ダイアローグ)」の力が求められる。「対話」を通した自治体職員の内発的な気付きが行政組織を変え、地域を変えるという強い思いから、筆者は2018年度、自治体職員「対話の学び場」を開催した。

学生と自治体職員の「対話の学び場」の様子

 第1回は、「対話」とは何かを対話を通して考える。第2回は、対話の様々な方法論を体験型で学ぶ。第3回は、本コラムでもたびたび紹介している静岡県牧之原市の事例(第72回「OSTで高校生の主体化と自己組織化に挑戦」)を中心に、地域における対話の実践事例を学ぶ。第4回は、いくつかの対話のワークを通して、役所組織内における対話の活用法(第67回「組織の関係の質を上げるオフサイトミーティングのすすめ!!」)を考えてきた。

 青森県内を中心に、毎回20~30人の自治体職員の方に参加いただき学び合った。その第5回の集大成、対話の実践の場として、受講してきた自治体職員有志が企画して開催されたのが、学生と自治体職員の「対話の学び場」である。志ある自治体職員の卵となる学生の発掘、育成をしたいという有志メンバーの思いからである。

学生と自治体職員の「対話の学び場」

 学生と自治体職員の「対話の学び場」は10月6日、青森商工会議所会館1階のAomori Startup Centerで開催、学生13人、自治体職員14人が参加した。自治体職員の「対話の学び場」の実践企画でもあったので、大学生と自治体職員が様々な形で対話を行えるようにプログラムを工夫した。

学生と自治体職員の「対話の学び場」の様子3

 はじめに、参加者がサークルになり、今回の場の主旨や流れの説明を聞き、「チェックイン」として、自己紹介と今日の場に対する期待や不安を語り合った。その後、学生2人、自治体職員2人の4人のグループになり、「ストーリーテリング」を実施。ストーリーテリングとは、伝えたい思いをイメージしやすいように、具体的なエピソードで語るもの。今回は、自治体職員が「役所生活最高のパフォーマンスの仕事は?」の問いについて物語調で語った後、学生から、それを聞いて目から鱗だったことを話してもらい、質問を投げ掛けてもらった。

 グループでの時間が終わると、代表の学生が感想を全体で共有した。鳥インフルエンザ対応の支援で県外に行った話を聞き、部署内、自治体内の仕事しかしないイメージが変わった。防災訓練のやり方の見直しを実施した話を聞いて、新しい企画や提案ができることが分かった等、様々な気付きが場に共有された。

学生と自治体職員の「対話の学び場」の様子4

 続いて「ワールドカフェ」で対話を深めた。ワールドカフェとは、4~5人の少人数のグループに分かれ、参加者の組み合わせを変えながら、自由に話し合う対話の手法。第1ラウンドは、「役所の仕事のイメージは?役所に入る前と後のギャップは?」の問いで対話をした。席替え後の第2ラウンドの問いは、「どんな自治体職員になりたいか?どんな自治体職員でありたいか?」。元の席に戻っての第3ラウンドは、「ありたい職員になるために今取り組みたいことは?」の問いで語り合った。

 ありたい職員像として、情熱を持った職員、住民と信頼関係を構築できる職員等があがった。ワールドカフェのまとめとして、「明日からチャレンジしたいことは?」の問いで、大学生、自治体職員ともに自分の考えを紙に整理してもらった。

学生と自治体職員の「対話の学び場」の様子5

 最後に「チェックアウト」として再びサークルになり、今日の学びと気付きを共有し合った。学生からは、「まずは自分が就きたい仕事について調べ、いろいろな方と話をしたい」「興味ある無しに関わらず、経験してみることが大事」「一歩踏み出し、地域の活動や交流の場に参加したい」等、前向きな話がされた。

 また職員からも、「誰のために仕事をしているか再確認する機会になった」「学生の意見を聞き自分の固定観念に気付いた」「改めて住民の意見を聞く必要性を感じた」等の感想が語られた。学生、自治体職員、双方に取って学びの多い有意義な場になったと思う。

学生と自治体職員の「対話の学び場」の様子6

自治体職員志望の本気の学生を増やすために

 2018年7月、有識者による総務省の「自治体戦略2040構想研究会」がまとめた最終報告書によると、人口減少やAI等の技術の進歩もあり、2040年には、今の半数の公務員で行政を支える時代が来るとしている。単純事務作業はAIに取って代わられ、定型の窓口業務はロボットが担うそんな未来。

 公務員も安定した仕事ではない。生き残るのは、地域ニーズに合致した新しい政策を考えられるクリエイティブな職員や、住民と深いレベルでの関係性を構築できるコミュニケーション力の高い職員だ。公務員は安定している、定時に帰れる楽そうな仕事といったイメージだけを持った学生には到底務まらない仕事になる。

学生と自治体職員の「対話の学び場」の参加者

学生と自治体職員の「対話の学び場」の参加者

 「対話」は、違いに耳を傾け、意見の多様性を知り、新しい気付きや知見を得る話し合いだ。対話を通した内発的な気付きからは、「やりたい感」が湧きあがってくる。学生は、自治体職員の仕事の話を直接聞き、自分もそうなりたい、そういう仕事がしたいと思う。そうした思いが起点になることで、公務員試験に向けた勉強にも熱が入る。対話の場のつながりがきっかけで、一歩前に踏み出して地域の活動に参加する学生も出てくるはずだ。福岡の「公務員と語る。公務員を語る。」の過去の参加者の中には、実際に福岡市役所に入庁した人もいるという。

 自治体職員志望の本気の学生を増やすためには、学生が、自治体職員と直接会って対話する場が不可欠だ。それは自治体職員にとっても気付きの場になる。こうした取り組みが全国に広がっていくことを期待したい。

◇        ◇        ◇

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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