第81回 「議会モニター」とともに歩む議会改革
政治山 / 2019年1月31日 10時0分
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第81回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
なぜ議会改革が市民に評価されないのか?全国の議会で議会改革が広がっている。しかし、住民にとって肌感覚で、議会が変わっている実感は乏しく、議会に対する評価もまだまだ低い。それには2つの理由があると思っている。
一つ目は、議会改革の成果がまだ十分で無いこと。これは、このコラムでも何度も書いている「議会改革第2ステージ」で鍵を握る「政策サイクル」がしっかり回転し、住民福祉向上までのループが閉じていないことを意味する(第79回「議会改革第2ステージ「学習する議会」を目指して」)。
もう一つの理由は、改革のプロセスや日常の議会運営に住民が参加していないことである。議会報告会、市民との意見交換会等を開催し、市民参加を進める議会は増えている。しかし、参加者の固定化や減少、内容も批判や要望の応酬等とその運営には課題も多い。また、議会活動や行政に対する正確な情報が無いため、残念だが的をえない意見も頻繁に出てくる(第46回「住民と対話する議会を目指して」)。
そんな中、議会運営と行政をより深く理解しコミットしてもらいたいとして、「議会モニター制度」を設ける議会が現れてきている。早稲田大学マニフェスト研究所の「議会改革度調査2017」によると、議会改革や日常の議会運営の改善に関わる住民参加を進めるための「運営改善提言型議会モニター制度」を取り入れている議会が42議会。さらに一歩踏み込み、政策に関わる住民参加を目指す「政策提言型議会モニター制度」を試行する議会が13議会(前記42議会の中にも含まれる)ある。こうした議会は調査後も確実に増えている。
今回のコラムでは、この「議会モニター制度」に関する現状と課題の整理を行うとともに、そのありたい姿を考えていきたい。
「議会モニター制度」の現状と課題筆者が関係する議会で、議会モニター制度を採用している4議会(北海道芽室町議会、浦幌町議会、岩手県北上市議会、宮城県登米市議会)の事務局に確認したところ、議会モニター制度の課題として以下の4点が挙げられる。
一つ目は、そもそもの「議会モニター」のなり手不足の問題。公募しても手が挙がらず、メンバーを集めるのに苦労している議会が多い。
二つ目は、モニター自身の制度の趣旨、役割の理解不足。これはお願いでなってもらっていることとも関係し、モニターの主体性が発揮されていないことに原因がある。
三つ目は、モニター会議そのものの進行の仕方である。従来の審議会の様な会議スタイルだけでは、モニターの創造性はなかなか発揮されない。
そして最後に、聴取した意見の反映方法である。モニター制度の担当が広報広聴委員会であるケース等、委員会の意見を議会の総意とし、改善を進めていくことに苦慮している。「議会モニター制度」はまだまだ試行錯誤、進化発展の過程にあるといえる。
全国での「議会モニター制度」の試行錯誤の実践以下、筆者が関わった「議会モニター制度」を実施している議会の実践について、「運営改善提言型議会モニター制度」として浦幌町議会、久慈市議会、「政策提言型議会モニター制度」として芽室町議会の取り組みを紹介する。
◇浦幌町議会
浦幌町議会は、人口減少の中、小規模議会のなり手不足問題について目を反らさずに正面からぶつかっている議会である(第73回「なり手不足の問題から地方議会のあり方を考える」)。
筆者は2018年3月、町民との意見交換会をワールドカフェ形式で行うための研修会の講師として訪問。その研修会には、議員だけではなく議会モニターの方も参加し、「浦幌町の子育ての10年後の未来」をテーマに、ワールドカフェを体験しながら一緒に学び合った。研修の成果として、その後9月に開催された議会モニター会議では、対面式の会議から、モニター全員が議員と意見交換できるようにワールドカフェに会議の手法が変更され、活発な議論が行われた。
◇久慈市議会
久慈市議会は、市民との意見交換会にワールドカフェを導入することに全国で初めてチャレンジして既成事実を創った議会である(第20回「市民との対話が生まれる新しい議会と市民との意見交換会のあり方」)。
2018年度から議会モニター制度を導入した久慈市議会では、議会モニター制度の今後を、議員とモニターが一緒に考える場として、2019年1月に議会モニター会議を開催した。筆者がファシリテーターとなり、ワールドカフェにより、「議会モニターのありたい姿」について対話を行った。「会議の回数を増やし、もっと議員の方と話しをしたい」「政策提言を目指し、一緒の勉強会をしたい」「モニターがファシリテーターを務め意見交換会を開催したい」等前向きな意見がたくさん出た。
◇芽室町議会
芽室町議会は、早稲田大学マニフェスト研究所の「議会改革度ランキング」で、2017年度まで4年連続第1位を続ける、議会改革最先端議会である。
芽室町議会は、議会改革や日常の議会運営の改善だけではなく、政策に関わる住民参加を目指す「政策提言型議会モニター制度」を標榜している。2018年度、議会は、(1)公共交通、(2)観光、(3)地域医療の3つのテーマで、政策提言を目指して活動してきた。2018年12月の議会モニター会議では、筆者がファシリテーターとなり会議を進行。各テーマに関する議会からの情報提供の後、関心のあるテーマのグループに分かれて、問題意識の共有、現状の確認、ありたい姿の確認、議会、行政、モニターが取り組まなければならないことを話し合った。モニターからの意見の精度はまだまだな部分もあるが、新しい挑戦として高く評価できる。
「議会モニター」と歩む議会改革議会改革が進んでいると評価され、全国から視察が多い上記の議会ですら、「議会モニター制度」はまだまだ手探りの状況、進化発展のプロセスにある。ポイントは、議会モニターの「主体性」と「創造性」を解放する仕掛けをどう準備するかだと思う。そのためには、モニターと議員が、学び合い、話し合い、成長し合う場をどのようにして作るかが鍵だ。また、その輪をどの様に地域にひろげていくかが次の課題だ。浦幌町議会の議員とモニターとの合同研修会、久慈市議会のモニター制度の振り返りの場等が、そのヒントになる。芽室町議会は、そもそも「政策提言型議会モニター制度」という全国的にもまだ少ないモニターの新しいカタチに果敢に挑戦している
「議会改革第2ステージ」は、「議会モニター」とともに歩み、住民の関心と評価、信頼を勝ち得るための、民主主義を成熟させる「終わりなき旅」でもある。
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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