第85回 地方議員選挙でのマニフェストビラ解禁
政治山 / 2019年5月30日 10時0分
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第85回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
念願の地方議員選挙でのマニフェストビラ解禁2003年の統一地方選挙でマニフェストが日本の政治に登場してから、今年で16年目になる。マニフェストは、選挙のあり方を「お願い」から「約束」に、政策中心の選挙に変える道具である。地方選挙では、2007年2月の『公職選挙法(以下:公選法)』改正により、知事選挙、市区町村長選挙において、A4表裏のマニフェストが書かれたマニフェストビラ(以下:ビラ)の配布が可能になった。
![マニフェストビラ](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2019/05/wmk35-1-500x281.jpg)
マニフェストビラ
それから12年、2019年3月施行の改正公選法により、ついに地方議員選挙においてもビラの配布ができるようになった(第57回「選挙から地方議会のあり方を変える」)。この改正は、日本の民主主義のインフラの整備にとって大きな意味がある。これまでの地方議員の選挙といえば、街宣車による名前の連呼が中心。立候補者の情報を知るにはポスター掲示場のポスター。紙ベースで政策を知る手段は、選挙ハガキと選挙公報に限られてきた。
ただし、選挙ハガキは立候補者と何らかのつながりのある人にしか届かない。また、選挙公報はそもそも発行していない自治体もあることや、記載できる情報量にも限界がある。首長とともに地方における二元代表制の一翼を担う地方議会の議員の選挙で、政策を訴える手段が著しく制限されてきた。
![選挙公報](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2019/05/wmk35-4-500x281.jpg)
選挙公報
今回の解禁で、町村議選を除く地方議員選挙で、選挙期間中に候補者1人当たりの上限枚数はあるものの、ビラ配布ができるようになった。上限は、都道府県議選で1万6000枚、政令市議選で8000枚、一般市議選・特別区議選で4000枚である。
上限を超える配布を防ぐため、各候補者は、立候補届の際に選挙管理員会からもらった証紙を貼らなければならない。また、条例を制定することにより、ポスターや選挙ハガキ同様に、作成を公費で負担することもできる。
![証紙貼りの様子](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2019/05/wmk35-2-500x311.jpg)
証紙貼りの様子
筆者は、今回の統一地方選挙、青森県議選 青森市選挙区(定数10候補者12)、東津軽郡選挙区(定数1候補者2)の候補者14人のビラを入手、その内容を確認した。
一番目立ったのは、ビラの表面が、ポスターと同じ、顔写真と名前とキャッチフレーズが書かれた「ポスター型」のもの。裏面に政策は書いているものの、政策よりは、顔と名前を印象づけようとする戦略だ。
ビラの解禁は、有権者に政策を分かりやすく伝えられるようにするのが趣旨。選挙公報よりはスペースがあるので具体的な政策を書いてほしかった。また、具体的な政策ではなく、従来型のスローガン中心の「従来公約型」も見受けられた。「医療・福祉の充実」「教育環境の整備」「短命県返上」等、誰も反対しないスローガンが並び、その実現方法が具体的に示されていない。
そんな中、表面、裏面ともに具体的な政策を書き、選挙公報よりも情報量が多い「マニフェスト型」と評価できるものもあった。ただし一部には、活字の情報量が多すぎて、見せ方に工夫が必要なものもあった。今後書かれる政策の内容とともに、有権者への分かりやすい伝え方も考えなければならない。
2013年にはインターネット選挙が解禁、選挙期間中のインターネットを活用した選挙運動が可能になっている(第5回「マニフェストとネット選挙」)。残念ながら、今回の14人のうち、作成したビラをホームページに掲載していたのは一人だけであった。SNS等を使ってビラを拡散している候補者はいなかった。
配布できるビラの数に限りがあり、直接手にできない人向けに、インターネットを活用してアプローチしていくことも考えてほしい。普段、インターネットで情報を入手することが多い若者に対しては、SNS等が政策を伝える有効なツールになるはずだ。
![ポスター掲示場](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2019/05/wmk35-3-500x281.jpg)
ポスター掲示場
今回のビラ解禁で、制度面での課題も残される。まず、財政難等を理由に公費負担の条例制定を見送った自治体があったことである。候補者は自己負担でビラを配布することは可能であるが、経済的な事情で諦める場合がある。民主主義のコストとして、公費助成は必要だと思う。
また、立候補者からは、上限枚数が少なすぎるとの声も聞いた。人口規模等を勘案して見直す必要があるかもしれない。そして何よりも、今回の改正で町村議選での解禁が見送られたことである。地域のしがらみが強い町村議選こそ、政策中心の選挙に変わらなければならない。
このコラムでも何度も書いてきたが、議会改革は今、第2ステージに入っている(第54回「対話による議会改革第2ステージ」)。新しいステージでは、地域課題を解決する議会、住民福祉の向上に寄与する議会になるために、「政策サイクル」(第76回「議員間討議で政策サイクルを回す」)を回すことが求められてくる。その政策サイクルの起点の一つが、議員が選挙の際に掲げるマニフェストである。
当たり前だが、ビラに書かれる内容が重要になる。政策に重きを置く議員の意識の変化と、その政策力の向上が望まれる。今後、マニフェストビラの内容とその活用方法がどんどんブラッシュアップされることを期待したい。
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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