第86回 「チーム議会」で成熟した議会を目指す~議員、事務局職員、市民の総力戦で創る「議会改革第2ステージ」
政治山 / 2019年6月28日 10時0分
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第86回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
「議会改革第2ステージ」は「チーム議会」で議会改革は今、第2ステージに入っている(第54回「対話による議会改革第2ステージ」)。議会のありたい姿を体系的に定めた「議会基本条例」を制定した議会も800を超え、議会改革の「形式要件」は整ってきた。
新しいステージでは、地域課題を解決する議会、住民福祉の向上に寄与する議会となり、「実質要件」を満たすことが求められる。それを実現するには、議員だけでは難しい。議会事務局職員や市民を巻き込んだ、「チーム議会」としての取り組みが欠かせない(第82回「「チーム議会」で「議会改革第2ステージ」の実現を」)。
早稲田大学マニフェスト研究所顧問で早稲田大学名誉教授の北川正恭先生も、議員向けの講演の場面で、「チーム議会」のキーワードを使い、これからは、議員単体の議会活動ではなく議員総体の議会活動が重要になる。そのためには、議員、事務局職員、市民が一体となった総力戦だと訴える。
市民の中には、議会モニター(第81回「議会モニターとともに歩む議会改革」)。や、議会報告会や意見交換会等に参加してくれる市民、外部の有識者等も含まれる。岩手県滝沢市議会では、市民の議会への関心を高めるための「議会フォーラム」を2019年5月に100人規模で開催し、市民をチームに巻き込もうとしている。
今回のコラムでは、議会改革第2ステージで目指さなければならない、「チーム議会」の成立要件と、その成熟度を高める要素が何かを考えてみたい。
「チーム議会」が成立する要件動物の個体の集まりである「群れ」や人間がただ集まっただけの「集団」と、人間が作りなす「組織」は何が違うのか。アメリカの経営学者チェスター・バーナードは、「組織の成立要件」として、次の3つを上げている。1つが「共通目標」の共有。2つ目がその目標達成へのメンバーの「貢献意欲」。最後にメンバー間の「コミュニケーション」の3つである。
「チーム議会」も「組織」であるので、「チーム議会の成立要件」は、次のように言い変えられる。「チーム議会」の共通目標は、「議会基本条例」で定められたありたい議会の実現と、「総合計画」で定められた自治体の目指すべきビジョンの達成である。その目標の実現のため、構成メンバーである議員、事務局職員、市民がそれぞれ貢献意欲を持ちながら、協働していく。メンバーのパートナーシップで衆知を集めることである。
そのためには、構成メンバー間でのコミュニケーション、意思疎通、「対話」が欠かせない。「対話」は、各々の違いに耳を傾け、意見の多様性を知り、新しい知見を得る話し合いの手法だ。議員、事務局職員、市民との間に壁を作るのではなく、その壁を乗り越え、お互いが信頼し合い、共感的な聴き方と内省的な話し方を行うことが、ここでのコミュニケーションの本質だ。
「チーム議会」を成熟させるための要素では、「チーム議会」を成熟させていく、つまり、「議会基本条例」で定められたありたい議会に近づけていくための鍵となる要素は何なのか。筆者は、「チーム議会の成熟要素」を次の6つであると考える。それは、(1)リーダーシップ、(2)戦略プラン、(3)政策サイクル、(4)対話(ダイアローグ)、(5)組織能力、(6)リクルーティングの6つ。
「リーダーシップ」とは、具体的に言うと、議長、委員会の委員長、議会事務局長のリーダーシップである。議長は議会、委員長は委員会、事務局長は事務局のビジョンを明確に示し、その実現のため、メンバーとコミュニケーションを図る。ビジョンを明確にするツールとして、「議長マニフェスト」「委員長マニフェスト」「事務局長マニフェスト」等が考えられる。
「戦略プラン」とは、議会運営の目標とその実現のための行程表をまとめたものだ。滋賀県の大津市議会の「ミッションロードマップ」等がその例だ。「戦略プラン」にはPDCAサイクルが不可欠。それが議会評価の仕組みである。基本条例の条文毎に議会運営を評価する議会が増えてきているが、地域課題を解決する議会を目指すには、今後、政策のアウトプットやアウトカムの評価も検討しなければならない。
「政策サイクル」は、議会の価値創造のプロセスである(第76回「議員間討議で政策サイクルを回す 1」)。市民との意見交換会、決算審査や政策評価を起点に、委員会単位で課題設定を行い、関係者との意見交換、先進事例の視察を踏まえて、議員間討議で政策提言にまとめていくのが「政策サイクル」だ。生活者起点で地域の課題を解決するイノベーションのプロセスだ。
市民との「対話」、議員間での「対話」は、「政策サイクル」を回すのに必須だ。特に、議員間討議を機能させるには、他者の意見を良く聴く、肯定的に聴く、自分の意見を正しく受け止めてもらえるように簡潔に分かりやすく話す、意見の理由と根拠を言う、人の意見を聞いて自分の意見が変わってもいい等といった、「対話」の素養を身に付けることが大前提になる(第77回「議員間討議で政策サイクルを回す 2」)。
「組織能力」とは、個人と組織の意識と能力を高め続ける営みである。住民福祉の向上に向けて効果的に行動するために、議会、議会事務局としての意識と能力を継続的に高め、伸延ばし続ける議会、「学習する議会」にならなければならない(第79回「議会改革第2ステージ 「学習する議会」を目指して」)。筆者がアドバイザーを務める「いわて議会事務局研究会」(週刊地方議会第21回「動き出した議会事務局」)は、事務局職員のネットワークとして、サポート力向上の役割を担っている。
最後に「リクルーティング」である。小規模町村を中心に、なり手不足の問題が深刻だ。「チーム議会」にとって、多様な議員の確保と、新たな議員への道の構築は重要テーマだ。
議会モニター制度は、議会運営と行政をより深く理解し関わってもらいたいとしてできた制度であるが、議員の「リクルーティング」としても大きな可能性がある。長野県飯綱町議会では、「議会政策サポーター(政策提言まで期待された議会モニター)」の町民から議員が誕生している。
議員、事務局職員、市民の総力戦で創る「議会改革第2ステージ」「議会改革第2ステ-ジ」は、「形式要件」から「実質要件」を満たした改革を進め、議員活動から議会活動へ、地域の住民福祉に寄与する議会が求められる。その実現には「チーム議会」、議員、事務局職員、市民が一体となった総力戦が必要だ。また、「チーム議会」として卓越した議会を実現するには、「リーダーシップ」「戦略プラン」「政策サイクル」「対話(ダイアローグ)」「組織能力」「リクルーティング」、それぞれの要素の質の向上が欠かせない。
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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