第88回 「チーム議会」の視点から考える市民と議会の関係~「全国議会サミット2019」開催
政治山 / 2019年8月29日 10時0分
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第88回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
「全国議会サミット2019」開催2019年8月1日・2日、東京ビックサイトで、ローカル・マニフェスト推進連盟、マニフェスト大賞実行委員会の主催で、「全国地方議会サミット2019」が開催された。会場には、全国から、地方議会議員、議会事務局職員など600人が集まった。
今年のサミットのテーマは「チーム議会」。北川正恭早稲田大学名誉教授による「なぜ今チーム議会が必要なのか」の基調講演に始まり、議会事務局職員、議長、首長、市民、国会議員がそれぞれの立場から、「チーム議会」について語り合った。「チーム議会」とは、議員単体の活動から議員総体の議会活動への意識転換を意味し、議員だけではなく、事務局職員、市民が一体となった総力戦で、「議会基本条例」に掲げたありたい議会の実現と、「総合計画」で定めた地域のビジョンの達成を目指す継続的な営みである(第86回「チーム議会で成熟した議会を目指す」)。
今回のサミットで、筆者は市民セッションのパネルデイスカッションのコーデイネーターを務めた。市民も「チーム議会」の重要な構成メンバーだ。パネリストに登壇いただいたのは、瀧野良枝さん(長野県飯綱町議会議員、元飯綱町議会政策サポーター)、竹下修平さん(愛知県新城市議会議員、元新城市若者議会議長)、田口裕斗さん(立命館大学3年、可児市議会高校生議会 元生徒会長)、原口佐知子さん(静岡県牧之原市 市民ファシリテーター)の4人。今回は、その方々の話を中心に、「チーム議会」の視点から、市民と議会の関係を考えたい。
議会と市民との関係の質が議員のなり手を増やす長野県飯綱町議会では2010年、町民と議会で政策作りに取り組む「政策サポーター制度」を導入した。議会活動への町民参加と、町民の知恵を借りながら政策作りを進める狙いからだ。近所の議員の方から声を掛けられて政策サポーターになったのが、瀧野良枝さんだ。議員の方とのサポーター会議の場で意見を述べると、当時の寺島渉議長から良い意見だから取り上げようと言ってもらいやる気になった。町のために自分にも何かできることがあるのではとの思いと、仲間の後押しもあり町議会議員になったと言う。
愛知県新城市では2014年、穂積亮次市長の思いから持続的に若者政策を展開させるために、「若者条例」「若者議会条例」が制定された(第59回「若者が活躍できるまちを目指して」)。2015年にスタートした「若者議会」の初代議長が当時社会人だった竹下修平さんだ。「若者議会」では、アンケート調査、市議会議員や市職員との意見交換など、話し合いを積み重ね、駅前の公共施設のリノベーションなど6つの事業提案をまとめた。市長に答申された事業案は、2016年度予算に盛り込まれ総額1000万円が議会で承認された。この経験が市議会議員になるきっかけになったと話す。
小規模町村を中心に、なり手不足の問題が深刻だ。「チーム議会」にとっても、多様な議員の確保と新たな議員への道の構築は重要なテーマだ。飯綱町議会の「政策サポーター制度」のように、議会の運営に関して住民から意見をもらう「議会モニター制度」導入する議会が現れてきた(第81回「議会モニターとともに歩む議会改革」)。
また、新城市の「若者議会」のように、首長執行部や議会により、若者の意見を取り入れるための場を作る自治体も増えている(第52回「議会×高校生の対話で地方創生を」)。こうした場で、お互いが信頼し合い、共感的に聴き、内省的に話す「対話」が行われることにより、市民に気付きが生まれ、市民の力が活かされるだけではなく、議員の「リクルーティング」としても大きな可能性があると思う。
議員が市民を育て、市民が議員を育てる岐阜県可児市議会では2014年から、市内の県立可児高校の高校生と「高校生議会」「地域課題懇談会」を開催している(第37回「議会と高校生が創る地域の未来」)。議会のネットワークを活用して、高校生が地域の課題を地域の大人と一緒に考えるキャリア教育の場だ。これまで、地域医療や地域経済、18歳選挙権などをテーマに開催されてきた。可児高校の生徒会長としてこの取り組みに関わったのが田口裕斗さんだ。大学に進学した田口さんは、この経験がきっかけで地域のキャリア教育に関わるNPO縁塾(第56回「NPOが担う高校と地域との連携・協働」)のメンバーとして、後輩の高校生や地域の方々との関わりを継続している。高校生時代に当時の川上文浩議長が語った、「議会の役割は良い市民を育てること」という言葉が印象に残っていると言う。
静岡県牧之原市では西原茂樹前市長の時代から、「対話による協働のまちづくり」に積極的に取り組んできた(第38回「対話が創る地方創生」)。「対話」と「ファシリテーション」と「話しやすい空間づくり」を基本理念に、2008年から「男女協働サロン」という話し合いの場が、市内各地、様々なテーマで開催されてきた。この「男女協働サロン」の取り組みに「市民ファシリテーター」(第43回「市民をまちづくりの主役に」)として立ち上げ時から関わっているのが原口佐知子さんだ。当初は、「市民の意見を聞くのは議員の仕事」と主張する議会との関係は最悪だったと振り返る。活動も10年を超えて、議員の方々の理解も広がり、連携する機会も増えたと語る。田口さんの話を受けて、「市民にも良い議員を育てる役割がある」と話す。
可児市議会や牧之原市の話しからも、「チーム議会」では、議員が市民を育て、市民が議員を育てる。そんな良好な関係を目指したい。
「チーム議会」は地域の総力戦サミットの国会議員セッションに登壇した初代地方創生担当大臣である石破茂衆議院議員は、地方創生に取り組む上で、「産官学金労言」の連携が必要だと主張した。産業界、官公庁、大学などの学校、金融機関、労働団体、マスコミの6者である。地方創生における地方議会の役割は大きい。
今、地方議会が直面している「議会改革第2ステ-ジ」では、「形式要件」から「実質要件」を満たした改革を進め、議員活動から議会活動へ、地域の住民福祉に寄与する議会になることが求められている。そのためには、「チーム議会」、議員、事務局職員、市民や各種団体が一体となった総力戦が必要だ。
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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