親の終の棲家をどう選ぶ?| 「最期まで二人一緒に」同じ老人ホームに入居した両親【その1】

サライ.jp / 2019年4月12日 11時0分

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取材・文/坂口鈴香

親の終の棲家をどう選ぶ?| 「最期まで二人一緒に」 同じ老人ホームに入居した両親【前編】

(「親の終の棲家をどう選ぶ? 壊れていく母 追い詰められる父【その1】【その2】」から続きます)

大島京子さん(仮名・50)の父・敏夫さん(83)は母・総子さん(81)の介護で心身ともに追い込まれ、ついに倒れて入院、要介護5となった。病院からは介護の必要な総子さんのいる自宅に帰すことを禁じられ、有料老人ホームに入居することになった。

総子さんは水頭症の疑いがあると診断されながら、専門病院の受診を拒んでいた。半日のデイサービスに行く以外は、介護サービスを拒否していたうえに、入浴拒否、尿失禁による大量の汚れ物、暴言など激しい感情の起伏で、仕事をしながら実家に通って介護していた大島さんと兄(53)は疲れ切っていた。

そんな毎日が数か月続いていたある日、デイサービスで体調が悪くなった総子さんを、ホームから敏夫さんと職員が迎えに行き、体験入居という形で総子さんを宿泊させた。職員によるプロの声かけで、総子さんが素直に入浴したことに大島さん兄妹は驚愕した。そのまま「本入居」となり、事情を理解できないながらも総子さんは敏夫さんと同じ老人ホームでの生活を送ることになった。
父がいるからここにいる
大島さんと兄の通い介護はようやく終わった。

「身体は疲れていてもなんとか乗り切れるものですが、精神的には極限状態でした。ランチ時や仕事の合間など、同僚はテレビドラマやバラエティの他愛もない話で盛り上がっていましたが、私はテレビを見る時間も余裕もありません。見るものは母の汚れ物くらい。気持ちも沈んでいて、話の輪に入ることができませんでした。慰めてくれるのは、ペットのセキセイインコ。かわいい仕草には癒されました。買い物で憂さ晴らしをすることもありました。きれいなアンティークのジュエリーとか……すっかり散財してしまいました」

気になるのが、いわば“だます”形で、ホームに入居することになった総子さんだ。そのことに気づいてまた感情を爆発させるようなことはなかったのだろうか。

「母はいまだに事情を理解していないようで、『何でかわからないけれど、ここにいる』と言っています。おそらく、母としては『父がいるから、自分もいる』という感じではないかと思います。時には『ここは何もしなくても食事が出てくるからいいわ』と言うこともあるので、今の環境を気に入ってはいるようです」

【次ページに続きます】

水頭症の手術を受ける
感情の起伏もずいぶん落ち着いていった。ホームの訪問診療医から認知症の進行を遅くする薬が処方され、職員の勧めでおとなしく薬を飲むようになったという。それまで薬はすべて拒否していたから大きな変化だ。

「ホームの看護師さんから、『ご家族が絶対に薬を飲まないとおっしゃっていましたが、飲んでくださいねとお渡ししたら、飲んでくださいました』と聞いたときには、入浴したときと同様それは驚きました。父も私たちも信頼している看護師さんなので、その気持ちが伝わるんだろうねと話しています」

それから、「正常圧水頭症」の手術も受けた。「親の終の棲家をどう選ぶ? 壊れていく母、追い詰められる父【その1】」でも解説したが、脳と頭蓋骨の間や脳の中には髄液が循環している。ところが加齢や頭への軽度の衝撃などの要因で、脳内に髄液が溜まってしまい、脳の働きが悪くなることがある。これが「水頭症」だ。認知障害、歩行障害、尿失禁という症状が特徴で、手術をすれば症状が治る場合もある。総子さんは以前「正常圧水頭症」の疑いがあると言われ、専門外来のある病院を紹介されていたが、受診を拒否していたのだ。

「あらためて紹介された専門外来を受診し、タップテストを受けました。タップテストとは、少量の髄液を抜いて歩行改善がみられるかどうかを確認するテストで、これで改善が見られれば正常圧水頭症だということになります。ホーム入居前後、母は急速に歩けなくなってきており、粗相も頻繁になっていたので、自分でもおかしいと感じていたのでしょう。嫌だ嫌だと言いつつも治療に前向きだったので、これも私たちには驚きでした」

タップテストの結果、総子さんはアルツハイマー型認知症と正常圧水頭症があると診断され、水頭症の手術を受けた。

「手術で、頭蓋骨内に髄液が溜まるのを防ぐために腹腔内に髄液を逃がすバイパスを通しているのですが、そのバイパス内にある弁の圧力を、通院のたびに少しずつ下げています。そうすると脳内に髄液が溜まるせいか、1か月ほどは気分のムラがあったり、粗相が頻繁になったりという傾向はありますが、おおむね落ち着いています。一番改善したのは歩行。今は父親よりもしっかりとした足取りで歩いています」と大島さんは笑う。

これで「めでたしめでたし」となるのか?

【その2に続きます】

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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