人口減で先細りする東北市場でAGFの支社が「ブレンディ」ポーションで挑む前例のない取り組みとは?
食品新聞 / 2024年8月24日 23時1分
人口減少率が全国平均を大幅に上回り需要の先細りが予想される東北市場で、味の素AGF社の東北支社が前例のない取り組みに挑戦している。
東北支社が、東北のエリアに根差した商品を発案。このアイデアをもとに本社と連携して「ブレンディ」ポーションアップルミルクティーベース(以下、アップルミルクティーベース)を開発した。
販促計画も支社内で立ち上げたタスクチームで入念に練り上げた。
東北産りんご果汁を使用した地産地消型商品として、様々な販促施策と合わせて小売店に提案したところ、多くの企業から共感が得られ想定以上の採用に漕ぎつけた。
これまで採用が難しかった既存の「ブレンディ」ポーションも改めて新規採用されるといった波及効果も生まれた。
アップルミルクティーベースは、東北エリアを中心に3月から9月までの期間限定で販売開始されている。東北支社発案の最初の商品であり、次の展開につなげるべく最需要期の夏場に店頭活動に力を入れている。
東北支社が今回、前例のない取り組みに挑んだ背景には、加速する人口減少への危機感があった。
左から東北支社タスクチームメンバーの中村謙太氏、杉谷勝裕氏、小川容平氏取材に応じたタスクチームのリーダーで、東北支社営業企画グループの小川容平氏は「東北は人口減少が著しいエリア。今までと同じことをやっていては売上げの確保が難しくなり我々の存在意義がなくなってしまう。失敗を覚悟でとにかく何でも新しいことにチャレンジしようと思い立った」と語る。
AGFではかねてよりエリア商品を展開。
「ちょっと贅沢な珈琲店」ブランドのレギュラーコーヒーとスティックブラックで各地域の嗜好に合わせたエリア商品を発売し、東北では「東北コクゆたかブレンド」が好評を博している。
これに対し、アップルミルクティーベースは「東北コクゆたかブレンド」などとは異なり、東北支社が管轄エリアの生活者の実態を深堀りして発案し開発されたものとなる。
東北支社南東北営業グループの杉谷勝裕氏は「小売店の売上拡大に貢献するだけに留まらず、生活者の方に対しても、もっと深くアプローチするために何ができるのかを議論した」と語る。
牛乳パックの側面への広告展開東北エリアの生活者について知るため、外部データを引きながら東北エリアの特性を抽出。その結果、東北エリアは農業や畜産業といった一次産業が盛んである反面、牛乳の消費量が少ないことが判明した。
総務省統計局が発表した2022年の家計調査によると、中でも秋田県は牛乳の消費量が際立って少ないことが浮き彫りとなった。
このような分析を踏まえ、新商品は東北全県で栽培しており、代表的な特産品である「リンゴ」の東北産果汁を使用することで一次産業を応援し、牛乳で割って飲む商品という地産地消と牛乳の消費応援の方向が定まった。これまでのコーヒーカテゴリではなく、新カテゴリでの展開を本社に要望した。
――原料に東北エリアで生産されている果汁を使用
――牛乳の消費を促進するため牛乳割りで飲む商品にする
このようなアップルミルクティーベースの原案をもとに、本社の開発部門と打ち合わせを重ねる。東北支社内では社員が一丸となり試作品の試飲も“全員野球”で取り組んだ。
牛乳売場横で「ブレンディ」ポーションの試飲販売を実施販促施策は、東北支社が考案。
昨年10月に、販促のためのタスクチームを結成。
プロモーション活動に関するアイデアを出し合い、地方TV番組への出演や牛乳パックの側面への広告展開、インバウンド向けに日本語・英語でのオリジナルPOPの作成、フリーペーパーへの掲載、大学生への試飲・サンプリングなどを立案し実行に移した。
商談では、原材料と牛乳消費促進という2つの点でエリアに寄り添った商品であることをアピールして高評価を得る。
杉谷氏は「東北産・東北エリア中心に販売という言葉がバイヤーの琴線に触れたようだ。中でも地産地消というこだわりが一番響き、一次産業の応援や牛乳消費量の課題解決といったコンセプトに共感していただけた」と振り返る。
企画の発案から販促まで、支社が一体となって熱意をもって行ったことで、副次的効果として「ブレンディ」ポーションシリーズ定番品の新規採用にもつながる。
杉谷氏は「実は、これまで東北エリアでは、ポーションは配荷率に課題があったが、今回の提案で小規模なお店でもお取り扱いしていただき、競合品よりも優先していただけたところもあった」との手応えを得る。
東北支社タスクチームメンバーの野呂貞倫氏東北支社北東北営業所の野呂貞倫氏は「北東北はこれまで、毎年お盆が明けると冷え込むためポーションの取り扱いが難しい小売店も多かったが、今回はコンセプトに共感していただき、初めてポーションのお取り扱いが決まった事例も生まれた」と述べる。
小売店の売上拡大にも貢献している。
杉谷氏は「ポーションは比較的単価が高いため、販売点数が少ない場合も売り上げを維持しやすい。単価アップにつながるものとしても提案している」という。
生産効率との兼ね合いから、支社発案のエリア限定商品はAGF全体としてもチャレンジであった。
第2弾以降の展開は、アップルミルクティーベースの実績次第となる。
成功裏に終わった場合、タスクチームは今後、現在発売中のポーションの更なる改良と、新たな商品開発を行う2つのグループに分かれて活動する。
改良では、浮上した課題の解決に着手する。発売後、プロモーションの一環で大学生への試飲・サンプリングを実施した際のアンケートの中で頂いた意見や、今後の売れ行きを踏まえ、来年春の再販売を目指し商品に磨きをかける。
今後の商品開発については、共創による次世代のユーザーの取り込みも視野に入れる。
その一環で、今回、アップルミルクティーベースの試飲会を通じて接点を持つことができた東北エリアの大学をはじめとする教育機関との関係を構築していく。
小川氏は「一次産業の応援と、将来的な共同開発の観点から、農学系の教育機関・学生とのつながりを持ちたい」との考えを明らかにする。
杉谷氏も「社会貢献活動は、特に大学生が興味を持たれることであり今後の商品の共創にあたり大学へのアプローチは有効」とみている。
試飲会を実施した大学では、味の評価や購買意欲についてのアンケートを実施し忌憚のない意見が寄せられたという。
野呂氏は「多様な意見を知る場であるとともに、若い世代へのアプローチ、ファン作りの側面もある。今後、共創商品が市場に出回れば、学生層に留まらずそのご家族や知人からも支持されうる」と期待を寄せる。
一方、学生にとっても学びの場になったという。
「教授からは“民間企業で働いている社会人との交流は学生にとって貴重な経験となる”とのコメントが寄せられ、当社に対しても興味関心を示していただいた。このことによって社員のモチベーションも向上している」と述べる。
小川氏は「これからも定期的なお付き合いをさせていただくことになり、ゆくゆくは大学生が考案した商品の共同開発や学食のメニューに共同開発の飲み物を置いていただきたい」との青写真を描く。
東北支社の挑戦は続く。小川氏は「今は大学や自治体など、いろいろなところを回っている。可能な限り、新しい需要をみんなで掘り起こしていく」と意欲をのぞかせる。
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