ヤクルト本社 新ブランド「豆乳の力」 植物素材利用食品を新たな柱に 植物性ヨーグルト市場で新機軸創出
食品新聞 / 2024年10月25日 14時18分
ヤクルト本社が生産子会社としてヤクルトプランツファクトリーを設立し、10月7日から新ブランド「豆乳の力」の販売を開始した。これは豆乳を乳酸菌とビフィズス菌で発酵させて作ったはっ酵豆乳食品で、植物素材利用食品を今後の新たな事業の柱に位置づけている。大豆やオーツなどの穀物やナッツ類など植物素材を活用した食品の拡大が続く中で、ヤクルト本社の対応が注目されている。そこで開発部開発二課の金山侑華係長、開発研究部商品研究三課の前田穣主任研究員、開発部研究開発管理課の境裕子係長にインタビューした。(聞き手=金井順一)
――「豆乳の力」を発売するまでの経緯を教えてください。
金山侑華係長金山 当社は長期ビジョン「Yakult Group Global Vision2030」および「中期経営計画(2021~2024)」において、今後の新たな事業の柱として植物素材利用食品市場への参入を発表しました。その実現のため、レモンなど植物素材のリソースを持っていたポッカサッポロフード&ビバレッジ(以下「ポッカサッポロ社」)と、2021年11月に業務提携契約を締結し、当社独自の乳酸菌・発酵技術を組み合わせた植物素材利用食品の検討を進めてきました。
その一環として、お客様への新たな価値提案とさらなる市場拡大のために、ポッカサッポロ社が有する植物性ヨーグルト事業を取得し、当社が事業主体となることを2023年9月に合意しました。この間、ポッカサッポロ社とは共同開発の「ソフールレモン」を発売した経緯があります。加えて2024年3月に植物性ヨーグルトを製造するポッカサッポロ群馬第二工場の生産設備についても当社が取得することを発表しました。
こうした経緯を経て、ポッカサッポロ社から取得した植物性ヨーグルト事業と生産設備を活用し、新たな生産子会社(ヤクルトプランツファクトリー)を設立したうえで、新ブランド「豆乳の力」を発売することになりました。
――既存の豆乳市場をどうみていますか。
金山 世界の人口増加に伴うプロテインクライシスの発生や、畜産業による環境負荷など、社会課題や環境問題が取り沙汰される中で、コロナ禍をきっかけに生活者の健康意識が高まり、新たな柱として植物素材利用食品を立ち上げることに意義があると考えています。「豆乳の力」が位置する植物性ヨーグルト市場は、豆乳を使用した商品が市場の大半を占めています。今後も「豆乳の力」の販売促進により豆乳の栄養価を訴求し、植物性ヨーグルト市場のさらなる拡大を図っていきます。
――今なぜ植物素材利用食品なのですか。
金山 世界では、地球環境への対応、人々の健康ニーズの拡大から、大豆やオーツなどの穀物やナッツ類など植物素材を活用した食品の市場拡大が進んでいます。当社は「人も地球も健康に」をコーポレートスローガンとして掲げており、植物素材利用食品市場に参入し「豆乳の力」を発売することで、より一層コーポレートスローガンの実現を推進します。
前田穣主任――最も重視したことは何ですか。
前田 「おいしさ」です。そのため、おいしい豆乳ヨーグルトをつくるために開発された「おいしさ丁寧搾り製法」で搾った豆乳を使用しました。この製法は大豆臭さや渋味を抜き、クセが少なく食べやすい風味の商品をつくるための製法です。
また、食感がなめらかで口当たりが良いことも特徴の一つです。乳酸菌やビフィズス菌の種類やつくり方によって変わるので、なめらかでおいしい食感になるよう工夫しています。
――開発段階で苦労した点を教えてください。
金山 開発部としては、パッケージデザインにおいて「はっ酵豆乳食品であること」の分かりやすさを重視しましたが、この点がとても苦労しました。デザインのテーマカラーでも試行錯誤を重ねました。110g個食タイプのデザインは、光沢感のある色調を基調とした店頭で目を惹く色合いにし、赤色の帯に特定保健用食品のマークおよびヘルスクレームを表示し、可読性を向上させました。400g大容量は、フタを110gプレーンと同様のゴールドに統一しつつ、カップは豆乳をイメージしたナチュラルで健康感のある色合いにしました。
前田 開発研究部としては、設計開発はトーラク社やポッカサッポロ社が構築されたもので、当社にとって豆乳の製造から発酵、製品化までを一貫製造できる工場は初めてですし、豆乳の製法も特殊なので数多くの新たな知識や技術が必要となり、技術継承には苦労しています。
例えば、原料大豆はその年によって品質が異なりますので、良い品質の製品をお客様に提供するため、工場で使用する前に研究室で製品をつくって品質を評価しますが、当社には研究室で豆乳をつくるための機械がなかったので、その機械を購入して使い方を習得するところからのスタートでした。そのためにポッカサッポロ社の研究所にうかがって機械を使わせていただき、技術を教わりました。
また、工場の設備についても、当社の乳製品工場と異なる部分があり注意しなければならないポイントが違いますので、何度も足を運び、勉強させていただきました。
境 開発部においては、ポッカサッポロ社から譲渡を受けた資料に基づき、現制度に合わせた申請資料を作成し、特定保健用食品の申請を行いました。限られた期間での手続きでしたが、無事に特定保健用食品の許可を取得することができました。
境裕子係長――ポッカサッポロ社から取得した群馬第二工場の生産設備について聞かせてください。
前田 群馬第二工場(敷地面積9434.16㎡、延床面積6160.59㎡)は、ポッカサッポロ社の群馬工場内に2019年に新設され、豆乳の搾汁工程から充填まで一貫して製造できる画期的な工場です。生産能力は「プレーン無糖」は日産2万個、「プレーン」「ブルーベリー」は合わせて日産計10万個です。
――「豆乳の力 プレーン」「豆乳の力 ブルーベリー」は特定保健用食品(トクホ)ですが、トクホの利点は何ですか。
境 トクホにより機能性を謳えることは、はっ酵豆乳食品を手に取るきっかけの一つになると考えています。本品は、血清コレステロールを低下させるはたらきがある大豆たんぱく質(3.7g/個)を含んだトクホであり、キャッチコピーでコレステロールの低下を表記できることは他社との差別化になり、強みになります。
――新たな事業の柱に位置づけている「植物素材利用食品」とは。
金山 植物素材利用食品は、動物素材の代替として植物素材を原料としたものをさします。昔から親しまれている豆乳をはじめ、アーモンドミルクやオーツミルクなどラインアップは増えており、大豆ミートも植物素材利用食品と捉えています。当社はSDGsやCSVなど環境配慮をテーマとしており、世界が飢餓にならないような重要なテーマも含め、植物素材利用食品を育成することはたいへん意義深いと思います。
――テレビCMに内田有紀さんを起用しましたね。
金山 「豆乳の力」のイメージキャラクターとして、笑顔が素敵な内田有紀さんを起用しています。CMは目を惹く色合いと華やかな演出となっていますので、一人でも多くの方に「豆乳の力」を知ってもらえるきっかけとなればと思っています。
――次のステップは。
金山 ヤクルトが持っている幅広い販売ルートを活用し、より多くの方に商品を提供できると思います。ヤクルトレディでの取り扱いはありませんが、スーパーやコンビニのほか高齢者施設や病院、学校などを含めた給食チャネルにも届けられると思います。
境 乳アレルギーの方へもおいしいデザートとして、「豆乳の力」をお届けできることはうれしい限りです。
――最後にそれぞれの立場で意気込みを聞かせてください。
前田 新規事業へのチャレンジには数多くの学びがあり、ポッカサッポロ社の技術者とディスカッションすることも新鮮で、苦労しつつも楽しみながら取り組ませていただきました。今後も多くのことを吸収して植物素材利用食品事業の拡大・拡張に貢献したいと思います。
境 トクホの申請資料は商品ごとに異なるため、他社商品を既存品としてトクホ申請するにあたり、ポッカサッポロ社の担当者と密に連携させていただきました。今回、他社の方々との交流で刺激を受けて学んだ経験を今後の業務にも生かしていきたいと思います。
金山 「豆乳の力」は「プレーン」「ブルーベリー」、400g大容量「プレーン無糖」の3ラインアップありますので、お客様の生活スタイルに合わせて、お召しあがりいただけたらと思います。豆乳が好きな方はもちろん、クセがなく食べやすいので一人でも多くの人に手にとってほしいと思います。
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