物流クライシス打破へ キリンとアサヒが同一の新サービス導入 需要予測に基づき過剰在庫や欠品を防止 企業間連携効果も視野
食品新聞 / 2024年11月10日 17時58分
キリンビバレッジとアサヒ飲料は足並みをそろえ、11月1日、需要予測に基づき過剰在庫や欠品を防止して在庫量や輸配送量を最適化する新サービスを導入した。
新サービス名は「MOVO(ムーボ) PSI(ピーエスアイ)」。
企業間物流向けのサービスとなる。小売・卸・メーカーからPSI(生産・販売・在庫)の情報を取得し、それらの情報とAIの予測モデルを用いて未来の発送量である需要を予測する。
Hacobu社が新サービスの基盤の企画と販売を担い、AIやデータサイエンスを活用した共通データ基盤の開発と提供をJDSC社が担当する。
新サービスは、2023年6月に発表された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」に即したものとなる。
ガイドラインでは、着荷主に対して発注の適正化、発荷主に対しては発送量の適正化を推奨している。
10月29日、記者発表会に臨んだHacobu社の佐藤健次執行役員CSOは「今まで発送(実物流)に着目していたが、物流クライシスの状況を打破するために発注プロセスにおいても改革を進めていくことが必要」と力を込める。
新サービスで解消すべき物流課題に、ブルウィップ効果(需要増幅効果)と発注量の偏りの2つを挙げる。
ブルウィップ効果とは、小売業(川下)から卸売業(川中)へ、卸売業からメーカー(川上)へと、川上に向かうほど本来の需要変動よりも増大した数量が伝播するメカニズムで「運ぶ商品の量を最適化する際の大きな障害になっている」。
一方、発送量の偏りは、スーパーで週末に販売量が増加するなどの単純な消費行動に合わせて発注すると金曜日に発注量が集中し必要なトラックの台数が平日と比べ極端に多くなるといった偏りを意味する。
新サービスでは、このような過剰発注による過剰在庫や不必要な輸送、特定の日に偏る輸送の解消を図る。
AIを活用した発送量の需要予測により在庫の減り方から必要な発注時期を計算。もう1つのAIが数量や輸送頻度を平準化して発注量を算出する。
「MOVO PSI」の計算モデルキリンビバレッジは、新サービス導入に先駆け、2021年からHacobu社と「輸送量平準化 共同プロジェクト」を実施。
キリンビバレッジの掛林正人執行役員SCM部長は「共同でのシステム開発は初の試みだった。弊社社長や経営陣が物流問題を経営課題として捉えていたことで、大きく進めることができた」と振り返る。
23年10-11月には実証実験を行い、輸送コストで約9.1%、在庫日数で約13.2%の削減効果が確認された。
アサヒ飲料は23年から同プロジェクトに参画。24年3-4月に実証実験を実施し、輸送コストで約9.1%、在庫日数で約13.2%削減効果がみられた。
アサヒ飲料の和田博文執行役員SCM部長は「飲料業界は、製造工場や配送センターが全国にあり複雑な管理・オペレーションとなっている。工場から配送センターへの社内間移動での運送の効率化だけでなく、将来的には、自販機関連の営業支店への配送にも活用できないかと考えている」と期待を寄せる。
喫緊の課題である、効率的な配車も可能になると見込む。
和田部長は「大型連休と繁忙期には、特に車両の確保に非常に苦慮している。『MOVO PSI』によって2週間分の転送計画が可視化されることで、繁忙期前に分散した納品が可能になる」と語る。
今後は、メーカーや小売りといった業界を超えた企業間での連携により、ビッグデータの蓄積によるデータの精度向上を視野に入れる。
キリンビバレッジの掛林部長は「まずはメーカーの立場で個社の取り組みを成功させ、その先に卸さま、小売り企業さまへの展開を広げていくことで、社会最適の実現につなげていきたい。利用者が増えれば増えるほど効果が大きくなる」と述べる。
Hacobu社の佐藤CSOは「飲料メーカーの2社様だけでなく、今後は卸、小売り、他のメーカー様とのお取り組みも考えている。企業内での最適化の後は企業間連携、最終的には社会において最適なツールとして物流課題を解決したい」との青写真を描く。
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