「どんなときでも飲料水をすぐに届けるのが絶対的な使命」 目指すは北東北3県で最も愛される飲料会社 みちのくコカ・コーラ
食品新聞 / 2024年11月30日 12時0分
サプライチェーンの整備と旧本社の売却を完遂
みちのくコカ・コーラボトリング(本社:岩手県盛岡市)は、商圏とする岩手県・秋田県・青森県の北東北エリアで他の飲料会社を凌駕する多くの拠点を構え、地元に密着してニーズに即応できる体制を整えている。
拠点数は本社・工場含め26拠点。この強みに磨きをかけるべく、2014年から現職の谷村広和社長は、社長就任後、サプライチェーンの整備と旧本社不動産の売却の2つに注力し収益力を強化。現在、北東北3県で最も愛される飲料会社を目指して様々な挑戦を続けている。
岩手県紫波郡矢巾町にあった旧本社の売却の主目的は、財務を軽くするアセットライト経営にあった。売却で得られた資金は、サプライチェーンの整備に充てられた。
「社長就任後、花巻工場を中心とした製造設備の増強や倉庫の内製化などサプライチェーン周りの整備と旧本社の売却をミッションに掲げて活動してきた。旧本社は2021年にようやく売却でき時間がかかったが、この2つをやり遂げることができた」と谷村社長は胸を張る。
サプライチェーン構築の一丁目一番地は、アセプティック(無菌充填)ラインの導入にあった。
「社長就任時、花巻工場にはアセプティックラインが導入されておらず、アセプティック製造の重要製品と位置付ける『い・ろ・は・す 天然水』やペットボトル(PET)の『綾鷹』などは他ボトラーから購入していた」という。
銀行融資で設備投資を行い、2016年に花巻工場でアセプティックラインが稼働。同時に「い・ろ・は・す 天然水」の採水地として岩手県花巻市太田が新たに追加され「い・ろ・は・す 奥羽山脈の天然水」が北東北エリアで発売開始された。
アセプティック製造商品の内製化により自社製造比率は従前の約60%から75%に引き上げられ収益が大きく改善。
「HI-C(ハイシー)」のボトル缶倉庫の内製化も収益改善に寄与した。
「他ボトラーからの製品購入に伴い近隣に外部倉庫を借りていたが、製造の内製化により倉庫も内製化しようと 花巻工場の敷地内に巨大倉庫を建設した」と述べる。
さらに本社売却で得られた資金を元手に、老朽化した花巻工場の缶容器のラインを刷新。ボトル缶ラインとともに炭酸の充填ラインを新設して2023年に稼動した。
この設備投資は、市場でボトル缶コーヒーが全盛であったことを受けたものだが、稼働開始と軌を一にしてPETコーヒー市場が勃興。
ボトル缶コーヒー市場が縮小し稼働率が下がるボトル缶ラインを補填するものとして編み出したのが「HI-C(ハイシー)」のボトル缶。
1991年に販売されていたパッケージデザインで復刻させて、20年に「オレンジ」、21年に「アップル」を北東北限定で発売開始した。
「当社エリアの特色が出せて、ポテンシャルがあるのに最近作れていないものを探した結果、『HI-C』が浮上した。ボトル缶で復活させたところ非常に好評で、自販機に留まらず手売りでもお取り扱いいただいている」と語る。
現在、ボトル缶ラインでは北東北限定デザインの「アクエリアス スパークリング」も製造して同商品の売上げの1%を地元バスケットボールチームに寄付している。
「北東北のプロスポーツは、バスケやサッカーがメイン。バスケは特に地域の皆様とのタッチポイントが多く、チームも完全に地域密着のため、当社と同じ理念で活動されている」との考えに基づいた取り組みとなる。
圧倒的に多い事業所数が強み すぐに駆けつけられる機動力もウリ
同社の強みは、競合に比べて圧倒的に多い事業所数にある。
「競合と比べて非常に充実した体制となっていることから、何かあった際にすぐに駆けつけられる機動力も大きな強み。従業員それぞれが自分の判断で動けるような状態になっている」と胸を張る。
谷村社長が日頃語っているのは、同社は飲料会社でありつつも、地域に飲料水を提供しているという点では“地域のインフラ会社”でもあるという点。
「天災など何かあれば、経済的価値や事業価値というのは完全に無視して、飲料水をすぐに届けるのが絶対的な使命」と力を込める。
この使命を肌身で感じたのは、東日本大震災だったという。
「被災地で最初に求められるのは、生きるために必要な水(飲料水)になるが、被災1~2週間後になると、糖分や塩分が求められるようになり、さらに1か月後になるとリフレッシュニーズが出てくる。時の経過とともに中身を変えていく必要があることを、この時に学んだ」と振り返る。
混乱回避のため災害時の支援ルートの必要性も学びの1つに挙げる。
「支援要請されたものの、現場の担当者同士で“どこに運んだらよいか”や“支援商品は納品になるのか寄付になるのか”といった混乱が生じた。このような煩雑さを無くそうと各自治体様との協定締結を推進していった」という。
東日本大震災以降、みちのくコカ・コーラは自治体と災害協定締結の動きを加速。2009年に6カ所(岩手県2ヵ所・秋田県2ヵ所・青森県2ヵ所)だった締結先は、23年8月時点で104ヵ所(岩手県35ヵ所・秋田県27ヵ所・青森県42ヵ所)へと拡大して北東北3県全自治体との締結を完了した。
締結後も関係構築の維持向上に意識して取り組んでいる。
「当社の従業員はみな、本当に地域に溶け込み完全に地域の一員になっており、自発的に動いている。そうした中で行政の方とは、ご担当が変わるたび、後任にしっかり引き継いでいただけるように訪問している」と説明する。
自販機強化にも取り組む。写真は北東北限定の「ジョージア」2030年に収益の伴ったシェア30%以上志向 商品ポートフォリオ・自販機・DXを強化
北東北3県での同社販売シェアは近年、25~27%で推移。
「30%弱あった昔と比べると少し下がっているが、大きな変動はない。若干の変動は流通構造の変化によるもの。ボリュームの大きかった個人商店様が徐々に減り、スーパー様が大型化して、さらにドラッグストア様の出店が加速するなどマーケットが激変する中で、ある程度のシェアを維持できているのは従業員の頑張りによるもの」とみている。
同社の販売チャネル構成比は現在、スーパー・ドラッグストア・コンビニなどで5割、自販機で3~4割。残りの1~2割がホレカ(ホテル・レストラン・カフェ)やECなどで占められている。
今期(12月期)は、3か年の中期経営計画と2030年までの長期ビジョンの初年度にあたり、長期ビジョンでは収益を上げながらシェア30%以上の到達を目標に掲げる。
「全国の中でも人口減少が著しい東北エリアでのビジネスの持続性を考えると30~40%のシェアを目指していかなければならい」と気を引き締める。
シェア拡大に向けて、商品ポートフォリオ・自販機・DX(デジタルトランスフォーメーション)の主に3つを強化していく。
製品面については「日本コカ・コーラと連携して非常に強いポートフォリオを整備していく。飲料ビジネスは夏場偏重のビジネスモデルでその年の天候や気温に左右されやすい。安定した成長を遂げるためには夏場以外のところにもっと力を注いでベースを引き上げ、それに夏場の売上がオントップで乗っかるようにしていかなければいけない」との考えを明らかにする。
今年は全国的に記録的な猛暑に見舞われたが、北東北3県においては、暑さ指数などが昨年の猛暑には及ばず裏返しとなり、販売数量は全国平均よりも落ち幅が大きいという。
このような天候の影響を受けにくくするため、カテゴリとしてコーラ炭酸は当然のことながら、水、お茶、コーヒーに注力。
加えて「当社でいえば『CHILL OUT(チルアウト)』のようなリラクゼーションドリンクにも挑み新たな飲用機会を見つけ出していくことが非常に重要」とみている。
国内のコカ・コーラシステムの方針にのっとり、グローバルブランドの「コカ・コーラ」にも今後力を注いでいく。
「日本の飲料市場は、世界の飲料市場に比べて『コカ・コーラ』の比率が低い。世界では多量に売られており、日本もまだまだ成長の余地がある。当社の社名も『コカ・コーラ』を冠していることから、製品群や活動を見直し思いっきり伸ばしていくことが重要」と意欲をのぞかせる。
自販機も「非常に魅力がある売場であるという立ち位置に変わりはなく再度注力していく」。
具体的には、公式アプリ「Coke ON」でのデジタル施策の拡充やタイムセールを行う「ダイナミックプライシング」の導入などを視野にシステム投資を行っていく。
台数も追求する。現在、貸与分を含めて約2万5000台の自販機を展開し、約7割が「Coke ON」対応自販機となっている。今後、屋内・屋外の両方で新規設置を図っていく。
「不採算機の撤去もあるが、質の高いローケーションの獲得を毎年、重視しながら活動している。屋外では観光地に留まらず、車通りが多く、かつすぐに停車できるようなところや、周りに小売店などがない教育機関などを見極めて新規設置していく」と語る。
営業を支える自販機やバックオフィス関連ではDXを強化していく。
2026年の基幹システムの入れ替えに向けて、現在、準備を進めている。
「前回は大規模で基幹システムの入れ替えを行ったが、今回は小回りが効く基幹システムに入れ替える。仮にトラブルが発生しても、問題をすぐに特定できるように小さなグループに分けて導入を進めている。コンパクトに作り込み人にシステムが合わせるようにしていく」と説明する。
多方面で施策を繰り出し、北東北3県で最も愛される会社を目指す。
「本当にやりたいことがどんどん出てくる。当社のマーケットシェアが25%だとすると、残りの75%は他社製品が飲まれている。どのようにしたら75%が当社に振り向いてくれるのかを試行錯誤しているうちに、あっという間に10年が経ってしまった」という。
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