冷凍の生食用牡蠣 海外へ年500万個出荷 国内で本格販売へ 津田宇水産
食品新聞 / 2022年10月21日 13時42分
瀬戸内海の東端、兵庫県・室津の海で牡蠣をはじめ、しらすやサーモンなど様々な海産物を扱う津田宇水産。漁・養殖から加工、販売、さらにレストランまでを自社で運営する。
農林漁業者が生産から加工、流通販売まで一貫して取り組むことを「6次産業化」と呼び、国も啓蒙に力を入れているが、実践されている例は特に水産業において決して多くはない。「水産の分野では珍しい存在かもしれない」と津田宇水産・津田侑典(ゆうすけ)専務は話す。
同社の創業は1948年。室津の網元漁師としてスタートした。船にエンジンはなく、手で漕いでいた時代だ。侑典氏は4代目。先々代、先代のころから6次産業的な志向はあった。「世間ではよく魚離れと言われるが、消費者が離れているというより水産業が消費者に歩み寄っていなかったのではないか」との思いから、侑典氏がそれを推し進めた。
「消費者のもとに届く最終品質まで、海のプロである網元が目を光らせる」というのが同社の姿勢。そのため冷凍加工も徹底しており、「解凍した時に納得できる美味しさが保てる冷凍技術」について長年研究してきた。その結果、同社の牡蠣は世界中の高級レストランで食されるようになった。
豪の養殖法で全国のモデルに
津田宇水産が誇る殻付き牡蠣牡蠣の養殖を始めたのは90年代後半。当時、天然魚の漁獲量が減り続けていたこともあり、新たに養殖に取り組む。その中で水深や水質、寒暖差など室津の海域が牡蠣養殖に適していることが明らかになってくる。成長するスピードも早く、生産量は年々増えていった。
6年ほど前からは日本国内で一般的な「垂下式」という養殖法に加え、オーストラリアの「シングルシード養殖法」を取り入れた。「海域に優位性のあることが分かっていたので、シングルシードでも良い結果が得られると確信していた」。
垂下式が春に種苗し秋に収穫するのに対し、シングルシードは出荷時期を調整することで通年出荷が可能だ。この養殖法で国内初の量産化に成功し、今では「室津式」と呼ばれ全国のモデルケースになっている。侑典氏は「この分野では、リーディングカンパニーだと自負している」と強調する。
自社だけでなく、その方法を地域で共有したことが成功につながった。シングルシードの養殖資材を販売するSEAPAジャパンの吉本剛宏社長は「室津のほかの生産者を巻き込んで、地域のものにしたことは画期的だった」と振り返る。
全席がオーシャンビューのレストラン10年ほど前に「自分たちの育てた牡蠣を多くの人に食べてもらいたい」との思いでレストランを開業。牡蠣だけでなく播州サーモンやシラスなど、同社が誇る海産物がオーシャンビューの店内で楽しめると人気だ。
国内以上に海外での評価が高く、世界の高級レストランなどへ年間500万個以上が出荷されている。このような海外での高い認知度を生かし今後は国内の量販店やECなどへ向け、牡蠣を販売していく考えだ。
「家庭で解凍して食べられる生食用の牡蠣というのは今まであまりなかった。しかも一流のレストランやホテルで認められているのと同じ品質のものだ。漁師であり、加工者であり、販売者であるというわれわれの一番の強みを発揮しながら販路を広げていきたい」と意気込む。
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