職場の熱中症対策の新アプローチにアイススラリー 深部体温の上昇抑制に有効 導入企業が拡大
食品新聞 / 2023年7月29日 16時55分
職場の熱中症対策の新アプローチとしてアイススラリーが脚光を浴びる。
熱中症対策には、暑さへの抵抗力を高める暑熱順化や水分補給に加えて、近年注目されている予防策として深部体温の上昇を直接下げる身体冷却が挙げられる。
厚生労働省などでは、身体冷却の中でも、作業開始前や休憩時間中に深部体温を下げ活動中の体温の許容量を大きくするプレクーリングを推奨している。
アイススラリーは、液体に微細な氷の粒が混ざった状態の飲料で、流動性が高いことから、喉から腸へと貼りつきながら体内を流れ、通常の氷や飲料よりも体内の熱をしっかり吸収し、効率よく身体を冷やす内部冷却の代表的な手法となる。
プレクーリングには空調や冷水浴(アイスバス)などによる外部冷却の手法もあるが、氷嚢やアイスパックなどの皮膚温冷却は一度に冷やせる表面積が限られているため冷却効果が低いとされる。
こうしたことから、厚労省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」には今年から「アイススラリーの摂取など、必要に応じて作業開始前や休憩時間中のプレクーリングを検討すること」と記されるようになった。
ヤマト運輸は、事業所でアイススラリーを導入。写真提供:ヤマト運輸厚労省や大学、大塚製薬らの啓発活動によりアイススラリーの導入企業が拡大している。
今年4月、ヤマト運輸は最大48ケース(1728袋)のアイススラリーを一括配送できる体制を整備したことで、この流れに弾みがつくことが予想される。
ヤマト運輸では、新型コロナウイルス感染拡大を受け、その対策から社員の熱中症リスクが一層高まったことを受け、一歩進んだ熱中症対策を講じるため2020年7月から全国のヤマト運輸の事業所でアイススラリーを導入。 セールスドライバーの車載冷凍庫(約4万台)に「アイススラリー」を完備し、 基本的に自由に摂取できる環境を整えている。
昨年からは、 WBGT28℃以上で掲示板にアイススラリーの摂取を推奨する告知も行い、今年は対策を強化。各拠点に配備されている端末に熱中症啓発の動画配信を行っている。
厚労省「職場でおこる熱中症」ホームページによると、過去5年の職場における熱中症による死傷者は建設業が最も多く、全体の2割以上を占めている。
道路工事の多くの現場は、日陰もなく暑さから逃げ切ることができない。気温35℃の日中は、舗装された道路の上では路面温度が60℃近くになる。
高速道路の舗装現場では、気温40℃近い気温のなか舗装に用いるアスファルト合材は160℃の湯気をあげ作業者は高温多湿の過酷な環境で舗装作業を行うという。
大林道路によると、このような過酷な環境では、1日の施行高(受注高のうち工事が完成した部分の金額)は、冬と比較し7割程度まで落ちると指摘する。
大林道路は、夏の過酷な工事環境での熱中症を未然に防ぐべく、ファン付きの空調服の着用や送風機の設置、水分補給飲料や塩飴などを現場に常備し安全衛生協議会で熱中症教育もしてきたものの、過去には熱中症の症状を訴える作業員が年間1~2人出ていたという。
大林道路四国支店はさらに一歩進んだ工事現場の熱中症対策を講じるべくプレクーリングの導入を検討。
当初は、かき氷の導入なども行ったものの余計に喉が渇くなど現場での実践に難しさを感じていたところアイススラリーに出会い、2022年、すべての現場への導入を決定。現場に出る前の朝や朝礼後、また休憩の度にアイススラリーを摂ることを従業員に推奨している。
これにより熱中症予防のみならず作業の効率化にもつながっていることから、現在、大林組四国支店をはじめとした大林グループ全体の熱中症対策にまで広がりつつある。
グループ企業で定期的に開催する労働安全の講習会では、プレクーリングの意義や効果を共有するとともにグループ企業の現場でもプレクーリングの実践が行われている。
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