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<3月にミサイル基地開設>「政府は沖縄を再び戦場にするのか?」自衛隊配備の現場を行く〜石垣島編

集英社オンライン / 2023年2月9日 16時1分

沖縄県・石垣島では今年3月に開設予定の自衛隊ミサイル基地建設が進んでいる。本来、行われるはずの住民投票は行われず、あげく自衛隊配備のキャスティングボードを握っているのは、ある宗教団体だった…。人口5万人の狭い島の中で今、なにが起きているのか?

石垣島の自衛隊基地建設現場。弾薬庫らしきもの(台形の山自体)が目視できる

ペロシ議長の訪台で高まる米中の緊張感

いったい何から書けばいいのか、それが今の私の個人的な感想だ。そもそもこの記事を企画し始めたのは昨年9月の沖縄県知事選挙直後、岸田内閣が土地規制法の運用について閣議決定をしたことだった。

土地規制法とは軍事基地など安全保障に関する施設の周囲約1キロについて監視や捜査を強化するもので、国家の恣意的な運用が懸念されている。



9月に辺野古のゲート前で新基地反対運動の象徴的存在である山城博治氏にインタビューした際も、この法案を根拠に「辺野古ゲート前のテントが撤去される恐れ」を語っていた。

しかし、それからの数ヶ月で状況は目まぐるしく変化し、あからさまな「戦争への準備」が激流のように島々を包み込んでしまっている。有権者との合意形成も曖昧なまま、想像できなかったほどの猛スピードで外堀が埋まっていくのを見つめながら、私も取材者として混乱しているのが正直なところだ。

以下、この半年の動きを時系列で整理してみよう。

2022年7月8日 安倍晋三元首相が選挙活動中に銃撃によって死去。旧統一教会問題をマスメディアが取り上げるようになる。

7月11日 参議院選挙、改憲勢力が定数の3分の2以上を占める。

7月28日 「火遊びをするものは身を焦がす。米国に理解するよう望む」米中による電話会談で、習近平がバイデンに対しペロシ下院議長の訪台について牽制する。

同日 バイデン大統領は「米軍は、今は良いアイディアではないと考えている(the military thinks it’s not a good idea right now)」とペロシ氏訪台について記者会見で答えた。

8月2 米国下院議長、ナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問、蔡英文総統と会談。

8月4 中国軍は 軍事演習として台湾周辺に弾道ミサイルを発射。「ペロシ氏の台湾訪問に対する抗議」と中国政府は発表する。

この弾道ミサイルの内5発が与那国島北北西80km、日本のEEZ(排他的経済水域)内に着弾したとして、日本政府は中国政府に対して抗議。与那国島の漁協は漁の自粛を決め、地元の漁業は8月下旬まで平常に戻らなかった。

しかし中国政府外務省報道官は記者会見で「両国は関連海域で境界を確定しておらず、演習区域に日本のEEZが含まれるという見解は存在しない」と主張した。日本のマスメディアは、EEZ内に弾道ミサイルが着弾したことをことさら大きく強調したが、実は現在、日中間でEEZの境界線は確定しておらず、中国側としては日本のEEZ内にミサイルを着弾させたという認識が無い。この点は重要なポイントだ。

ペロシ氏の訪台は、米国政府の公式な訪問ではない。前述したバイデン会見にもあるように、ホワイトハウスは難色を示している。

米当局者はロイター通信に対し、中国に批判的なペロシ議長の訪台前に、「不必要に挑発的な配備で問題をエスカレートさせたくはない」と語り、偶発的な衝突を望まない米軍は、空母ロナルド・レーガンを台湾近海から一時離脱させた。

しかし、バイデンにはペロシを止められない理由があった。三権分立である。同じ民主党とはいえ、行政の長であるバイデン大統領に、立法の長であるペロシ議長の行動をコントロールすることはできないのだ。

台湾の友人に連絡して実状を聞いた。香港のデモを機に台湾へ移り住んだ私の友人はペロシ氏を歓迎していたが、周りの台湾人の若者たちは「なぜわざわざ中国を挑発するのか?」と嘆く者も多かったという。世論調査では「大歓迎」が24.5% 「まあまあ歓迎」が28.4% 「歓迎しない」が24% と日本のメディアが書くような「熱烈歓迎」というムードとは少し違う現実を感じさせた。

この訪台について、引退を控えたペロシ議長(82歳)個人のレガシー作りととらえる声もあるが、台湾有事の緊張を高め、その後の防衛費倍増など日本国内に与えた大きな影響を考えると、個人のスタンドプレーとは言い切れない「何か」を感じるのは私だけではないはずだ。

沖縄県知事選、ひろゆきの辺野古訪問、裁判勝訴…怒涛の4カ月

9月11日 沖縄県知事選挙で辺野古新基地建設反対を掲げるオール沖縄陣営、玉城デニー候補がゼロ打ち当選。旧統一教会との深い関係が取り沙汰された自民系候補は落選。「玉城氏が知事になると沖縄に中国が攻めてくる」というデマが選挙当日まで飛び交う前代未聞の選挙だった。

9月16日 重要土地規制法運用が閣議決定。

9月20日 同法が施行。沖縄県内の住民の多くが監視、検閲の対象になる懸念があり、辺野古など基地反対運動のテントの撤去や自衛隊配備が進む島嶼部での住民の規制強化が不安視される。

9月27日 安倍晋三元首相の国葬が催される。玉城デニー沖縄県知事は欠席。沖縄県内からは沖縄市の桑江朝千夫市長、座間味村の宮里哲村長、そして与那国町の糸数健一町長が出席。このうち直接、招待状が届いたのはなぜか与那国町長のみだった。

10月3日 2ちゃんねるの創設者として知られる西村ひろゆき氏が辺野古のゲート前を訪問。座り込み抗議の看板の日付を「0日にした方がよくないですか?」などと独自の見解で揶揄し話題になる。翌日、再び辺野古のゲート前を訪れたひろゆき氏にインタビューしたが、まったく座り込み抗議の本質とズレた指摘を続ける姿に私は呆れた。そこから、ひろゆき氏は連日に渡り、沖縄の基地反対運動に関するデマを含む情報をSNSに投稿。辺野古の抗議運動に関する異常なバッシングが再燃する。

これ以降、高須クリニックの院長や県外の地方議員などが、抗議者のいないタイミングで辺野古のテントに訪れる事案が多発し、11月16日にはマッチと共に「脅迫文」のようなものが発見されたり、今年1月14日、1月29日には件の看板の日数が「1日」に戻される事案も続く。辺野古の座り込みに対する攻撃はネットを飛び越えて現実に始まっている。ひろゆき氏が訪れてから、この場所は標的にされてしまった。

辺野古の座り込み抗議現場を訪れた西村ひろゆき氏。この日以降、沖縄の抗議運動に対するデマや誹謗中傷が激しく加熱する。

ひろゆき氏の言動との直接の関係は不明だが、防衛省は2021年より、防衛費の大幅増額を目指し、ネットなどのインフルエンサー100人との接触を計画していることが明らかになり、省内からも疑問の声が上がっていた。この100人が誰なのかはいまだに明らかになっていない。

また、2022年12月9日には 防衛省が人工知能技術を使い、SNSで国内世論を誘導する工作の研究に着手したことを共同通信がスクープした。記事によると、

【インターネットで影響力がある「インフルエンサー」が、無意識のうちに同省に有利な情報を発信するように仕向け、防衛政策への支持を広げたり、有事で特定国への敵対心を醸成、国民の反戦・厭戦の機運を払拭したりするネット空間でのトレンドづくりを目標としている。】

このニュースには驚愕した。もはや、戦争へと突き進む世論誘導を防衛省は隠さなくなったのだ。

11月3日 イーロン・マスク氏のツイッター社買収によってTwitterのアルゴリズムが変化しユーザーに混乱が生じる。ドナルド・トランプ前大統領のアカウントも凍結が解除された。

11月9日 米国中間選挙。

11月10日 キーンソード日米共同訓練。奄美大島、徳之島、沖縄島、与那国島で米軍約1万人と自衛隊約2万6千人が共同演習開始。

同日 沖縄島八重瀬町の訓練を撮影していた記者が自衛官2名に撮影を制止され、データの削除を求められる(法的根拠なし)。

11月11日 米軍が座間味島の米提供区域外で訓練の準備をしていることが発覚。座間味村の中止要請を受け計画変更。

11月16日 辺野古ゲート前の座り込みテントで「1ヶ月以内にテントを撤去しなければ、我々で強制的に撤去する」という差出人不明の手紙とマッチ箱が発見される。これらは警察に提出された。

同日 与那国島で自衛隊と米軍が初の合同演習。民間空港に降り立った戦闘車両が初めて公道を走る。また2015年の自衛隊配備に関する住民投票の際は説明されていなかった、米海兵隊による自衛隊との合同訓練も実施された。

11月17日
日中首脳会談 岸田首相と習近平主席がタイで会談。「建設的かつ安定的な関係」の構築に向け、首脳レベルを含めあらゆるレベルで緊密に意思疎通を行うことで一致したと外務省が発表する。日中防衛当局者間の「ホットライン」を2023年春をめどに設置することで一致し、自衛隊幹部もこの予定について歓迎を示した。

11月30日 与那国島ミサイルの着弾を想定した避難訓練。

12月8日 私、大袈裟太郎こと猪股東吾が産経新聞との名誉毀損訴訟で勝訴。この際、産経新聞側が、幸福の科学の関連団体が作成した動画を証拠として提出(なぜこの動画が重要かは後述)。

12月16日 政府は安全保障政策の指針「国家安全保障戦略」についての安保関連3文書改定を閣議決定。これにより敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が可能になるなど、専守防衛を基本としてきた戦後防衛政策の大転換となる。
また、防衛予算は現在のGDP比率1%から2%へと倍増が予定され、防衛費は年間約11兆円。米中両国に次ぐ世界3番目の軍事予算となる。

12月20日 石垣市議会が今年3月に完成する自衛隊石垣駐屯地への長射程のミサイル、いわゆる敵基地攻撃能力を持つミサイルの配備を「容認しない」とする意見書を野党、中立の賛成多数で可決。

12月22日 政府は原発の60年超運転や次世代型原発への建て替えを柱とする基本方針を決定。東日本大震災時の原発事故以降の方針の大転換なり、原発への攻撃リスクを考えると、防衛費倍増との矛盾を感じるものだった。

12月29日 黒柳徹子氏のテレビ番組「徹子の部屋」に出演したタレントのタモリ氏が「来年はどんな年になるか?」との質問に「新しい戦前になるんじゃないですか」と答え、ネット上で物議を醸す。

2023年1月4日 与那国町長は島民避難のためのシェルター設置を政府に対し申し入れる予定を発表。

同日 玉城デニー沖縄県知事は、自治体外交による東アジア情勢の緊張緩和、並びに経済の活性化を視野に入れ、県庁内に地域外交室を設置することを発表。4月から運用が予定される。

1月10日 米軍が沖縄に「離島即応部隊」いわゆる海兵沿岸連隊(MLR)を創設する方針を日本政府に通達したことが明るみになる。

1月12日 鹿児島県西之表市馬毛島の自衛隊基地着工。この基地は米軍も一部を共同使用する見込み。建設反対を掲げ当選した西之表市・八板市長は賛否を明言していないものの、すでに米軍再編交付金の受け取りを決定。反対する市民から反発が強まる。

1月11日 日英首脳会談。「日英円滑化協定」に署名。日英共同訓練の手続きを簡素化。「100年前の日英同盟以来の重み」と政府関係者が証言。

1月13日 日米首脳会談。岸田・バイデン政権下に防衛費倍増が決定されたが、この計画自体は2018年、安倍・トランプ会談ですでに約束されていたものであることは特筆すべき事実だ。

1月18日 宮古島、下地空港の米海兵隊による使用申請を沖縄県が拒否。訓練予定は撤回となる。

1月21日 那覇市にてミサイル避難訓練実施。

1月23日 通常国会招集。岸田内閣の支持率は過去最低の28.1%で危険水域とされる30%を下回る。防衛費増額や敵基地攻撃能力の保有など、安全保障政策の国民への説明が「不十分だ」との答える人が8割を超える(ANN調べ)。また、岸田首相の施政方針演説から「沖縄に寄り添う」との文言が削除された。

1月24日 台湾・蔡英文総統がローマ教皇に対し、「中国との戦争は選択肢に無い」との書簡を送っていたことを公表。

1月26日 米軍グアム新基地開局式。在沖米海兵隊の約3割にあたる4000人が2024年から移転を開始する。この基地建設に日本政府は約30億ドル(約3890億円)の資金協力をしている。

「戦争の足音がする。」そのような言い方をSNSで頻繁に見かけるようになるし、沖縄に暮らしているとそれを痛切に感じるのは事実だ。しかし、その空気にはどこかシナリオがあるような、あらかじめ決められたレールの上を走っているような不自然さも漂ってはいないだろうか。細かく時系列を追うと、日中のホットライン設立など、「軍靴の音」を遠ざける試みも行われているが、それが報道される割合は非常に少なく感じる。

石垣島、民意を問うことなく進む基地建設

昨年末、私は2年ぶりに石垣島へ飛んだ。今年3月に開設予定の自衛隊ミサイル基地建設が急ピッチで進んでいる。建設開始当初の2019年以来、コロナ禍を挟み、久しぶりに訪れることができた。

街には「コロナ禍を終えた」との雰囲気で観光客が戻り、年末年始とも重なって、宿泊施設の予約が困難なほどに賑わっていた。その光景は、報道にあるような台湾有事の危機とは矛盾して感じられた。

ただ、自衛隊建設の話になると、公の場ではたいてい皆、小声になる。人口5万人の島だ。親戚や友人関係など複雑に絡み合う中で、簡単に賛成反対などと口にすることはできない。その空気はこの2年来ない間に強くなっており、私が暮らす名護市(辺野古新基地建設を抱える)とも似た重苦しさを感じる。

この島では本来、行われるはずの住民投票が今も行われないままだ。

2018年10月31日からの1ヶ月間に「石垣市住民投票を求める会」の若者たちは、有権者の約37% 14,263筆の署名を集め市長に提出した。これは‘石垣市平得大俣への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票’という趣旨で集められた署名で、自衛隊配備自体の賛否を問うものではない。住民投票の会は、賛成反対の対立ではなく島のために議論をしよう、建設地選定のプロセスへの疑問など、現実を見つめて意見を出し合おうという試みだった。人口5万人の狭い島の中で、島民同士の対立を避け、共同体を守ろうとする丁寧な配慮を感じた。

この署名数は自治基本条例が義務付ける有権者の4分の1という署名数を大きく上回り、市長の得票数にさえ匹敵する(選挙によっては上回る)ものだ。

しかし、2019年2月1日に石垣市議会は住民投票の開催を否決した。その際、中山石垣市長はこう答えている。「安全保障は我が国全体に影響を及ぼすことですので、一地方自治体の住民投票で決めるのはそぐわない。適切な判断をしていただいたと思います」

住民投票をすれば、あたかも自衛隊反対票が上回るような口ぶりに違和感があった。まして前述のとおり、この住民投票自体は、自衛隊配備の賛否を問うものではなく、あくまで平得大俣への配備を問うものなのだが……。

住民投票拒否直後の3月、自衛隊基地建設は着工された。県の環境アセス条例が4月に改定される前に駆け込んだ形だ。地域住民への説明や正当な法的手続きから逃れるようにして、工事は開始されたのだった。

2019年3月1日、着工の日も私はこの場所にいた。蝶が飛び回る森のなかに重機の音がけたたましく響き渡る。そこに集ったのは、政治運動には慣れていない、長靴を履いたままの、さっきまで農作業をしていたといういでたちの地元の農家の方々だった。この場所の周辺地域はマンゴーやパインの農園が広がる島内有数の耕作地帯である。何世代もかけて島の人々が切り拓き、守ってきた豊かな土壌なのだ。切実な表情が胸に迫る。泣き出す人もいた。

「軍は住民を守らない。基地の配備自体がこの島を危険にさらしてしまうのではないか」住民たちの想いは、悲惨な沖縄戦の実体験に基づいている。

第二次大戦下、この石垣島は地上戦こそなかったものの、島にあった飛行場を中心に英米軍による空襲や艦砲射撃を受けた。8千人もの日本兵が配備され、食糧の強奪や家畜の無断屠殺も行われた。13歳以上の少年たちも鉄血勤皇隊として徴兵され、爆弾をかかえ米軍車両突撃する特攻訓練を強いられた。女学生たちも看護要員として動員され「琉球人、琉球人」と馬鹿にされながら重労働に従事した。さらに、日本軍によって山間部に強制疎開させられた住民たちはマラリアに感染し、3500人以上、島民の2割以上が死亡した壮絶な歴史がある(総務省資料より)。

また、あまり公にされることはないが、日本陸軍向けの慰安所もこの島には数カ所設置され、日本の植民地下にあった韓国、台湾人女性、そして地元・石垣、八重山の女性たちも1日100人から200人の日本兵を相手に性行為を強制されたとの証言がある。

「祈りなしでは平和は来ないと思います。祈りだけでも平和は来ないかもしれませんが皆さんと一緒に祈らせていただきます」

山里節子さんの即興歌「とぅばらーま」が悲しみとともに亜熱帯の木々を揺らしていた。84歳になる彼女も、母をマラリアで失いながら沖縄戦を生き延びた歴史の証人である。

命と暮らしを守るオバーたちの会 山里節子さん、2019年3月

基地建設が進む地域は於茂登岳の麓にあり、島民の生活に欠かせない水を育んできた水源地でもある。環境アセスメントを逃れて工事が始まったことで、水質への影響の懸念も払拭されないままだ。

「しかしなぜこの場所が選ばれたのか?」防衛局から住民への説明がなされていない現状に人々は大きな不信感を抱いていた。

この場所への自衛隊配備を知ったのは、地元住民ですら新聞紙面によってだった。

自衛隊配備のキャスティングボードを握ったのはある宗教団体だった

石垣市、自衛隊建設地に貼られた幸福実現党のポスター 2019年

自衛隊のミサイル基地建設地には、工事開始前にあった「ジュ・マール ゴルフガーデン」の看板がかかったままだった。元々はグランドゴルフ場として観光客で賑わい、敷地内のガジュマルの前で安室奈美恵さんのMVが撮られたことでも有名だった。2019年8月に訪れた際、工事が進む区域に幸福実現党のポスターが貼られていることに気づいた。この土地の所有者が幸福実現党推薦の石垣市議、友寄英三氏であることがわかるまで時間はかからなかった。市議の友寄氏が、あろうことか住民投票案が否決される前日の2019年1月31日に、この土地を防衛省に売却、一部を賃貸契約したことが地元紙のスクープで明らかになった。

2月1日の石垣議会で住民投票開催案は否決され、もちろんこの決議に友寄議員は反対票を投じている。賛成反対が同数となり、議長の一票で否決となったのだが、このうちの反対の一票はすでに前日に防衛省と土地の契約を交わした利害関係者の一票であったことには愕然とせざるを得ない。

国防や安全保障の名の下に、一部の自民党議員やその関連企業が工事を受注する利権構造は、辺野古の基地建設でも度々指摘されてきた。自民党比例復活の國場幸之助議員の血縁である國場建設や、前衆議院議員下地幹郎氏の血縁の大米建設が辺野古の工事を受注しているなど、露骨な例は枚挙にいとまが無い。辺野古の工事受注業者の約8割が防衛省職員が再就職、いわゆる天下り先となっている事実もある。

しかしこの場所の自衛隊配備には、防衛省と政権与党である自民党に加え、霊言と称し非科学的な言説を流布して信者を獲得している宗教団体・幸福の科学が深く関わっていた。自民党政権と宗教団体との癒着は旧統一教会だけではないのだ。防衛省が行った住民への説明会には多くの信者たちが集い、防衛官僚の発言に拍手喝采を送っていたとの証言がある。

前述の通り、友寄市議は幸福実現党の推薦を受けている。石垣市の幸福実現党支持者≒幸福の科学信者の実数は、国政選挙の結果から110人─120人前後と算出できる。

単純計算だが、この票数がなければ友寄市議は落選してしまう。石垣島の自衛隊配備、住民投票否決のキャスティングボートはこの100人の幸福の科学信者によって握られてしまったとも感じられる。

ちなみに、この石垣市の市長である中山氏も選挙の際、自公維新に加え幸福実現党の推薦を受けている。自治体の長が幸福実現党の推薦を受けているケースは調べても他に例がない。

2019年、工事着工直後の自衛隊ミサイル建設地

自治基本法改正で「住民投票」削除という暴挙

議会が住民投票の拒否という民意無視の決断を下し、その行方は市長に委ねられたが、市長もこの実施義務を履行しなかったために、この問題は裁判闘争に発展した。

「地方自治体の憲法」とも呼ばれる自治基本条例がこの住民投票の根拠となったが、2021年6月28日、石垣市議会はこの自治基本条例から「住民投票」の項目を削除した。委員会での審査手順を踏まずに本会議で採決された。

この提案者も、幸福実現党推薦の友寄市議だった。さらに、石垣市内で講演を行うなどした「自治基本条例に反対する市民の会」の会長は、あの「在特会」でヘイトスピーチを繰り返した人物だった。

「市政に外国人を含むプロ市民や活動家が介入する」自治基本条例改正への世論誘導はこのような、あたかも外国人が市政を乗っとるかのような事実に反する根拠に基づいて行われ、石垣市に属する尖閣諸島の危機と結びつけて語られていた。

住民投票の根拠となる条例は奪われてしまった。民意へのあからさまな狙い撃ちと言ってもいい事態だった。

法廷闘争が継続する中も自衛隊基地建設は「粛々と」進んでいった。

2022年末、石垣島、平得大俣。自衛隊基地建設は猛スピードで進んでいた

2022年末、2年ぶりに訪れた自衛隊基地建設地。様々な問題を置き去りにしたまま工事は進み、完成が近づく。亜熱帯の森の変わり果てた姿に愕然とさせられた。辺野古や宮古島の基地で見られる弾薬庫の姿もあからさまに目視できた。

防衛省はこのミサイル基地を誘導弾基地と説明し、石垣市長も専守防衛を目的とした基地だと議会で答えたが、安保3文書が改正され反撃能力(敵基地攻撃能力)を有することが現実となった今、これらの言説の整合性は曖昧なものとなってしまった。

石垣島に移住し10数年になる、ある男性は言う。

「この島には、集落の人以外が入れない秘祭があったり、神秘的な部分もある。移住した当初はそういうものが怖かったが、この島で暮らし慣れ親しんだ今はむしろ、あの中(基地)のほうが何が行われているかわからなくて怖い」

「基地配備が島民の安全を守る」のか、「基地配備によって島民が戦火に巻き込まれる」のか、多くの人に島民に話を聞いたが、その議論から一歩奥に入ると皆、「台湾有事」や「国防」という大きなテーマの影に地方自治や民意が隠されていくことに不安を感じているようだった。

そこにはやはり「軍隊は住民を守らない」という先の大戦の実体験があるのは明白だった。有事の際の住民避難のロードマップが示されぬ中、防衛省は建設中のミサイル基地に「住民避難の目的はない」ことを明言した。これはこの基地配備が地域住民の安全のためのものではなく、国土防衛のためのものであることを暗に示している。

「自衛隊幹部は【住民の保護は自治体の責任である】としてこの基地が住民を守らないことを明言にしているのに、防衛省や政治家はあたかも住民を守るための基地であるかのように喧伝してきた。この欺瞞は恐ろしい。シェルター建設の話もあるが、防空壕だと素直に言えばいい。時代が逆戻りしただけだ」

石垣在住の60代男性は怒りに震えていた。

「ウクライナとロシアの戦争を根拠に防衛費倍増の世論は高まりましたが、ロシアが最初に攻撃し占領したのは、軍事基地と原発でしたよね。」

石垣在住のある30代の女性は冷静な口調で私に語ってくれた。

沖縄、琉球孤の島々は再び「本土防衛の捨て石」にされる。この疑念を払拭できる説明や合意形成を防衛省や与党政治家は、今も行わないままだ。

危機感のなか、シェルター建設案も話題に上るが、5万人が一度に避難できるシェルター建設には現実味が無い。

住民投票案に賛成したある石垣市議は言う。

「私も確かに中国には怖い面があると思います。しかし、戦争こそもっとも怖いもの、避けるべきものです。私は市議という立場を活かして、自治体単位で台湾や中国に外交し、小さくても個人たちの力で戦争を遠ざける試みを始めていこうと思います」

若き地方議員の眼に勇気を見た。その言葉は玉城デニー沖縄県知事が発表した地域外交室の理念とも一致する。先頃、岸田総理は国防のための「決意」を国民に求めるとの報道があったが、今、この国に生きる我々がするべき「決意」とは、まずこのように戦争を遠ざけるための「決意」ではないだろうか?

「非戦」こそ、最大の国防である。それはこの島々の歴史を正確に理解すれば、明らかなものだ。

私は防衛自体は悪いことだと思わないし、日米安保にも反対していない。しかし、「国防」や「有事」、隣国の「脅威」の名の下に、人々が思考停止し、当たり前の権利や地方自治、民主主主義に関する手続きがないがしろにされる現状もまた「脅威」だと考えている。今、したいのはそういう細かい話だ。果たして住民との合意形成なく配備された軍隊に住民を守ることができるのだろうか。今回の取材を通してあらためて大きな疑問が芽生えた。

「石垣市 住民投票を求める会」の裁判は今年5月に判決予定だ。ぜひ全国から広く注目してほしい。私たちの住む国がこれから何を目指し、何を失うのか、それが露わになる重要な判決になるはずだ。

2022年末、ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏、映画監督のミキ・デザキ氏らが石垣島を訪れトークライブをした。普段、なかなか口に出せない基地関連の話題を笑いに昇華し、人々は笑顔にあふれた

石垣島のミサイル基地はまもなく3月に開所予定だ。運用が始まれば自衛隊関係者約500名がこの島に移り住み、人口の1%を占める。選挙にもこの影響は大きく、防衛省の意に反する民意はより反映されなくなる危惧がある。

私は正月早々、与那国島へ飛んだ。

2015年に自衛隊レーダー基地が配備された日本の最西端、国境の島は、すでに人口の15%を自衛隊関係者が占め、事実上、民意が機能しなくなってしまった。

そこで見た与那国島の地域コミュニティの変容については、また次回に続く。

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