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ステージ3の大腸癌を乗り越え、翌年にはフルマラソンを完走「走ることで精神的に救われた」プロランニングコーチが明かす”年齢を重ねても走り続けるコツ”

集英社オンライン / 2023年2月12日 14時1分

コロナ禍で運動不足解消のために走り始める人が増えているが、年齢を重ねても走る続けるには、なにが必要なのか。ランニングに関する執筆も数多い南井正弘氏が元陸上選手でプロランニングコーチの金哲彦さんら15人に話を聞いた『人は何歳まで走れるのか 不安なく一生RUNを楽しむヒント』より一部を抜粋、要約してお届けする。

マラソンや駅伝のテレビ中継において、決して欠くことのできない存在として、長きにわたり活躍している金哲彦さんを、ランナー以外でも知っている人は少なくないと思います。金さんは、日本で最も著名なランニング関係者の一人といっても過言ではないでしょう。



金さんは2006年に大腸がんが見つかったものの、早期の手術もあり、翌年にはフルマラソンを完走。健康を取り戻し、58歳の現在、数々のランナーのための活動を続ける傍ら、自らも走り続けています。そんな金さんに、年齢を重ねても走りつづける理由、走り続けるためのアドバイスをお聞きしました。

病気は公表していなかった

――今から約16年前、金さんにとって2006年は大腸がんの発見、手術、回復、そして翌年にはフルマラソン完走という、人生としてもランナーとしても大きな転機となった時期だと思いますが、そのときのことを教えていただけますか?

長野県の小布施見にマラソンにゲストランナーとして招待され、ハーフマラソンを走った帰りの新幹線で大量に下血しました。知り合いの看護師さんに内科のクリニックを紹介され、大腸の内視鏡検査を受けると、大腸がんが見つかりました。

内視鏡検査から10日後には手術が行われ、S状結腸の大半と、周りのリンパ節が切除され、ステージ3と判定されましたが、先生いわく、「かなり以前にステージ1や2の自覚症状があったはず」とのことでした。

元スポーツ選手の悪いところで、健康には人一倍自信があるから、自分が病気になると思っていなかったのです。

「走ることで精神的に救われた」

――病気になったあとは食事内容を始めとしてライフスタイルは変えましたか?

病気になるまで何年間かは、ベッドでパソコン仕事をしたり、缶酎ハイを飲んだりを毎日のように続けていました。それによって、いつもお腹が冷えている状態だったと思い、これがよくなかったかと。まず、こうした悪い生活習慣を改め、とにかくお腹を冷やさないことを心がけるようになりました。

お酒は今も飲みますが、寝る前に飲むことはやめています。お茶やコーヒーはカフェインが入っているので避け、寝る前に白湯を飲むこともあります。食生活に関しては、病気になってから野菜を食べる量が増えました。

――手術後はどのようなタイミングで走ることを再開しましたか?

術後5年を経過するまでは不安な気持ちが残っていました。しばらくは再発を心配していましたが、あえて抗がん剤は使用しなかったです。

術後半年くらいからある程度走れるようになったものの、最初は1kmを7分30秒で10分くらいが精いっぱい。自分でも「脚が細くなったなあ……」と思っていました。

病気が病気なだけに、ついつい生死のことばかり考えてしまうときもありましたが、走っている間はそのことを忘れられる。走り終わったときにはちょっとした達成感を得られましたし、脚が痛かったり、疲れを感じることが、生きているということの証しだと思えて、嬉しかったですね。

この当時、走ることで精神的な部分はかなり救われました。

最初にレースに復帰したのは2007年1月の館山若潮マラソン。それまで参加していたフルマラソンの部ではなく10kmの部をゲストランナーとして走りました。 10kmという距離が本当に長く感じ、術部やその周囲は時々痛みましたが、ゲストとして招待された立場だから辛い顔もできません。大腸がんのことを公表したのは、発見の3年後なので、そのときは病気のことは誰も知らなかったですし。

それからも走ることを続け、病気発見の11か月後の2007年7月に開催されたゴールドコーストマラソンで、フルマラソンを完走。さらに2009年11月のつくばマラソンではサブ3(3時間を切る)を達成するくらい走れるようになりました。

「フルマラソンでサブ3を達成したら周囲も心配しないだろう」という思いはありました。

一番になれないのなら走らない⁉

――同じように大病をして、再び走ろうとしているランナーにアドバイスはありますか?

一般の人が大病して、もう一度走れるようになったら、タイムは求めなくていい。もう一度走ろうと思ったこと、スタートラインに立ったことだけで充分に凄い。タイムはともかく、どんなレースでも完走したら素晴らしいことですよ。

――今現在、加齢を感じることはありますか?

はい、あります。まず感じるのは以前よりも走るスピードがなかなか上げられなくなりました。明らかに筋力の低下です。あとは、アキレス腱などに痛みが出ることがあるのですが、若い時と違って、なかなか回復しません。

30代、40代の頃なら一度治療に行けば治っていたのに、今は二度三度と通わないといけなくなりました。自己治癒力は確実に落ちています。あとは代謝が落ちているから食べられる量が減りました。

――何歳まで走っていたいですか?

それはいつまでも走っていたいです。現役引退後に教えることを仕事にしてからも、実業団のコーチのときこそ、選手と同じペースで走ることはできなかったですが、市民ランナーを対象としてからは、自分もいっしょに走るようにしてきました。

最近、自分が出演しているテレビ番組に60代女子マラソン最速ランナーの弓削田眞理子さんに出演していただきました。58歳でサブ3、60歳で世界記録を樹立した彼女の努力が凄い。なかなか真似できないと思いましたが、自分は違ったスタイルで、これからも走り続けていきます。

私にとって「走る」ことは仕事でもありますが、これまで生きてきた人生において、一番のベース、つまり土台になっている存在なのです。

――自分の周囲では3大駅伝を走ったようなトップレベルにいた人ほど、現役引退後は走ることをやめてしまっているのですが、その理由は何だと思いますか?

長い間、辛い練習を続けてきたランナーの多くは、現役を引退した瞬間に「解放された!」という気持ちになるでしょうね。だから現役をやめたあとは走ろうという気にならないかもしれません。大学時代の同級生7人のうち、今でもフルマラソンを走っているのは私だけです。

勝負の世界で生きてきたから、負けるのが嫌というのもあるでしょう。トップレベルで走ってきただけに、市民ランナーに抜かれるのは本当に悔しいです。

あとは、スポーツ選手の多くは、いつも一番になることを目指して長年競技を続けてきたから、それが無理だとわかった時点で、ランナーなら「もう走らない!」ということになるのだと思います。

――なるほど。「一番になれないのなら走らない!」というのはトップを目指して子どもの頃から努力を重ねてきたからこそ、そういった考え方になるのですね。自分たち市民ランナーとは全く違ったランニングとの接し方だから、とても興味深いお話です。


取材・文/南井正弘 写真/shutterstock

人は何歳まで走れるのか? 不安なく一生RUNを楽しむヒント

南井 正弘

2023年1月26日発売

1,540円(税込)

四六判/160ページ

ISBN:

978-4-08-781728-7

年を重ねても楽しく走り続けるには?
スポーツシューズの進化を追いかけてきた男が、ヒントを探る旅に出た。

99歳現役ランナー、君原健二、金哲彦、高橋尚子、茂木健一郎、フル2時間30分の管理栄養士、ランニングドクターなど、先駆者やプロに、「加齢とRUNの気になる関係」を聞く!
スポーツシューズに関わって34年の著者が、これまで試したシューズは1000足以上。その比類なき知識と情報量でシューズの変遷と選び方を語る。レース愛好家、ファンランナー、これから走りたいビギナー、すべての中高年ランナーの背中を押す!

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