その昔、日本の映画会社・大映の社長だった永田雅一は、製作にゴーサインを出すかを決める企画会議で、1分以内に説明できない企画はそれだけでボツにしたという。一般大衆は小難しい理屈など抜きに、単純に娯楽としての映画を欲している。つまり、社長に1分以内でその映画のあらましや売りのポイントを説明できないようでは、お客だって安心してチケットを買ってくれないはず、というわけだ。
その意味で “ワンシチュエーション・サスペンス”は、まさしく昔ながらの映画の醍醐味を凝縮したジャンルだと言える。今回は、そうした作品の数々をご紹介しよう!
Hey! Say! JUMP中島裕翔の新作も! 絶体絶命・単純明快な設定と意外な結末がおもしろすぎる、ワンシチュエーション・サスペンス映画5選
集英社オンライン / 2023年2月10日 18時1分
現在公開中の『#マンホール』は、Hey! Say! JUMP中島裕翔が主演のワンシチュエーション・サスペンス。娯楽映画のジャンルとして高い人気を誇る、同ジャンルの傑作5本を紹介する。
1分で説明できる単純明快さがカギ
思いもよらない結末になだれ込む傑作!
『#マンホール』(2023)上映時間:1時間39分/日本
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©️ 2023 Gaga Corporation/J Storm Inc.
初めに紹介するのは、Hey! Say! JUMPの中島裕翔が6年振りに映画の主演を勤めた『#マンホール』(2023)。
主人公の川村は、営業成績トップで、社長令嬢のハートも射止めた超ハイスペック・サラリーマンで、みなの羨望を一身に集める男。明日はいよいよ結婚式という前夜、渋谷で開かれたサプライズのバチェラー・パーティで酩酊し、帰り道でマンホールの穴に落ちてしまう。
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©️ 2023 Gaga Corporation/J Storm Inc.
穴の底で深夜に意識を取り戻した川村は、脚に怪我をしていてうまく身動きが取れず、しかもハシゴは壊れていて地上に出ることは不可能。持っていたスマホのGPS機能で、場所が渋谷近くの神泉だとわかるが、警察に電話してもまともに取り合ってもらえず、どうやらGPSが誤作動していて全然違う場所にいるらしいとわかる。
ということは、誰かにハメられて、意識混濁の中で別の場所に連れ去られたのか?
一計を案じてSNS上で助けを求めるべく、若い女性の方が注目を引くはずと考えて“マンホール女”のアカウントを立ち上げてネット民たちに場所の特定と救出を求めるのだが……と、“ワンシチュエーション・サスペンス”の王道を行くストーリーが展開されていく。
だが、なのだ。この映画のキモは、実はこの“ワンシチュエーション”の背景で、当初観客が思っていたのとは全く異なる事実が次第に明るみになっていく点にこそある。
ネタバレに繫がることは書けないが、なぜ川村はハメられることになったのか? そもそも川村という男がみなが羨む超ハイスペック・サラリーマンになれたのはなぜなのか? そういった謎の答えが、閉鎖空間に一緒に閉じ込められた感覚で、観客に薄皮を一枚ずつ剥いでいくように提示されていく。
“ワンシチュエーション・サスペンス”から、思いもよらなかった結末へと一気になだれ込んでいくストーリーは、『ライアー・ゲーム』(2009・2012)シリーズや『マスカレード・ホテル』(2018・2021)シリーズの岡田道尚による原案・脚本。演出は『海炭市叙幕』(2010)や『私の男』(2014)の熊切和嘉と、いやが上にも期待をもたせるが、その期待のさらに上を行く、面白さに満ちた1本なのだ!
乗客満載の旅客機操縦室に小型機が衝突!
『エアポート’75』(1974)Airport 1975 上映時間:1時間47分/アメリカ
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Everett Collection/アフロ
1970年代のハリウッドでは、“パニック映画”というジャンルが大流行した。豪華客船が転覆して天地が逆になってしまう『ポセイドン・アドベンチャー』(1972)、超高層ビルの火災を描いた『タワーリング・インフェルノ』(1974)、人を襲う巨大サメの恐怖を描いた『ジョーズ』(1975)といった作品群だ。
それらの中で、最も手に汗握る“ワンシチュエーション・サスペンス”だったのが、『大空港』(1970)に始まるエアポート・シリーズの第2弾『エアポート’75』(1974)だ。
数百人の乗客を乗せた大型ジャンボ・ジェット機=ボーイング747の操縦席に、心臓まひでパイロットが死亡した小型機が衝突。前面ガラスが破壊され、副操縦士は機外に放り出され、機関士も即死、機長は重傷を負って全く操縦不能になってしまう。
パニックに襲われながらも操縦桿を握るのは、チーフ客室乗務員のナンシー(カレン・ブラック)。もちろん、ジャンボ・ジェット機の操縦方法など知っていようはずもない。地上の管制塔からの指示で何とか山との衝突は避けることができたものの、着陸させるにはどうしてもパイロットを送り込まなくてはならない。さあ、どうする!
この事態に地上では緊急対策会議が開かれ、数千フィートの上空でジャンボ機と同速度にしたヘリコプターから空軍パイロットをロープで降ろして、破損した穴から操縦席へ送り込もうとするがあえなく失敗、パイロットは落下してしまう。
パイロット送り込みに失敗したヘリコプターには、操縦桿を握るナンシーの恋人マードック(チャールトン・ヘストン)が乗っていた。さあ、マードックは恋人を含む数百人の乗員・乗客の命を救うべく、ジャンボ機に乗り移ることができるか……という単純明快なシチュエーション。
乗客には様々な問題を抱えた人たちが乗り合わせていて、それらを大勢の有名スターたちが演じる、という“グランドホテル形式”となっていることも、こうしたパニック映画のお約束だった。
路線バスに仕掛けられた爆弾はスピードが落ちると爆発!?
『スピード』(1994)Speed 上映時間:1時間55分/アメリカ
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Everett Collection/アフロ
日本でも大ヒットした、キアヌ・リーヴス主演の『スピード』(1994)もまた、手に汗握る“ワンシチュエーション・サスペンス”の典型的な成功例だった。
警察官が爆発物処理中の怪我で退職を余儀なくされ、十分な補償もないことを逆恨みして警察に挑戦してきたという設定だが、彼が路線バスに仕掛けた爆弾は、時速80kmを超えると安全装置が解除され、その後はその速度を下回ると爆発する。
疾走するバスには様々な乗客がいるが、LA市警SWATチームのジャック(キアヌ・リーヴス)が飛び乗った際に、不法滞在の自分を逮捕しに来たと勘違いした乗客が発砲したため、運転手が負傷。乗客の女性アニー(サンドラ・ブロック)がハンドルを握る羽目に。
スピードを落とせば即爆発してしまう状況の中、高速道路に入ることに成功したものの、行く手には工事区間で15メートルもの道路寸断箇所があると判明!
アニーにスピードを上げさせ、15メートルの隙間を飛び越えることに成功したジャックは、犯人が車内の様子を把握するために仕掛けていた監視カメラを発見。車内の様子を録画してそれをループ再生で流すことで時間を稼ぎ、乗客らをひとりずつ脱出させようとするが……という具合に続いていく。
監督を務めたヤン・デ・ボンはこれが初監督だが、元々は撮影監督を務めていた人だから、疾走感あふれる映像はお手の物。爆弾魔に扮したデニス・ホッパーの怪演もあって予想外に完成度の高い傑作に仕上がった。
製作費は3000万ドル程度だったと言われているが、結果的に全世界で3億5000万ドルを超えるヒットとなり、“ワンシチュエーション・サスペンス”の面白さがツボにはまったときの代名詞のような成功作となった。
誰もいない砂漠の真ん中で身動きできなくなったら!?
『127時間』(2010)127 Hours 上映時間:1時間34分/アメリカ・イギリス
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Everett Collection/アフロ
『トレインスポッティング』(1996)のダニー・ボイル監督が、アカデミー監督賞に輝いた『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)に次いで製作・監督・脚本を務めた『127時間』(2010)。サバイバルのために究極の選択を迫られることになった主人公の孤独な戦いを描く。
物語は、金曜の夜にユタ州のキャニオンランズ国立公園に出かけた主人公アーロン(ジェームズ・フランコ)が、周囲に人っこひとりいない砂漠の真ん中の巨岩地帯スロット・キャニオンで、キャニオニング中に岩と共に滑落してしまい、右腕が岩と壁の間に挟まって身動きが取れなくなってしまうという展開。
助けを求めて叫んでも誰もいない。持っているのはボトル一本の水と僅かな食糧、そしてナイフだったが、ナイフで岩を削ろうとしても全く無駄だとわかる。
そして5日が過ぎ、木曜の朝、もうろうとする意識の中で彼は、持っていた短いナイフで腕を自ら切断するしか助かる道はないと覚悟する。
驚くべきことは、本作は登山家アーロン・リー・ラルストンの自伝に基づいて製作されていて、つまりはほぼすべてが実話だということ。
ダニー・ボイル監督は、本作のことを「動かないアクション映画」と評しているが、自伝に基づいているのだから最後は助かるに違いないとわかってはいても、絶望的な状況に見ている側も焦燥感に苛まれること必定だ。
痛いのが苦手な人は、痛さを疑似体験させられるようで辛いかもしれないが、エピローグに登場する実際のアーロンの映像に、人間の持つ底知れぬ生命力に感動させられる!
高さ600mの電波塔のてっぺんに取り残された!
『FALL/フォール』(2022)Fall 上映時間:1時間46分/アメリカ
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© 2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
最後に、まさしく“ワンシチュエーション・サスペンス”の見本のような、現在公開中の『FALL/フォール』(2022)を紹介しよう。
フリークライミング中に、目の前で夫が落下死してしまってから、悲しみのあまり酒におぼれて1年を無為に過ごしていたベッキー(グレイス・フルトン)。彼女の元に、“デンジャーD”のハンドルネームで映像配信をし、フォロワー6万人を持つ親友のハンター(ヴァージニア・ガードナー)が訪ねてくる。
ハンターは、今は使われていない地上600メートルのモンスター級テレビ塔にふたりでクライミングし、ベッキーから事故以来の恐怖心を取り除き、立ち直らせようと計画していた。老朽化して足場が不安定な梯子を上り続けて、ふたりは何とか頂上に到達することに成功したものの、頂上に至る唯一の移動手段だった梯子が崩れ落ちてしまい、下に降りることができなくなってしまう!
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© 2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
梯子崩落の際に、持っていた水のボトルの入ったリュックを10数メートル下のパラボラのところへ落としてしまい、水分補給もできない。しかもスマホは持っていたものの、高度が高すぎて電波は届かない! この絶望的なシチュエーションの中で、ふたりは下界に状況を伝えて助けを呼ぶことができるのか?
限られた舞台設定と限られた登場人物で、わずか300万ドル以下の製作費で作られた本作。人里離れた山頂に20メートルの高さのセットを組んだ撮影ゆえに、リアリティがあり、低予算を感じさせない。ちなみに高所恐怖症の俳優はオーディション段階で脱落したという。
ネタバレになるので詳細は見てのお楽しみだが、本作にも、後半になってあっと驚く予想外の展開が待ち受けている。それは“ワンシチュエーション”を覆す類の禁じ手ではないものの、見る者を思わず唸らせる脚本のうまさとして心に残る。この冬必見の、手に汗握るサバイバル・サスペンスだ!
文/谷川建司
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