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「噺の稽古をつけてほしいと言われるのは、あなたの人間性が好きです、人間をくださいと言われてるようなものなんです」月亭方正×漫画『あかね噺』作者特別鼎談

集英社オンライン / 2023年2月20日 11時1分

「週刊少年ジャンプ」本誌にて実施された、人気漫画『あかね噺』の末永裕樹(原作)・馬上鷹将(作画)と落語家の月亭方正との貴重な鼎談を特別配信。『あかね噺』誕生秘話から、落語家だからこそ感じられた本作の魅力や見どころまで、あますところなく語っている。

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「朱音に嫉妬するほどハマりました」

――まずは連載1周年を迎えた感想をお聞かせください。

末永裕樹(以下、末永) ジャンプで1年続けられた事が、とにかく嬉しいです。その反面、まだ1年ですから、これからより気を引き締めないといけないなという気持ちもあります。

馬上鷹将(以下、馬上) 毎週ドキドキしながら描いてもう1年か…と感じます。ジャンプには10年以上も連載されてる先輩方がいるので、僕もまだまだ続けていくのが目標ですね。



――方正さんは『あかね噺』を読んで、いかがでしたか?

月亭方正(以下、方正) ほんまに面白い! 落語の漫画だと聞いて、最初はあえて読まずにいたんです。「実際の落語ってこんなんちゃうけどな~」って感じてしまいそうだから。

だけどいざ読んでみたら、読んでる間ずっと涙が止まらなかったんです。僕も普通の噺家さんとは違う形で落語の世界に入ったから、つらい事もいっぱいあったし、その思いが蘇ってきたりもして、すごく共感できましたね。

末永 ありがとうございます…!

『あかね噺』が生まれた理由(わけ)

方正 なんで落語の漫画を描こうと思ったんですか?

末永 実は、最初は落語モノをやりたかったわけではなくて。朱音というキャラがまず出来て、この子に何をさせようかと色々考えていく中で、結果的に落語になったんです。

元々私は漫才やコントなどお笑いが大好きで、落語にも興味はありましたが、敷居が高そうで手を出せずにいました。同時に、こういう人は他にも結構いそうだなとも思って。そこから、みんなが気にはなるけど手を出せない落語という題材に魅力を感じたのが一つ。

もう一つは、朱音という子が一番やらなさそうな事をやらせてみたら面白いんじゃないかと思ったんです。その二つを組み合わせて『あかね噺』が生まれました。

方正 じゃあ落語を聞いたのは、その時が初めてですか?

末永 はい。ちゃんと聞きだして、まだ1年ちょっとですね。

方正 そうなんや! ずっと昔からの落語ファンかと思ってました。でもある種、それで客観視ができてるのかもしれないですね。

末永 そう思います。例えばサッカー漫画ならパスやドリブルの説明をしなくても皆わかるけど、落語だと上手と下手で役を演じ分けることから説明しないと、知らない人が大半ですよね。

その点、私自身が素人だから、読者がどこに躓きやすいかわかるし、そこをどう描けばいいのか考えやすいメリットはあります。

――作画面ではどうですか?

馬上 最初にお話を頂いた時、すごく面白いけど、ジャンプ読者が落語に興味を持つかなあ…という不安はやっぱりありました。じゃあそれが僕の仕事だな。この面白い話をよりポップに派手に描こう。キャラにも感情移入しやすくして、落語を知らない人でも読みたくなるように間口を広く描こうと意識しました。

方正 めっちゃ成功してますよね。とにかく朱音ちゃんが溌剌としてるのがいいんです。若くて才能もあって、読みながら朱音ちゃんに嫉妬したり、ライバル心が湧くようなところもありますね。そのくらいハマってしまったので、『あかね噺』もぜひ10年以上続けてほしいです。

馬上 光栄です…がんばります!

緊張感のある落語シーン

方正 僕が好きなのは享二兄(あに)さん。ああいう真面目さ、誠実さが、噺家には絶対に大事だと思うから。噺家って個人商売なので、最後に自分を守れるのは自分しかいないんですよ。そのためには、享二兄さんのような人としての誠実さがないとダメだと思います。

末永 私は練磨家からしです。からしのデザインを馬上さんが上げてくれた時に、それまで掴めきれずにいたからしのキャラを、がしっと掴めた気がしました。そんな経験が初めてだったので愛着がありますね。

馬上 僕は一剣師匠ですね。こんな師匠が阿良川一門にいたら面白いだろうと思って、一剣は何か企んでそうな顔にしたんですよ。そうしたら実際その後出番が増えてうれしかったです。この先何をやってくれるか楽しみなキャラですね。

方正 落語をやるシーンの緊張感がすごいですよね。あれはどうやって描かれてるんですか?

馬上 実際の落語を聞いて、そのスピード感や抑揚を、どう漫画で再現するか考えています。寄りの大ゴマではすごく速いスピードで話してるように見えるし、引きのコマで台詞を小さく多くすると、ゆっくり喋っているように見えます。

そこにスピード線などの効果も混ぜながら、抑揚を出していきます。決めの台詞の前に一度引きの絵で時間が止まったような感覚にさせて、ページをめくったらガッと進めたり。

方正 すごっ…まるで映画監督や。

馬上 高座のシーンはスポーツみたいに描こうと意識してますね。緊張感を持たせつつ、ここが見せ場だ! というシーンを明確に強調して。漫画としての読みやすさと、落語のライブ感を両立させられるように。

――前作『オレゴラッソ』を描いた経験が、そこに活きているんですね。

方正 あと僕が好きなのは、一生の「芸の前に応援があったらあかん。応援は芸の後についてくる」という言葉。あれは気持ちよかったなあ。僕の中でずっともやもや感じていたものを、ズバリ漫画で描いてくれた! って思いました。

末永 とても苦労したシーンなので、うれしいです。私達が落語に何を求めたいのか考えた時に、いわゆる「推し文化」的な、頑張っているものを応援したい欲求よりも、とてつもなくスゴいものを見て感動したい欲求が強いんじゃないか。

そういう理想を掲げている人の方が、向かうべき目標として志が高いんじゃないかという話し合いを、担当さんと密に重ねていきました。決して推し文化を否定するわけでも、応援そのものが要らないというわけでもないので、そこの表現はすごく悩みました。

方正 繊細なところですよね。僕ら噺家は「お客さんに育ててもらう」という言い方をしますが、育ててくれる事と応援してくれる事が一致するとは限らないっていう、その着眼点はすごく面白いです。

気働きの話もいいですね。僕にも弟子がいて、最初はずっと落語落語落語…っていう奴でした。それで「違うで。人間的に成長せんかったら最初だけや。小器用に落語やって上手いと言われても、その先の深みなんて出えへんで」と、よく言いました。

落語って結局、最後は人間やと思うから。その人の人間性を、落語を通して皆さんにお見せする芸なんです。

末永 なるほど…。

方正 大学で講義を頼まれた時に、僕が小噺を学生さん達に教えて、それを皆にやってもらいました。枕もやってええ、肉付けも好きに変えてええから自由にやってみてと。それを聞いたらね、この人はどういう人間なのか、わかるんですよ。これはほんまに落語のスゴいところです。

逆に言うと、めっちゃ怖い芸なんです。裸のその人がべろーんと出ますから。同じネタでも、ある人がやればいやらしくなったり、別の人だとほんわかしたネタになったりします。落語には人間が出るんです。

「噺を教わるという事は人間性をいただく事なんです」

末永 まさに私も今日それを伺いたかったんです。あるインタビューで方正さんが仰っていた「噺を教わるというのは間をいただく事だ」という言葉が、すごく気になっていて。

方正 ある人から噺を教わるのは、その人の「人間性をいただく」という事なんですよ。そんなの普通はできないじゃないですか。でも芸やったら、いただけるんです。

で、その人間性とは「間」なんです。この人はここを面白いと思うからこれだけ間をとるんだ。ここは何も思わないからササっと済ませて行っちゃうんだって、間のとり方で全部わかるんですよ。

末永 なるほど! 芸を模倣する事でその人の思考を追体験して、人間性を知るんですね。とすると、一人の師匠だけでなく色んな方から芸を教わるという事は、色んな人間を知った集合体として、自分の芸が出来上がっていく事になりますよね?

方正 そうですそうです。

末永 とんでもない世界ですね。

方正 すごい世界ですよ。だって普通くれないでしょう、自分の芸を。何百時間もかけて磨いてきた財産ですよ。それを教えてくださいって来られたら、皆さん「おう、やれやれ」ってタダでくれるんです。お願いして僕、断られた事ないですもん。

だから貰った人はちゃんと感謝して、次は自分が下に与えていかないといけません。師匠から頂いた人間性に、自分の人間性も乗っけたものを、今度は僕が下に教えて、下はその下に…ってつなげていくんです。

――そこに惜しがる気持ちなどはないんですね。

方正 いや、正直ちょっとはありますよ(笑)。稽古つけてもらっていいですかと言われたら、僕がこんだけ苦労して作ったモンをあげないかんのか…って少しは思います。だけど、やっぱりうれしいんですね。だってそれは「あなたの人間性が好きです、人間をください」って言われているのと一緒やから。

末永 …すごい名言をいただきました。

馬上 ぜひ『あかね噺』で使いたいから、今の話は誌面に載せないでおいてほしいですね(笑)。

――最後に『あかね噺』ファンの皆さんへ一言ずつお願いします。

末永 たくさんの声援をいただけているのは、この作品の面白さを信頼していただけている事だと思っています。その信頼を裏切らないよう今後も頑張りますので、ご期待ください。

馬上 『あかね噺』から落語に興味を持つのも、落語を聞いて『あかね噺』をより深く楽しんでもらうのも、どっちもアリな作品です。ぜひ両方楽しんでもらえたらうれしいです。

方正 僕自身も読んで面白かったし、『あかね噺』が若い人達に、落語の裾野を広げてくれるのは本当にありがたいですね。漫画で興味を持ったら、ぜひ寄席にも来てほしいです。落語という本当に面白くて素晴らしい世界が、そこにありますから。


取材・文・写真/週刊少年ジャンプ編集部

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